明徳義塾・馬淵監督が詳しく語る「松井の5連続敬遠と清宮への対策」
3月10日に行なわれたセンバツの抽選会でのこと。大会5日目の第2試合で早稲田実業(東京)の相手が明徳義塾(高知)に決まると、大勢詰め掛けていた報道陣がざわついた。
1年夏以来となる甲子園で早実・清宮幸太郎はどんな活躍を見せるのか注目が集まる その理由は、今から25年前の夏の甲子園。明徳義塾は2回戦で超高校級スラッガー・松井秀喜を擁する星稜と対戦。その松井封じのために明徳義塾・馬淵史郎監督が考えたのが “5打席連続敬遠”だった。「松井との勝負を避けて、後続で打ち取る」という作戦が見事にはまり、明徳義塾が勝利。そして今年のセンバツ。一身に注目を集めているのが早実の超高校級スラッガー・清宮幸太郎だ。はたして、その清宮に対して馬淵監督はどんな作戦で封じにかかるのだろうか。
抽選会終了後、組み合わせごとに行なわれる両チームの監督と主将の取材は、報道陣の多さを考慮して、このカードのみ別室ですることになった。馬淵監督と早実・和泉実監督がパイブ椅子に横並びに座り取材が始まったが、会見は終始、馬淵監督のペースで進んでいった。
「初戦が早実さんでよかった。優勝候補やから。これで負けても、『早実に勝ってたら、ウチらももしかしたら……』と言い訳ができる(笑)。どうせ当たるなら、初戦がいちばん力の差が出ないし、そういう意味でもよかった」
そして清宮対策への話になり、ある記者が「馬淵監督と強打者といえば、松井さんと……」と言うと、馬淵監督は「聞かれると思ったわ。場合によっては敬遠しますよ」と答え、こう続けた。
「たとえば1点リードしていて、終盤の8、9回にツーアウト二塁の場面なら、ウチのピッチャーの状態、清宮くんの次の打者である野村(大樹)くんの状態を考えて、どうするか決めます。でも、ノーアウトのときはそんなことはしない。全打席敬遠? そんなことしたら松井に怒られるよ。考えていません」
ただ、こうも言った。
「試合に入らないとわからんのよ。松井のときだって、最初からあんなことになるとは思ってなかったんやから。状況によって、ああなっただけで……」
松井の「5打席連続敬遠」については、馬淵監督が指示したタイミングなどが話題になったが、本人の回想では「試合のなかでそうなっていった」ということだ。もちろん、チームの状況も当時と今ではまったく違う。
「あのときはエースが故障して、ウチは背番号8が投げないといけなかったから。今年とは状況が全然違うんよ」
今年のチームは、秋の公式戦で63イニングを投げ防御率1.00の左腕・北本佑斗と、同じく防御率1.06の右腕・市川悠太というふたりの好投手がいる。清宮への具体的な対策について聞かれた馬淵監督はこう答えた。
「(秋の東京都大会決勝の)日大三高の5連続三振を見たけど、ピッチャーはええ球を投げていた。北本もああいうボールを投げられたらいいけど、あれほどのキレはないかな。ただ、今年はウチも打線がいい。つながりがあるから5、6点の勝負になるはず。だから、あのときとは違うんよ」
その後も清宮についての話は延々と続いた。
「素晴らしいものを持っている。一昨年の夏、ウチの前に練習していたのを見たけど、飛距離がすごい。捉える力がね。球場が狭いとか、練習試合が多いとかあるにしても、それでも80本近く打っているわけやから。松井は弾丸、清宮くんはきれいな放物線を描き、タイプ的にもちょっと違う」
家に戻り、25年前のあの試合の映像をあらためて見たが、松井が立った5打席のうち4打席が、もし一発が出ていれば、勝ち越し、もしくは逆転になる場面ばかりであった。馬淵監督が言うように、勝負に迷う状況が見事なまでに続いていた。ただ、第4打席については、一発打たれれば同点とはいえ、二死走者なしの場面だった。
その意図はどこにあったのか。抽選会から3日後、岡山で練習試合を行なっていた馬淵監督のもとを訪ねた。
「確率よ、確率。ウチは相手エースの山口(哲治)くんから3点しか取れんと思うとったから。試合が始まり、ああいう状況になったからそう(敬遠)したわけやけど、徹底できたから勝てたんよ。ただ今年はね、投手もここに来て調子が上がっているし、あんなことにはならん」
敬遠はないにしても、外野守備を極端に下げるとか、引っ張る打球が多い清宮にシフトを敷くといった可能性はあるのだろうか。
「状況で少し外野を下げるとかはあるにしても、極端なことはせんよ」
何度も「あのときとは違う」と語る馬淵監督だが、清宮封じのイメージは出来上がってきたのか。
「ピッチャーがきっちり抑えられたら抑えられる。それは思うとるよ。この前も言うたけど、日大三戦の5連続三振も、相手ピッチャーがいいところに投げている。狙ったところにきっちり投げ切れたら抑えられる。それで打たれたら仕方ない」
抽選会のときよりも、清宮を語る言葉に強さを感じた。その自信に満ちた表情は、「清宮対策は完成した」と言わんばかりであった。
「まあ、いろいろ考えとるよ。状況によって敬遠はあっても、極端なことはせんよ。清宮くんは遠くへ飛ばすテクニックを持っている。普通のバッターならライトオーバーのところが、彼はホームランになる。たしかに逸材です。でも、優勝候補と言われるチームのクリーンアップなら、甘い球をホームランにする力はあります」
さらに馬淵監督は、具体的に明かすことはなかったが「弱点はある」と言った。本当に清宮の弱点を発見したのか、それとも心理戦の始まりか……真相はわからない。ただ、馬淵監督は「思い通りにならんのも野球なんよ」という言葉を繰り返した。対策は万全であっても、すべてがうまくいくとは限らない。ましてや甲子園での試合、しかも相手は清宮擁する早実だ。
「早実見たさにたくさんのお客が入るやろうし、独特の雰囲気があるやろうね。選手には『自分らの応援やと思ってやれ』とは言うけど、実際にどれくらいのものなのか……」
たとえば、明徳義塾リードで迎えた終盤、打席に清宮が立ったとき、球場は異様な雰囲気に包まれるだろう。そのときに選手たちは平常心でいられるのかどうか。それでも馬淵監督は「ワクワクするわ」と言い残し、その場を去った。
そういえば昨年の夏、準決勝で作新学院に敗れたときも、神宮大会の敗戦後も、馬淵監督は「センバツで優勝する」という言葉を残していた。自身30回目となる甲子園で、通算50勝まであと2勝。様々な節目のある大会の、初戦で今大会大注目の早実。どんな戦いになるのか、注目したい。
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