角居調教師が矯正馬具について語る

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 結果を求めて、人間はサラブレッドにさまざまな工夫をほどこしてきた。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、馬装具と矯正ポイントの関係について解説する。

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 前回は馬の視野を狭めることで走りに集中させるブリンカーについて説明しました。

 ブリンカーと同じ効果を期待するのがチークピーシーズ。目の外側につけるロールです。横、後方の視野をさえぎり、やはり前に意識を集中させる。ブリンカーよりも効果は薄いものの、事前申請なしで使えます。テン乗りの外国人騎手などの進言で急遽使うことがあります。

 ブリンカーやチークは後方の視野を制限しますが、鼻先につけるシャドーロールは下方を見えなくします。足元を気にしたり、影を怖がったりしないようにするためです。

 見えないことで足元に意識がいくため頭が下がり、首の高いフォームを矯正する効果もあります。タメがきいて鞍上の拳のコントロールがききやすい口向きになる。シャドーロールも「見えない恐怖」を巧く利用しています。コントロール効果があり、走るフォームが決まるまでは着け続けたほうがいいようです。

 馬具は2通りに分けることができます。ブリンカーやチークピーシーズのように前進気勢を生み出すための道具は、着けたり外したりすることで効果が出る。シャドーロールのように馬のフォームをつくってあげるための道具は一回使うとなかなか外せません。

 シャドーロールで思い出すのは、「シャドーロールの怪物」と呼ばれたナリタブライアンです。1994年のクラシック三冠馬で、その年の有馬記念まで勝った名馬です。すぐれた集中力とダイナミックなフォームには、白いシャドーロールが濃密に関わっていたのでしょう。デビュー直後は何かに脅えているようだったそうですが、大久保正陽先生の判断でシャドーロールを着けるようになってからは、自分の影を怖がることもなくなったそうです。

 こういった矯正馬具は馬術界で開発されることが多い。乗馬というのは、競馬と違ってその馬と長い間付き合わなければならないからです。そうやって開発されて広まっていった中で、サラブレッドにも適応するのではないかというのを競馬界でピックアップして使っています。

 矯正ポイントを調教で減らすことができれば、使う必要も減る。「音をいやがる」「砂かぶりがいや」「他の馬の気配をいやがる」など、馬の不快感を慣らす調教です。少々の雑音にも動じない馬をつくれればメンコを着けなくてもいい。ただ競走馬は限られた時間の中で結果を出さなければいけないので、やはり矯正馬具は必要だと思います。

「矯正しよう」と思うか、「馬と人との信頼をつくろう」と思うか。矯正を主に考えると、馬にとっては拷問に近くなります。言葉で気持ちを返せない馬に対しての道具での強制。「矯正は強制」になってしまう。理想を言えば、馬の気持ちを酌む人間を作ることが大事なのです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、サンビスタなど。

※週刊ポスト2017年3月17日号