アメリカ国務省は2日、2017年「国際麻薬統制戦略報告書」を発表し、メタアンフェタミン(覚せい剤)が北朝鮮の広範な地域で生産・消費されており、その供給は大部分が独立した犯罪組織によるものであると指摘した。

また、とくに中国との国境地帯を中心に、社会の各層で覚せい剤が乱用されており、一部の住民はこうした薬物を医薬品として用いていると説明。同時に、北朝鮮においても覚せい剤や麻薬類の使用は違法であり、摘発されれば長期刑や死刑もあり得るとする情報に言及している。

こうした内容は、過去にデイリーNKでも繰り返し指摘してきたものだ。さらに説明を加えるならば、今の北朝鮮は、貧富の格差拡大が社会の退廃を促している傾向が見られる。それが覚せい剤のまん延を促し、それがまた退廃を促進させる「負のスパイラル」を描いているように見えるのである。

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一方、報告書は、北朝鮮当局が覚せい剤や麻薬の生産・流通にかかわっているかどうかについては、情報が不足しているとしている。

報告書は、1970年代から2004年までに、北朝鮮当局者による麻薬販売や流通などが多数、摘発されていると言及。最近の十数年間にそのような事件が摘発されていないのは、当局が実際に手を引いたか、隠ぺいの手際が良くなったかのどちらかであると両論を併記している。

では、どちらがより可能性が高いのだろうか。

筆者には、北朝鮮当局は覚せい剤や麻薬の恐ろしさに遅まきながら気付き、まん延を押しとどめようとしているのだが、まったく上手く行っていないように見える。最近では北朝鮮内部から、エリート校の少年少女が薬物に汚染されているとの噂も伝わってくる。北朝鮮当局としても、危機感を感じていないはずはない。

報告書が指摘しているとおり、金正恩党委員長は薬物犯罪に極刑で臨んでいる。そういったやり方は、ある程度の効果を上げるかもしれないが、覚せい剤を確信犯的に常用している中毒者には何の効き目もないのではないか。また、覚せい剤を医薬品と勘違いしているような人々には、厳罰よりも啓蒙が必要と言える。

いずれにしても、北朝鮮国内での薬物のまん延は、それを外貨稼ぎに悪用した金日成・正日時代に始まった害悪であり、正恩氏には直接的な責任がない可能性がある。であれば、正恩氏には金王朝の失政をたとえわずかでも正す意味においても、薬物乱用の撲滅に真面目に取り組んでもらいたいものだ。