発売中の『プレジデントFamily2017春号』

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大学入試改革で、正しい子どもの育て方のベクトルが変わる!ーー発売された『プレジデントFamily 2017春』号では、これからの子どもの受験校や進路先を親がどう考えればいいかを豊富な具体例をあげて紹介。また、「天才・奇才大集合」と題して、「好き」を極めたスゴい才能の子どもたちも登場する。今回は、その中から「小さな哲学者」として知られる中島芭旺くんの素顔と魅力を取材したフリーライターの上島寿子氏が特別レポートする。

■中島芭旺11歳、愛読書はコロコロコミックとアドラー

子供が書いた自己啓発本が、累計17万部を突破する売れ行きだという。

今年2月にはオーディオブックも発売された『見てる、知ってる、考えてる』。著者の中島芭旺(なかしま・ばお)くんは現在11歳(小学5年)。本には9〜10歳のときに日々考えていたことが綴られている。

昨夏に出版されるや「へたな大人の言葉より心に響き、気付きがたくさんある」などと大きな反響を呼んだ。版元のサンマーク出版によれば、小学生から90代のお年寄りまで幅広い世代の人たちから「感動した」「勇気づけられた」との声が続々と寄せられているという。本の一部を抜粋してみよう。

「悩み。それは、いつもは悩んでないということを教えてくれる。嫌な出来事。それは、いつもは嫌な出来事がないということを教えてくれる。焦る出来事。それは、いつもは焦っていないということを教えてくれる。」

「世の中は 誰かの思い込みによってつくられている。ということは だれでもつくれるということ。」

「物事に重さはない。ただ、その人が『重い』と感じている。ただそれだけ!」

「ママのところに生まれてきたことこそが一番の才能。」

正直、読むまでは「しょせん子供が書いた本」とたかをくくっていた。しかし、92編の文章は短いながらも深く鋭い。ページをめくるたびに、子供の本でしょという「上から目線」が消えていき、自分の生き方を反省したり、逆に勇気付けられたり。「小さなからだの哲学者」という評判は決して嘘ではないように思えた。

そんな芭旺くんに会って話を聞きたい。

そう思っていたところ、今年のはじめに『プレジデントファミリー』の取材で願いが叶った。約束の場所にやってきた彼は、ちょっとおしゃまな、元気な男の子という印象。だが、話してみると自分の考えをしっかり言葉にでき、それがまた唸るほど深い。こちらの頭が追いつかず、何度か聞き返してしまったほどだ。

取材の途中には、ふと湧いてきた疑問に対して、ホワイトボードに図まで描いて「なんで? なんでだ?」と自問自答を始めることもあった。その疑問とは、「一度失敗したことは、もう一度やってもうまくいかない確率が高いのはなぜか」。考え始めると、納得できる答えが見つかるまで止まらなくなるのだという。

不登校になった直後、母が息子にかけた言葉

どのような子育てをすれば、芭旺くんのように才能の芽を伸ばしてやれるのか。母の弥生さんに聞いてみた。

「常に言ってきたのは、感情を言葉にする大切さです。『私たちは超能力者じゃないんだから、わかってもらえると思わないで伝え合おうね』って。日常のささいなことでも、お互いに『ありがとう』と言い合っています」

その言葉のやりとりで、弥生さんが心がけたのは、「生まれてきてくれありがとう」という気持ちを怠らずに伝えることだ。

「親が子供にしてやれるのは、そのままの存在を認めて、そのままでいいと伝えることしかないと思うんです。それがきちんと伝われば、子供は自信を持ち、自分という存在を認められるようになる。その後は子供の判断に任せればいいと思っています。むしろ、子供の邪魔をしないのが親の役割だと思いますね」

もし、子供が世の中の常識や親の価値観から外れた選択をしても、子供を信じてそっくりそのまま受け入れる。人と違うことを恐れるのでなく、人と違うことを楽しみ、尊重する。それは誰に教えられたわけでもなく、弥生さん自身が当たり前に身につけていた感覚なのだという。

そもそもこの本を書いたとき、芭旺くんはいわゆる不登校児だった。

両親の離婚によって、福岡から東京の小学校に転校。前の学校と違い、そこは居心地のいい場所ではなかった。芭旺くん曰く、「自分が空気を読めないせいで」友達からいじめを受け、子供は大人の言うことをきいて当たり前と強制する先生への不信感も募った。そして、小3の2学期を前に「学校に行きたくない」と弥生さんに伝えたのである。

子供が学校を拒絶したら、大抵の親はうろたえて、学校に行かせる方策を考えるだろう。しかし、弥生さんの行動は違った。

「まず、伝えたのは、『よく言えたね』という言葉でした。我慢して学校に行っていることはわかっていたので、自分の思いを言えたことを褒めてあげたいと思ったんです。そして、その気持ちを受け入れて、すぐに自宅学習にできないかと学校へ相談に行きました。不登校というとマイナスイメージがありますが、学校に行かないのは選択肢のひとつ。学校では学べないことはたくさんあると思います」

自宅学習に切り替えてから、芭旺くんは「好きな人から学ぶ」という方式をとるようになった。先生になったのは、無数の本。幼児期から辞書を持ってきて「読んで」とせがむ子だった彼は、科学漫画のサバイバルシリーズやコロコロコミックに熱中する一方で、『嫌われる勇気』『神さまとのおしゃべり』『夢をかなえるゾウ』といった大人向けの本も読みこなすまでになっていた。

取材時に、今、一番のお気に入りの本として持ってきたのは、『藤原先生、これからの働き方について教えてください』だった。この本にある著者の藤原和博さん(教育改革実践家・杉並区立和田中学校元校長)の「レアカードになれ」(自分の「希少性」を高めて、世の中で「レアな存在」になること)という言葉が、自分の考えていたことそのものだったのだとか。

■もちろん最年少! 脳科学者・茂木健一郎の勉強会の常連

もっとも、芭旺くんの学びは本の中だけにはとどまっていない。感銘を受けた本があれば、著者の話が直接聞ける勉強会やイベントを自ら探して申し込み、1人で参加している。脳科学者・茂木健一郎氏の勉強会は、今や常連メンバー。驚くべき行動力である。

「常識で考えると、大人の勉強会に子供がひとりで行くなんてありえないですよね。でも、私は『まだ早いから、やめておきなさい』とは言ったことはありません。子供って本来、行動力の塊だと思うんです。その力を失ってしまうのは、親がとめてしまうから。うちはとめなかっただけ。子供のために何かをやったのでなく、やらなかったから、自分でどんどん行動するようになりました」

好奇心旺盛な芭旺くんからは、「なぜ?」と聞かれることも多い。そのときも、答えを教えることはもとより、一緒に考えることもせずに、「あそこに答えがあるかも」「あの人に聞けばわかるかも」とヒントだけ与えるようにするのが弥生さんの方法だ。

「一緒に考えてしまうと、親の思考や価値観が入り込み、結果、子供の邪魔をすることになってしまう。水飲み場に連れて行くのでなく、水飲み場のありそうな場所を教えることが大事だと思っています」

ゲームに対する考え方も“常識”とは異なる。1日30分までなどと制限をする家庭は多いは、弥生さんは一度も止めたことはないという。やるのもやらないのも、本人の自由だからだ。

「芭旺くんにとって、ゲームは楽しみながら、表現の方法を学べるツール。そのとき体験していることとリンクしているそうで、自宅学習になり、今後、どうやって学んで行くかと考えているときは、『マインクラフト』や『シムシティ』のようなゼロからなにかを構築するゲームに熱中していた。今、ハマっているのは『ポケットモンスター サン・ムーン』。チームの中で個々の能力を活かす、リーダーとしての役割をゲームで学んでいるそうです。この話を聞かされて私もびっくり。『そうだったんですか!』と感心してしまいました」

そんな芭旺くんが文章を書き始めたのは、日本財団と東京大学先端科学技術研究センターによる「異才発掘プロジェクト」への応募を思い立ったのがきっかけだった。

このプロジェクトは、突出した能力を持ちながら学校教育の環境に馴染めずにいる小・中学生を対象にしている。選抜された生徒はスカラーと呼ばれ、継続的な学習の保障と生活のサポートが受けられる。一次審査は書類選考。だが、芭旺くんには書くことがなかった。そこで、フェイスブックやツイッターで自分の考えや行動を発信して、履歴書代わりにしようと考えたのだ。妙案は見事、的中。セミナーやワークショップなどに参加できるホームスカラーに選ばれた。

とはいえ、本の出版に関しては弥生さんにも想定外だった。仕掛け人は芭旺くん自身。お母さんのフェイスブックアカウントを使って、サンマーク出版の編集長、高橋朋宏氏に「僕の経験を本にしたいんですけど、話を聞いてもらえませんか?」とメッセージを送ったのである。

高橋氏はこう振り返る。

「メッセージをもらった数日後に芭旺くんに会いましたが、本になるとは考えていませんでした。でも、その後に送られてきた文章に心を打たれ、本にする価値があると確信したんです」

■昨年末、不登校解消!「僕が学校へ戻った理由」

冒頭でも書いた通り、その本は多くの人に感動と勇気を与えた。しかし、一方で、学校できちんと勉強をさせるべきではないかといった批判があるのも事実だ。

そこで、芭旺くんに聞いてみた。「勉強ってなんだと思う?」。すると、彼はこともなげに即答した。

「勉強はやりたくてするもの。やりたいことをするためにするもの。やりたいことをするための勉強ならその勉強は楽しくなる」

学校で習うような正解のある勉強は、やる気になればいつでもできる。学校は行っても行かなくてもいい場所。芭旺くんはそう考えている。

その「行っても行かなくてもいい場所」に対して、行かない選択をしてきた芭旺くんだが、昨年末、ある決断をした。選択を「行く」に変えて、幼稚園時代からの友達がいる、かつて通っていた福岡の小学校に戻ろうと決めたのだ。なぜ、学校に通う気持ちになったのだろう。芭旺くんはこう言う。

「僕は今、とても自由だけれど、その自由によって逆に不自由になっている部分がある気がしてきたんです。学校という場所で、それを確かめてみようと思いました」

東京から福岡に戻ったら、お父さんとの2人暮し。それは2度目の経験だ。以前はお母さんに会いたいと泣いていた芭旺くんだが、今回は違う。ブログにはこんな逞しい言葉が綴られていた。

<僕達の「家族」っていう定義は辞書に載ってるのとは違う。僕は、地球に住んでて僕の家はとっても広い家でママの部屋に行くのには飛行機に乗るっていうだけのこと(中略)定義をちょっとだけ変えると世界は広がる>

一方、弥生さんは、芭旺くんの姉である高校生の娘との2人暮らしになった。

「福岡にたった翌朝、芭旺くんがいないことに涙が止まりませんでした。でも、そのときに考えたことをショートメールで伝えたら吹っ切れました。返ってきたのは、『はーい』の一言だけでしたけれど(笑)」

学校には戻っても「好きな人から学ぶ」というスタイルは続けていく。生活のベースは福岡でも、東京にもちょくちょく行く計画だ。どちらも「あり」な、芭旺くんの新しい世界が始まった。

変化のスピードが速い不確実なこれからの時代を生き抜くには、人と違うことを創造できる力や正解のない問いを考え答えをみつけようとする力が必要だと言われている。

そのために行われる教育改革では、従来の知識偏重型から思考力・判断力・表現力を伸ばす教育へとシフトチェンジがされる。日本の教育のあり方が大きく変わろうとしている今、子を持つ親が芭旺くんや彼の家族から学ぶことは少なくないだろう。

*『プレジデントFamily 2017春』号では、芭旺くんを含む「好き」を極めに極めている「天才・奇才」を親のコメント付きで紹介している。

(フリーライター 上島 寿子)