垂れ流し家計 「夫の家事手伝い」で年180万黒字化

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■最近よく見る「備えすぎ貧乏」の家庭とは?

●家族構成(3人家族)
会社員Wさん(34)/妻31歳(会社員)/長男1歳
●手取り収入(月) 夫:33万4000円/妻:17万2000円
●貯蓄 90万円

「僕もiDeCo(個人型確定拠出年金)を始めたいのですが、毎月の収入から出せなくて……」

会社員のWさん(34)の妻(31・会社員)はすでに上限いっぱいまで拠出してiDeCoを始めており、「自分も将来に向け始めるべきではないかと思っている」と話します。

Wさんご夫婦には1歳になったばかりの長男がいますが、婚姻期間はまだ1年半ほどで、「互いの給料の話とか、やりくりの仕方とかは話しにくい」状況だそうです。子どものためにも家計を合わせるべきだとも思うそうですが、どのように1つの財布にすると良いのかがわからないともおっしゃいます。

ただ、このご夫婦は今、「年金はあまりもらえないだろうから、しっかり貯めなくては」と考えているところのようです。5年ほど前からドル建て終身保険や確定拠出年金などで積み立てをはじめ、結婚後も継続していて、2人で毎月7万円を積み立てていることを自慢げに話していました。

肝心の家計のお話を伺いました。

Wさんの月の手取り収入は多少の増減はありますが33万4000円ほど、奥さんは17万2000円ほどで、毎月50万6000円ほどの収入があります。ただ、収入を合算しない別財布のやりくりです。そのためWさんが家賃、水道光熱費、自分の携帯電話代、自分の保険料を支払い、その他10万円を生活費として奥さんに渡し、その10万円と奥さんの収入でその他の生活費を払っています。

■本末転倒 積み立てをしているのに毎月赤字

家計は全体的にメタボ家計な印象で、毎月赤字。食費、日用品が家族構成の割に高く、生命保険料、娯楽費、被服費も高め。貯蓄は90万円のみです。聞くと、やりくりや家事全般は奥さんがすべてやっており、残業などが多いWさんは、ほとんど手伝わないとのこと。

そのため、仕事をしている奥さんの負担感が大きく、外食が多くなったり、気分転換に買い物してしまったりということが多く、お金が残る月はほぼないとのことでした。

積み立てをして生活費が赤字というのは、本末転倒な話です。お金の掛け方のバランスが悪いことはすぐにわかることですので、まずは赤字であるのに毎月7万円積み立てているという老後資金について検討しました。

現在、Wさんは生命保険で、また奥さんはiDeCoで老後資金を積み立てています。

Wさんの生命保険の内容は5年ほど前に加入したドル建て終身保険(60歳払込 死亡保険金500万円)を毎月3万円、最近契約した個人年金保険(60歳払込 受取年金年額72万円 )を毎月1万8000円です。積み立てはどれも60歳になるまでは原則使えない資金。

貯蓄が90万円しかなく、増やしていくことも難しい家計状況なので、老後資金ばかりを積み立てている場合ではありません。積み立ての内容を変えていくことも必要です。

Wさんの個人年金保険はまだ契約して1年ほど。私のアドバイスを元に検討し、今ならダメージは少ないと考え、解約することになりました。個人年金保険は、現状、利率がよくありませんし、将来的なインフレリスクも心配です。また、運用のほうに関心があるそうですので、契約して5年がたっているドル建て終身保険についても個人年金保険同様、私に質問を繰り返しながら自身でよく検討し、結果、保険金額を減額し、継続していくことにしました。

奥さんのパッケージ型の定期保険特約付終身保険は更新のたびに保険料が上がってしまいますし、必要な保障内容に過不足があるので解約することにしました。その代わり、貯蓄がないのに医療保障が不十分だったので、夫婦ともに医療保険に加入しました。必要な保障を得、一部老後資金作りも残しながら、保険料は半額に減らすことができました。

■夫の家事参加で「外食・中食率」が激減!

他の生活費も見直し、実行してもらいました。家計を変えていくには、Wさんの生活に対する意識の変化も必要です。生活全般について奥さんに協力することを促していきました。

食費は、外食や中食が多かったのが、Wさんが手伝うことで自炊や弁当を作ることができるようになり、支出が下がりました。日用品は、安売り商品や、いいなと思った物の衝動買いが減り、水道光熱費はつけ放ししないなど地味な努力で下げることができました。

【W家 家計費コストカット額ランキング】

1位:生命保険料 −3万円
老後資金作りを目的にした保険の掛け金を減らす一方、医療保障をつけ現状に合う保障内容に変えた
2位:教育費(保育園) −2.9万円
やや割高な認証保育から、割安な認可保育に移ることができた
3位:食費 −2.1万円
外食や中食で食費が高くなっていたが、夫の協力で自炊が増え、食費が減った
4位:通信費 −1.5万円
夫婦のスマートフォンを格安なものに変更
5位:被服費 −9000円
妻と子の衣類の購入が多かったが、むやみに買わず、タンスの整理をすることで妻の衣類代を減額
6位:生活日用品 −8000円
いいなと思うものは迷わずに即購入していたので、買いだめや衝動買いをなそうと意識することで支出を縮減
7位:娯楽費 −4000円
半分は書籍代だった。書籍も溜まってきているので、古本屋に売り、そのお金を書籍代に充てるなどして新たな支出額を縮減
8位:水道光熱費 −2000円
付けっ放しをやめることを徹底し、電気代・ガス代が各1000円くらいずつ下がった
8位:その他 −2000円
有料インターネットテレビの契約を打ち切り(それぞれのスマホで重複して契約していたのでやめた)

被服費や娯楽費は、Wさんの口座に残った金をそっくり妻や子のためにと使っていたもの。このお金は生活費にきちんと入れるようにし、無計画に使うことをなくしました。家計を合わせることでお金の使い方を2人で改めることができ、結局いつも赤字家計だったのが、毎月10万円も余剰を作り、貯めていける家計に変わることができました。

■夫の協力により、多分野で節約が実現!

教育費を作る目的で、学資保険に入ろうかなども話題になりましたが、やはりインフレリスクや低金利を考慮し、1年ほどは貯蓄中心でいき、生活防衛資金の半分ほどができたらジュニアNISAや、来年の導入が検討されている積立NISAなどを焦らず検討しながら、教育費専用の積み立てをしようと計画しました。

「いつも自分が1人で家事をし、保育園の送迎もし、仕事もフルタイムで、心にも全くゆとりがなくて。節約しなくてはと思いつつ、そこまで考えたらやっていけないという精神的負担も感じていたのです。でも、夫が協力してくれるとこんなに楽になれるなんて」

奥さんは嬉しそうに話します。幸運なことに子供を預けていた認証保育から、割安な認可保育に移ることができたことも家計の黒字化に貢献しました。

家族で生活をすることの大変さを実感できたWさんは、「暮らして行くためのお金の流れが見えてきた」と何度目かの面談で話すようになりました。これまでは難しいと言っていた家計を合わせるということが自然にできるようになり、重複していた支出などもなくなっていきました。

ボーナスが出て、それも貯めていくことができるとすると、老後資金の他、年に180万円ほど貯蓄できるのです。生活防衛資金も教育費も、もう心配なく作っていけます。

Wさんのように老後を心配し資金を作ることは大切なことです。ですが、いくらお得だとはいえ、そのために60歳までお金をおろしにくい制度や商品を利用していると、老後になるまでの期間、不安な思いをすることにもなります。生活をする資金として何が必要か、万が一にも耐えられる強い家計をどう作るかを視野に入れながら、老後資金を作るということが、今、必要なことなのです。

(ファイナンシャルプランナー 横山光昭=文)