主力が去り生じた穴は、どの程度埋まりそうか?

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主力退団の穴は埋まる? 糸井の代わりのライトが平均的な打撃成績だったら…

 ソフトバンクが、主砲候補のアルフレド・デスパイネの入団を正式に発表した。これでおおむね、各球団の陣容が固まったことになる。補強戦力を加えた球団がどんな戦いを見せるかは興味をそそるが、今回は逆の視点から考える。主力が退団した球団は、その穴をどれだけ埋めることができそうなのか――。客観的な数値から検討してみたい。

 まず、外野手の糸井嘉男が退団したオリックスから見ていく。パ・リーグの平均的な成績との比較で見たとき、オリックスは外野が弱みとなっている。特に駿太、小島脩平、ブライアン・ボグセビック(退団)らが務めたセンターが大きな弱点となっていた。攻撃力が乏しく、その働きを得点換算してリーグ平均と比べると、年間で-42.4点もの差をつけられていたと計算される(※)。オリックスが実際に記録した総得点は499、リーグ平均の583.5点から約85点の差をつけられていたことを考えると、センターで生じたマイナスのおおまかな影響が見えてくる。

 この問題の解決を狙い、FA権を行使した陽岱鋼の獲得に動くも失敗。その後の補強は投手中心で、いまだセンターの攻撃力不足は解決されていない。新外国人のステフェン・ロメロはメジャー、マイナーリーグでは主にレフト、ライトを務めており、センターとしての力量は不明。T-岡田、吉田正尚らは、問題を解決するかもしれないレベルの打力を備えているが、やはり両翼の選手と考えたほうがいい。一塁やDHを担うべき選手でもあり、センターはおろか、外野に回すことができるかもわからない。

 攻撃力を備えた外野手の人材が足りず、このような穴を抱えていたオリックスだが、糸井の退団によって、もうひとつ穴を抱えてしまったことになる。糸井の攻撃での働きで築いたプラスは33.8点と計算される。もし、糸井に代わってライトを守る選手が、リーグ平均レベルの成績を残したとしても、オリックスはこの約34点分の攻撃力の強みを失うことになる。「リーグ平均レベル」というと、そこまで高いレベルではないように感じるかもしれないが、攻撃力を備えた外野手が少ないオリックスにとっては、越えられるか微妙なハードルだ。平均を割るレベルの選手しかそろえられなかった場合、ダメージはさらに大きくなる。

 センター、ライトがどちらも小さくないマイナスを築く弱みのポジションとなれば、この2つの守備位置の攻撃力だけで80点に迫るマイナスが生まれてしまう。この損失は上位進出へ致命傷にもなりうる。駿太や小田裕也、武田健吾など新たな外野手の台頭が望まれるが、数値の大きな改善を期待するには、かなりの成長が必要となる。

デスパイネに代わって井口が昨季の質を保って出場したら…

 アルフレド・デスパイネとの間の残留交渉がうまくいかず主砲を失ったロッテは、穴を埋められるのだろうか。チームは583得点と平均的な得点力を記録したが、内野手の打力が不足していた。DHにデスパイネを残留させた上で、一塁、三塁などの打力を高め、得点力を強みにしていきたかったが、それは叶わなかった。

 デスパイネの代わりに指名打者に入ることが濃厚なのが新外国人のジミー・パラデスだ。2015年にはメジャーでシーズン10本塁打を放つなど実績のある選手だが、NPBでどれだけの力を発揮できるか。また第2候補のマット・ダフィーも決して長打力に秀でたタイプではなく、長打力不足には昨季以上に苦しむかもしれない。

 日本人選手はどうか。二軍ではOPS 1.029と圧倒的な成績を残している井上晴哉だが、いまだ一軍は結果を残せていない。井口資仁が、仮に昨季の質(79試合/176打席/打率.257/5本塁打/OPS.749)を保ち、デスパイネが立った570打席を担ったと仮定すると、DHによる得点貢献は14.6点減ると計算される。ただ井口は年齢を重ねており、衰えのリスクもある。質を保ってシーズンを戦い抜けると計算するのは、少々楽観的か。デスパイネの代役はそう簡単には務まらない。新外国人や井上らがこのマイナスをどれだけ抑えることができるか、といったあたりがポイントになる。

山口、岸、黒田ら移籍&引退した先発投手の穴は埋まるか?

 ここからは主力投手が退団したチームを見ていく。山口俊が退団したDeNAは、他球団に比べ強力な先発投手陣を擁している。山口を除いても、井納翔一、石田健大、今永昇太、久保康友とローテーションクラスがずらりと並ぶ。しかし、このあとに続くのは実績が少ない投手だ。一定の活躍を果たしていたギジェルモ・モスコーソは退団、左腕の砂田毅樹は救援への適性の高さから、ブルペンに回る可能性もある。

 山口に代わって誰がローテーションに入ってくるかは読みにくいが、昨季4度先発登板した三嶋一輝(24.0回/防御率3.75)が、昨季と同じ投球内容で山口と同じ138.2回を投げた場合、チームの失点は31.0点増える計算になる。新外国人先発投手2名の補強もあり、また三嶋の成績が改善する可能性もある。砂田が先発として活躍する可能性もあり、実際にこれほどのダメージになることは考えづらいが、最大で年間30点程度、失点が増える危険性を考えて戦う必要はある。

 チームで最も計算できる投手だった岸孝之が退団した西武はどうか。昨季のローテーションは岸、菊池雄星、多和田真三郎、高橋光成、野上亮磨、ブライアン・ウルフらが回していたが、質も量も余裕はなく、Bクラスに沈む要因のひとつにもなっていた。そこにきてのエース退団のダメージは小さくない。

 仮に、ローテーションの谷間で登板する機会が多かった十亀剣が、昨季先発登板時の質を維持したまま、岸が投げた130.1回を担ったとすると、失点は11.4点増えると計算される。DeNAでの計算に比べダメージが小さいのは、十亀が昨季先発登板で一定の内容の投球をみせていたためだ。ただ130.1回までイニングを伸ばすとなると、昨季の質を保ちながらというのも難しくなりそうである。また、十亀以下の力の投手が先発を任されれば、失点はさらに増えることとなる。郭俊麟が岸のイニングを担った場合、ダメージは32.9点まで膨らむ。

 黒田博樹が引退した広島は、昨季のローテーションはクリス・ジョンソン、野村祐輔、黒田、岡田明丈、ブレイディ・ヘーゲンズらが務めた。昨季は主力投手に故障が少なかったためうまくローテーションが回ったものの、先発投手陣の層は決して厚くない。6番手以降を務めた福井優也、九里亜蓮らと黒田の実力差は非常に大きい。仮に九里亜蓮が昨季の先発時の投球内容で、黒田が投げた151.2回を担ったとするならば、失点が31.3点増える計算となる。

 だが広島の場合、一定の実績がある大瀬良大地が先発に復帰することが予想されている。昨季は夏場以降まで出遅れ、ほとんどが救援登板だったが、彼が2014年、2015年に見せた先発として記録した質で、150回近くを担うことができるならば黒田の穴は小さくなり、今季と遜色ない先発投手陣となる可能性もある。DeNAや西武と比較すると、状況は明るいといえる。

吉川、陽、ゴメス…その他の選手たちの穴は?

 その他では、日本ハムのアンソニー・バース、吉川光夫の放出で生まれた投手陣の穴は痛手となりそうだ。両投手は先発、救援で合わせて213.1回を投げている。このイニングを他の投手で埋めることになるが、投手陣の枚数に不安を抱える日本ハムとしては213.1回というのは相当なボリュームだ。メジャー帰りの村田透、新外国人のエドウィン・エスコバーなどを補強したものの、簡単に埋まるものではないだろう。

 同じく、日本ハムでは陽岱鋼がFAで退団。主力選手ではあるが、昨季の陽岱鋼は故障もあり働きが限定的で、穴はそこまで大きくはない。昨季のレベルであれば岡大海などの活躍で埋まる可能性はありそうだ。ただ、陽が良いコンディションでフルシーズンを送ったと仮定した働きまでを岡が担えるかというと少し厳しい。基準をそこに置いた場合はマイナスが生じる状況ではある。

 最後に阪神のマウロ・ゴメスに触れておきたい。ゴメスは傑出した選手ではなく、リーグ平均レベルの一塁手であった。その退団が大きな穴とはいえない。阪神は新外国人のエリック・キャンベルを獲得したが、キャンベルにこれを埋める働きを求めるのは、そこまで難しいオーダーではないだろう。ただ、阪神は内野の全ポジションでレギュラーが定まっていない。計算できるポジションがなく非常に不安定な状況だ。攻撃で全くパフォーマンスが出せない事態に陥るリスクを軽減するという意味で、ゴメスを残留させてもよかったようにも思える。

 以上、主力の退団で生じた穴が、球団にとってどれほどのものになりそうかを概算した。ポジションにおける球団間の力関係は、コンバートの実施や主力のケガなどで変わってくる。ダメージはあくまで昨季の力関係をベースにしたものだが、それでもオリックスや西武などに生じた穴がもたらすダメージは、ペナントレースを戦う上でかなり厳しいものになりそうだ。

※ダメージの計算には、野手では出塁力と長打力、両面での働きを得点換算し平均と比較するwRAA(weighted Runs Above Average) に加え一部走力も評価した。投手では奪三振、与四死球、打たれた打球の種別などから働きを推定するtRA(true Run Average)を用いている。

DELTA●文 text by DELTA

DELTA http://deltagraphs.co.jp/
 2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1〜5』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』(http://1point02.jp/)も運営する。