富裕層が頼る「タワマン節税」のメリットとデメリット

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■なぜタワマンは節税になるのか?

2016年3月末時点の統計ではあるが、不動産経済研究所によれば、同年以降に建設予定の20階以上の超高層マンション(タワーマンション)は、9万戸に及ぶことがわかっている。年次推移を見ると、2008年のリーマンショック以降、大きく減少したものの、アベノミクスがスタートした2013年以降、持ち直しを見せ、2016年以降の予測では、年次1万5000戸前後を推移するものとみられる。

このコンスタントな供給傾向は、タワーマンションの根強い人気を背景とする。タワーマンションがブームなのは、中古物件の需要があり、値崩れが起きにくく換金性に優れているから、また賃貸市場が活発なため、投資利回りが安定しているからといったことがいわれるが、相続税の節税対策としてこれをみたとき、その圧縮効果は非常に高いといえる。

相続税において、分譲マンションをはじめとする区分所有建物は、「土地」と「建物」を分けて評価し、それを合算して1戸の価額を算出する。

まず「土地」は、「相続税路線価」に基づき、マンション全体の敷地価額を求め、それを各戸の敷地権割合で按分する。相続税路線価は、土地取引価格の指標とされる公示価格の8割程度で算定され、仮に公示価格を実売価格とすれば、実勢と路線価の間に2割ほどの差を生じる。地価が高止まりしやすい大都市圏の中心部などではその差が大きく、路線価が実売価格の6割といったところもある。

敷地権割合についていえば、タワーマンションは戸数が多く、分母となる全戸の専有面積の合計が大きいため、相対的に1戸の敷地権割合は小さくなり、価額は低くなる。

一方、「建物」は、各戸の建物部分の「固定資産税評価額」をそのまま評価額とする。各戸の固定資産税評価額は、マンション全体の評価額を、その敷地権割合で按分したものである。固定資産税評価額は、実売価格より低いことが多く、新築家屋の場合、建築費の5割から7割程度に設定される。

建物評価で注目したいのは、階層による価格差である。タワーマンションでは、眺望や日当たりといったプレミアム要素によって、低層階に比べ、高層階の販売価格は倍ほどにもなる場合もある。しかし、相続税評価では、階数や方角に関係なく、専有面積に応じた一律の価額となるため、高層階ほど評価額と実売価格の間に差が生まれる。

さらに購入した部屋を「賃貸」に出せば、土地は「貸家建付地」、建物は「貸家」として、さらなる減額が可能である。

相続税では、現預金は額面通りに評価されるが、タワーマンションを購入した場合、購入費用と同額の現金を保持する場合に比べ、評価額を2割から4割程度にまで圧縮することができるのだ。

■過度な「タワマン節税」に国税当局の目

「タワマン節税」とは、相続発生を見込んでタワーマンションを購入しておき、相続発生、相続税申告後に売却する節税手法をいう。申告後に未使用のまま売却すれば、多少値落ちし、譲渡所得税がかかるとはいえ、前述のタワーマンションの特徴から、相続税を大幅に圧縮して、多額の現金を引き継ぐことができる。

タワマン節税は、これまで主に富裕層の間の税金対策として知られてきたが、2015年より相続税の最高税率が55%へ引き上げられるとともに、基礎控除が大幅に縮減されたことを受けて、注目の度をさらに上げている。

しかしながら、効果のあまりに高いこの手法を、国税当局もただ黙認しているわけではない。2011年には、国税に関する裁決を行う国税不服審判所で、以下の事例が否認されている。これは、被相続人が相続発生の1カ月前に約3億円でマンションを購入し、被相続人死亡後の相続税申告でマンションを約6000万円と評価計上、相続人が購入から1年と待たずに2億9000万円で売却したもので、否認は、マンションの購入、相続発生、売却の期間が近接していることから、租税回避行為と見なされたのが主な理由である。

また、2015年秋、国税庁は、2011年からの3年間に売買されたタワーマンションの事例についてサンプル調査を実施した結果、市場価格(時価)と相続税評価額とのかい離率の平均値が3.04倍に上ったと発表。相続税評価について定めた財産評価基本通達に基づき、過度なタワマン節税に対する課税チェックを厳しくする方針を打ち出した。

さらに与党が昨年12月8日に発表した2017年度税制改正大綱では、「居住用超高層建築物に係る課税の見直し」として、建物全体の「固定資産税額」を按分する際に、「階層別専有床面積補正率」を導入し、税額を、高層階ほど高く、低層階ほど低くする方針が示された。

対象は階数にして20階以上、高さ60m超の居住用建物となっており、タワーマンションを想定している。また、階層による税額の差違はつけるものの、1棟全体の税額は従前と変わらない。さらに、原則として2017年4月1日以降に販売される新築物件が適用対象になるとしている。

この改正で注意しなければならないのは、「固定資産税額計算の際に補正を行う」のであって、税額計算の前提となり、相続税評価に影響する「固定資産税評価」や、「相続税評価」そのものにメスを入れるものではないということである。

本大綱に基づく税制改正は、3月にも国会で可決成立が見込まれるが、タワーマンションに対する今回の改正を手始めに、相続税に対しても、今後、改正が行われる可能性もないではない。この点、国税庁や政府与党の動きを、これからも注視する必要があるだろう。

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藤宮 浩
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)代表
株式会社フジ総合鑑定 代表取締役
埼玉県出身。1993年、日本大学法学部政治経済学科卒業。95年、宅地建物取引主任者試験合格。2004年、不動産鑑定士試験合格及び登録。12年、フィナンシャルプランナーCFP登録。04年に株式会社フジ総合鑑定代表取締役に就任し、相続不動産に強い不動産鑑定士として、徹底した土地評価を行うことで有名。主な著書に税理士・高原誠との共著である『あなたの相続税は戻ってきます』(現代書林)『日本一前向きな相続対策の本』(現代書林)、不動産鑑定士・小野寺恭孝との共著である『これだけ差が出る 相続税土地評価15事例 基礎編』(クロスメディア・マーケティング)。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。
高原 誠
フジ総合グループ(株式会社フジ総合鑑定/フジ相続税理士法人)副代表
フジ相続税理士法人 代表社員
東京都出身。2005年税理士登録。06年、税理士・吉海正一氏とともにフジ相続税理士法人を設立、同法人代表社員に就任。相続に特化した専門事務所の代表税理士として、年間600件以上の相続税申告・減額・還付業務を取り扱う。セミナー講演、各種メディアへの出演、寄稿多数。

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(株式会社フジ総合鑑定代表取締役 藤宮浩/フジ相続税理士法人代表社員 高原誠)