フィジカル的な要素が重視される2部リーグは、柴崎のような技術を持ち味にする選手にとって厳しい戦場だと言える。写真:DeporPress

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 柴崎岳がスペインのテネリフェへ移籍した。かねてから海外でのプレーを強く希望していただけに、本人にとっては念願叶っての欧州挑戦かもしれないが、一方でスペインとはいえ「2部リーグのクラブ」に移籍した点を疑問視する声もある。果たして、その選択は正しかったのか。
 
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 サッカーが上手くなりたい。そのためにも欧州に渡ってプレーしたい――。プロサッカー選手として、そういう気持ちを持つのは当然だ。そして、柴崎岳の才能をもってすれば、欧州で活躍することも十分に可能だろうし、心から応援したいとも思う。「代表定着を考えて、海外挑戦は先延ばしにすべきだ」という意見もあるようだが、代表に呼ばれる、呼ばれないはその時々の監督の思惑に左右される。選手はあくまでもクラブでの活動を優先させるべきだ。
 
 しかし、僕は今回の柴崎の移籍に必ずしも賛成できない。なぜなら、移籍先がスペインの「2部リーグ」 に所属するテネリフェだからだ。「欧州のサッカーはレベルが高い」。日本では誰もがそう信じ込んでいる。「まして、それがスペインであれば、さぞテクニカルなサッカーが展開されているに違いない」と、そう思っている人も多いだろう。
 
 だが、欧州リーグといっても1部の下位とか2部以下のチームのサッカーは、必ずしもそれほどテクニカルなものではない。
 
 僕は、現在のテネリフェが実際にどんな試合をしているのか知らないし、ホセ・ルイス・マルティという監督がどんな指導者なのかもまったく知らない。それでも僕には、欧州各国で2部以下の試合を見た経験がたくさんある。だから、これはあくまでも一般論として言うのだが、欧州の下部リーグのサッカーは基本的にフィジカルコンタクトの繰り返しであり、ロングボールの蹴り合いのような展開になりがちなのだ。たとえテネリフェというクラブがテクニカルなサッカーを目指していたとしても、2部リーグではフィジカルな戦いに巻き込まれてしまうだろう。
 
 激しくボールを奪い合い、敵陣に向かってシンプルに蹴り合う――。 それはある意味でフットボールの原点とも言えるし、日本人選手もそういうサッカーをもっと経験すべきだ ろう。とはいえ、それが柴崎という選手に相応しいとは思えない。
 柴崎は技術レベルの高い選手だ。受け手がどんなボールを欲しがっているのかを意識し、コースやスピードを考え抜いた丁寧なパスが出せる。足もとに収めやすいようにスピンを かけるのも上手い。
 
 そんな柴崎が2部の試合に出ても、大雑把なロングボールが頭上を飛び交うのを、ただ眺めるだけになってしまうのではないか。あるいは、フィジカルの弱さを理由に出場機会が与えられない可能性もある。
 
 柴崎岳という才能溢れる若者の将来を考えると、「スペインの2部」という選択が正しかったとは、僕には思えない。冬の移籍を断念してでも、1部のクラブとの交渉を粘り強く続けるべきだったろうし、もし2部から出発するしかないのなら、日本人選手の生かし方をよく理解しているドイツやオランダあたりのクラブを選ぶべきではなかったのか。ドイツやオランダでは、チームとして日本人の技術やアジリティ能力を生かそうとしてくれるからだ。
 
 もっとも、僕のそんな心配などは、すべて杞憂に終わってくれればいい。もしテネリフェがフィジカル優先のサッカーをしていれば、柴崎自身の力でそれを変えてしまうことだってできるだろう。そして、早い段階で1部の強豪から引き抜かれ、スペイン人の日本人選手に対する見方を変えるような活躍をしてほしいとも思っている。
 
 北の大地・青森に生まれ育ち、茨城県の鹿島で長くプレーしてきた柴崎にとって、大西洋に浮かぶカナリア諸島という陽光溢れる環境は、さぞ新鮮なものだろう。また、スペイン2部のサッカー自体も、あるいは大きな刺激になるかもしれない。
 
 こうした環境の中で、柴崎が選手としてどのように変化していくのか、興味深く見守りたい。

文・後藤健生(サッカージャーナリスト)