今冬もオルソリーニに加えて、アタランタのエレガントな頭脳派CBマッティア・カルダーラ(イタリアU-21代表)の保有権も獲得。オルソリーニは2017年夏、カルダーラは1年半後の2018年夏まで、レンタルという形で現所属クラブに残留する契約になっている。先に唾だけつけて他クラブに取られるのを防いでおき、時間をかけて成長を見守ろうという算段である。
 ユーベのこうしたアプローチが成果を挙げているのを見て、他のビッグクラブもイタリア人タレントの先物買いに積極的に動き出し、急に競争が激しくなったのが今冬のメルカートだった。
 
 これまでならばユーベは、オルソリーニとカルダーラだけでなく、ガリアルディーニ、アンドレア・コンティ、フランク・ケシエといったアタランタの有望株たちの保有権を、昵懇の中にあるサッスオーロなどと連携しながら事実上すべて手に入れることが可能だったかもしれない。
 
 そもそも冬のメルカートで急いで獲得しなくとも、1シーズンを通してのパフォーマンスを見極めたうえで、夏のメルカートで落ち着いて契約を詰める余裕があったはずだ。
 
 ところが今回は、インテル、ミラン、ローマといったライバルたちも先手を打って若きタレントを手に入れようと、積極的に動いてきた。1月11日、インテルが珍しく躊躇なく即決でガリアルディーニを獲得したのは象徴的だ。ユーベはこれに対抗するように、やはりインテルと競合していたカルダーラの獲得をその翌日に発表している。
 
 今シーズンに大躍進しているアタランタの若手に関しては、ローマが夏のケシエ獲得でほぼ合意に達しており、さらに右SBのコンティもナポリが熱心に引き抜きに動いていると伝えられる。もしこの噂が現実になれば、アタランタは4人の目玉商品をユーベ、インテル、ローマ、ナポリという4強に分散して売却することになるわけだ。
 
 アタランタは若く優秀なタレントを次々と輩出し、その売却益で経営を成り立たせている育成型クラブの筆頭らしく、特定のクラブと親密な関係を築くよりも多くのクラブとバランス良く付き合う方を選んだ格好。なかなかしたたかな全方位外交である。
 
文:片野道郎
 
【著者プロフィール】
1962年生まれ、宮城県仙台市出身。1995年からイタリア北部のアレッサンドリアに在住し、翻訳家兼ジャーナリストとして精力的に活動中だ。カルチョを文化として捉え、その営みを巡ってのフィールドワークを継続発展させている。『ワールドサッカーダイジェスト』誌では現役監督とのコラボレーションによる戦術解説や選手分析が好評を博す。ジョバンニ・ビオ氏との共著『元ACミラン専門コーチのセットプレー最先端理論』が2017年2月に刊行される。