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●半導体業界が注目するFOWLP技術とは何か?
「FOWLP(Fan Out Wafer Level Package)」は半導体実装業界にとって昨年来最大の話題になっている。2017年1月18日〜20日に東京ビックサイトで開催された第18回 半導体・センサ パッケージング技術展の併催セミナーで、東芝ストレージ&デバイスソリューション社研究開発センター技監の明島周三氏が「世の中を騒がしているFOWLPってこれからどうなるか?」と題して講演したので、ここに要約して紹介したいと思う。

○FOWLPとは、どのようなパッケージ技術なのか?

でもその前に、あまりなじみのない方のために、簡単にFOWLPについて説明しておこう。

FOWLPは、もともと2005年に独Infineon Technologiesが開発した技術で、当初から将来有望なパッケージング技術として一部では注目されてはいたが、製造歩留まりが低いこともあって、なかなか普及しなかった。しかし、2016年にAppleがTSMCが開発した独自FOWLP「InFO(Integrated Fan Out)」をiPhone 7/7Plusのアプリケ―ションプロセッサの実装に全面採用したことで、一気に業界全体の注目を集め、普及に拍車がかかった実装技術である。

従来、Appleのアプリケーションプロセッサの受託生産はTSMCとSamsung Electronicsが受注を分け合っていたが、iPhone 7/7Plusに関しては、FOWLP技術の開発が遅れたSamsungを尻目に、TSMCが全量受注を勝ち取ったと言われている。

FOWLPの概略図を図1に示す。半導体チップの端子から配線を引き出す再配線層をウェハプロセスを用いて形成することで、パッケージ基板をやめて、ワイヤもバンプもなく、製造費用を安く、厚みを薄くできる。再配線層は薄膜のため配線長を短くできるので、電気信号の伝送速度を高速化できる。従来のWLCSPがパッケージ面積と半導体チップ面積が同じであるのに対して、FOWLPはチップの外側まで端子を広げるためパッケージ面積が半導体チップより大きく、多ピン対応が可能で、微細化によるチップの小型化にも対応できる。製造コストが高いTSV (シリコン貫通ビア)を用いず複数の半導体チップ(たとえばMPUとDRAM)を積層して小型化を図るSiP(System in Package)のプラットフォームとなることが期待されている。

再配線層を形成するため、パッケージ工程に前工程のウェハプロセスが持ち込まれることで前工程と後工程の垣根がはずされ、ファウンドリがフルターンキーで受注するようになった。アセンブリ受託企業やアセンブリ基板メーカーは、死活問題になりかねない。TSMCに敗れたSamsungも再びiPhone向けビジネスを獲得しようと追い上げに必死だ。あっという間にビジネスを失う企業がある一方で、FOWLP特需で新たなビジネスチャンスをつかむ半導体製造装置・材料メーカーも続々登場している。

●FOWLPの市場規模はどの程度なのか?
○FOWLPの市場規模は年間6000億円?

さて、「世の中を騒がしているFOWLPってこれからどうなるか?」と言う講演であるが、明島氏は、FOWLP市場規模から話を始めた。

世間で注目を浴びているFOWLPは、シンプルで機能的なパッケージである。ただし、シリコンウェハ(前工程)のプロセスであるスパッタリングやリソグラフィなどを使って再配線層を形成する必要がある。今までは、先端パッケージはフリップチップから、TSVを使った2.5D/3Dパッケージへ移行すると言われていたが、製作が難しく、コストが高いため、一気には移行せずに、FOWLPへ移行する方向に動いている。「2016年、Appleが、TSMCの技術を使ってiPhone 7用のA10アプリケ―ション・プロセッサ(AP)にFOWLPを採用したのがきっかけで、皆の注目が集まった。今後はAppleだけではなく、ほぼすべてのアプリケーションプロセッサにFOWLPが採用になり、2020年には5億個/年のアプリケーションプロセッサにFOWLPが採用される、という調査レポートも出ている。フランスの調査会社Yole Developmentは、今後、スマートフォン1台当たり10個あるいはそれ以上の半導体チップにFOWLPが採用されるようになると見ている。同社の予測によると、今後, FOWLPは年率32%で市場が拡大し、2020年には25億ドルを超える(図3参照)。この成長率がさらに継続するとして計算すると、2023年までに5000億円を超える市場規模になる」と明島氏は話す。

同氏は、私見であると断ったうえで、近い将来のFOWLPの市場規模は、世界半導体市場規模を出発点にして、表1に示すさまざまな仮定を元に、6000億円/年とはじき出した。これより、FOWLPの設備市場規模は6000億円、材料市場規模は2400億円/年規模と予測した。設備や材料企業にとっても、「とてもおいしい市場になる」と明島氏は語る。

この市場規模の数値を、スマートフォンの年間市場出荷台数をもとに検証してみよう。スマートフォンの年間出荷台数は15億台と言われており、1台のうちの10個の半導体チップにFOWLPが採用され、1個の実装コストが40円とすると、40円×10個×15憶台=6000憶円となる。したがって、FOWLPの市場規模が6000億円/年と言う予測は、「そんなに間違いではないだろう」と明島氏は言う。

●国家プロジェクトとしてパッケージング技術開発をスタート
○国家プロジェクトとしてガラスパネル上での3次元化を推進

InFOプロセスは公表されていないが、極めて複雑なプロセスのようで、ウェハプロセスを熟知し経験あるTSMCの得意とするところではあるが、ウェハプロセスの経験のないOSAT(Outsource Assembly and Test:受託パッケージングテスト事業者)ではマネできそうにはない。InFOは、シリコンウェハ基板を土台として用い、チップを搭載し、再配線層を形成後、最後にシリコン基板を剥がす。TSMCに対抗するSamsungは、シリコン基板ではなく、液晶製造で使いなれたガラスパネルを用いて低コスト化をはかる、いわゆるパネルレベルパッケージング(PLP)の方向だが、FOWLPの上にDRAMを積層するようなPLP3次元化の開発はまだ誰も成功していない。

「日本の半導体メーカーは、アプリケーションプロセッサを製造していないこともあり、東芝を含めてどこもFOWLPをやろうとはしていない。しかし、日本でも、回路設計の自由度が増す、このわくわく感ある技術を将来の半導体デバイスのために開発しておくべきである」と明島氏は主張した。エッジの人工知能(AI)エンジンやIoTセンサノードなどは、日本でじっくりと腰を落ち着けて開発すべきであるとし、このためにパネルベースのFOWLPで高品質3次元化を目指した国家プロジェクトを起こしたという。具体的には、エッジ向けAIエンジン内部のGPUとDDR3チップ3個をFOWLPを採用して3次元実装するという。

○基板サプライヤの猛反撃が始まる

FOWLP採用で、ウェハプロセスが得意なファウンドリがフルターンキービジネスをおこなうようになると、パッケージ基板が不要になるので、基板サプライヤや後工程請負業者にとっては死活問題となる。彼らの中には「FOWLPはAppleのきまぐれにすぎない。必ず従来方式に戻ってくる」と強がりを言う者もいる。基板サプライヤも、ファインピッチを可能にするパッケージ手法をいろいろ開発しており、「いずれ猛反撃が始まるだろう」と明島氏は言う。

最後に、明島氏は「FOWLPはパッケージの画期的な技術の予感がする。従来の延長線上にはない、わくわく感のある技術である。近い将来、6000億円規模の市場になる可能性がある。日本の強みは、装置と材料であり、どのようにしてFOWLP市場に参入するか戦略を練る必要がある。日本に残るのは、装置・材料とデバイス試作だろう。量産は海外ファウンドリに任せるにしても、AIエンジンやIoTセンサノードなどの開発はパッケージを含めて日本国内でじっくりやるようにすべきであろう」と述べ、日本の今後の方向性を示した。

(服部毅)