■JRAのプリンセス、藤田菜七子インタビュー後編

 前編では藤田菜七子騎手にデビューシーズンを振り返ってもらったが、後半では海外での騎乗の話に始まって、プライベートな部分まで話は膨らんだ。

――昨年はイギリス(騎乗馬が出走取り消しとなってレースには騎乗せず)、アブダビ(UAE)、さらに今年はマカオ(1月21日騎乗予定)と、海外でも騎乗する機会を得られました。環境が変わって、レースの質も違うところで乗るというのは、どのように感じましたか?

「すごく新鮮でした。デビューしてすぐにこのように行かせていただけて、すごくありがたいです」

――イギリス・サンダウン競馬場では騎乗馬が取り消しになってしまったとき、少し涙を浮かべていたようですが。

「あれは馬に落とされたショックが理由ではないんです。パドックで馬がひっくり返って競走除外になったのですが、出馬表に予備馬みたいなものが記載されていたので、てっきりその馬に乗れるものだと思っていて。落ちた衝撃もほとんどなくて全然痛くなかったので、『さぁ別の馬で』と思っていたけど、結局、乗れないことになり......。

事前にコースも全部歩いて、どんな特徴か、どこで仕掛けるか、全部考えていて、しかもせっかくイギリスまで来たのに......という思いもあって、あんな感じになりました(苦笑)。ただ、主催者のご配慮があり、アブダビで騎乗機会をいただけることになりました」

――そのアブダビが海外初騎乗となったわけですが。

「アブダビのレースもすごくいい経験になりました。日本では女性騎手と一緒に乗る機会は地方競馬に行かないとありませんし、フルゲート全員女性騎手となると、今のところ日本ではないので」

――みんな、体がゴツかったですね。

「みんな普段から前へ前へと出てきて、気も強いんです。そして、レースでもやっぱり強気なんですよ。声の出し方なんか、日本の騎手は「危ない」とか「ここにいるぞ」とか言うくらいですが、あっちの女性ジョッキーはもうずーっと叫んでいましたよ。言葉がわからないんで、何を言っているのかはわからなかったんですが、ゲートを出た瞬間から『おりゃーっ!』って具合に叫んで馬を出して、道中も後ろで『どけー!』と言っているのか、馬を叱咤しているのか、やっぱり叫んでますし、最後の直線ももちろん『おりゃーっ!』って叫びながら追っていて、騎乗だけでも体力使うのに、すごいなーって(笑)。なかなか日本では考えられないので、文化の違いを感じました」

――藤田騎手も日本で叫ぶようになったり?

「それはないんですけど(笑)。より強い気持ちを前に出して、レースしなければならないな、とは思いました」

――今月のマカオも楽しみですね。

「マカオで騎乗したことのある騎手って結構多くて、いろいろな人が教えてくれますので、情報収集はしています。武豊騎手と一緒に参加できるのは心強いですね。緊張もしますけど(笑)」

――デビューシーズンだけで、地方も含めるとかなりの競馬場で騎乗しました。今の段階で、好みの競馬場とかコース、または逆に難しいコースってありますか?

「どのコースも簡単ではありませんが、気持ちのうえでは、東京のダートコースは3回勝たせてもらったこともあって、好きなコースといえますね。地方も競馬場によって、まったく特徴が違いますけど、名古屋競馬場は砂の質も違って印象的ですし、(女性騎手の)宮下瞳騎手や木乃前葵騎手もいて、私も頑張ろうという気持ちになります」

――乗ってみたい馬はいますか?

「現役ですと、キタサンブラックとか強くて格好いいなあと思います。昔の馬で挙げると、ダイワスカーレット(※)が好きでした。有馬記念はすごく印象に残っています」
※生涯成績12戦8勝。桜花賞、有馬記念などGI4勝の名牝

――有馬記念でキタサンブラックの騎乗依頼がきたら、どうします?

「どうなんですかね。今の状況では絶対にあり得ない話で、自分なんかでいいのかな、と思うかも。たぶんレース前夜とかは緊張して眠れないんじゃないかと思います。レースにも平常心で乗るのも難しいんじゃないですかね」

――ここまで乗ってきて、今の時点での長所や武器というのは、何か身につけましたか?

「まだまだ全然つかめていないんですけど、これから長所にしていきたいな、と考えているのは、(馬への)当たりの柔らかさです。馬がカッとなったときに、ガッチリ力で押さえ込むのではなく、いなすような。そういう感覚を研ぎ澄ましていきたいです」

――"当たりの柔らかさ"というのは、私たちも何となくわかった気になっていますが、具体的にはどんな感じですか? 騎手に求められる力強さと相反するものになるのでしょうか?

「ひとつ例えを挙げれば、テンションが上がってしまうような牝馬は、強く押さえつけようとしてしまうと、よりテンションが上がってしまうことがあるので、そこをこちらが平常心で『大丈夫だよ』となだめてあげられるような騎乗、心の余裕も含めてですね。私自身はまだ手応えはないんですが、周りからはそうできている言ってもらえることもあるので、見てくれている人の感覚により近づけるように頑張りたいですね」

――スタートがうまいという意見も多く聞かれます。

「私は、スタートは馬が切ってくれるものだと思っているので、自分が得意とは全然思っていません。周囲にそう評価していただけるのはありがたいんですけど」

――フィジカル面はどうでしょう? 他の男性騎手と比べて、減量の心配がないので、気にせず鍛えることができそうですが。

「もっと(体を)追い込みたいですね。今までは、競馬学校で習ったことを継続して自主トレではやっていたんですけど、今年からトレーナーさんをつけてやることにして、どんどん変えていきたいと考えています」

――デビューしてから少し痩せましたよね。

「体重はたしかに2〜3kg落ちました。でもその点は、いらない脂肪が取れたのかなと。筋肉が落ちたわけじゃないので、そこはマイナスに考えていません。だいたいの自分の体重は把握できています。とにかく減量の心配が今は全然ないので、そのぶんは筋力アップをしたいと思っています。だから結構、食べていますよ」

――食べ物の好き嫌いはありますか?

「結構多かったりする中で、ごはんは好きです。ごはんだけでも大丈夫なぐらい(笑)。お菓子ももちろん好きです。おかずは昆布の佃煮がいいですね。とにかくごはんが食べられれば。

苦手なのが生のトマトとか、キュウリとか、ちょっと青っぽいものですね。スイカやメロンも苦手です。茨城県出身なのに(笑)」

――目標を達成できたときなど、自分へのご褒美みたいなものは?

「甘いものとか、食べたくなります(笑)」

――休日はリフレッシュのために、何かされていますか?

「寮にいてレースのVTRを見たり、買い物に行ったりですね。車の免許も取りました。それで洋服を見に出かけるだけでも気分転換になります。あと、音楽を聴いてますね。ワン・ダイレクションが好きです」

――ゲン担ぎはしますか?

「まったくしないですね。ミサンガを巻いていますけど、オシャレかなと思って、つけているだけです。都合いいときだけ神様にお願いするのも失礼かな、って思うので(笑)」

――神様はそういうものですから、いいと思いますけど(笑)。そんな神さまに何かお願いできるとすれば?

「もっとうまく乗れるように、筋肉や体幹をください、ですかね(笑)。全体的に鍛えたいですが、より鍛えたいと思っているのは脚ですね。アブダビでもジュリー・クローンさん(アメリカの殿堂入り元女性騎手)に、そこは指摘されました」

――そのクローンさんの指導はどうでした?

「すごく勉強になりました。日本の競馬学校で言われることとほとんど同じで、基本は世界共通なんだなと思いつつも、その中でもプロの騎手としてより具体的、実践的にどういう練習、トレーニングをするべきか指導してくださいました」

――憧れとされていたリサ・オールプレス騎手(ニュージーランドの騎手で、JRAでも短期免許で騎乗)のほかに、意識するようになった女性騎手はいますか?

「オールプレス騎手はやはり今でも目標ですね。『もっと筋力をつけて』とか、『多くレースを経験して』とか、いろいろアドバイスもいただきました」

――さて、2017年の抱負や目標はいかがでしょう。

「基本的なことは昨年と変わらないんですが、ひと鞍ひと鞍大事に乗って、しっかりと結果を出していきたいと思います。若手騎手のシリーズも始まるので、そこでもいい成績を残したいです」

――8月には20歳になります。

「すごく楽しみです。お酒にはそんなに興味はないのですけど、そういったお付き合いも多くなっちゃうんですかね(笑)」

――大人になって、さらにひと皮剥ける藤田騎手を楽しみにしています。

「ありがとうございます」

 デビュー当時はあどけなさが残っていたが、あれから10カ月経ち、表情は大人びて、インタビューでは慎重に言葉を選びながら、真剣に答えてくれた。取材はボートレースでのイベント後に行なったのだが、大勢のファンの前で司会との丁々発止のやりとりも印象に残った。

 今年はブームも一段落して、ますます関係者やファンの見る目も厳しくなるだろうが、彼女自身は、今の実力を冷静に把握し、さらなる鍛錬を積み、階段を上がっているところだ。2年目の藤田菜七子も追い続けていきたい。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu