一歩踏み出した先の景色は――舞台から映像へ、猪野広樹の挑戦。
「ROCK MUSICAL BLEACH」〜もうひとつの地上〜、ミュージカル『薄桜鬼』、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」など、数多くの2.5次元舞台で活躍してきた猪野広樹が映像界に進出! 連続ドラマ初出演にして初主演の『スター☆コンチェルト〜オレとキミのアイドル道〜』(メ〜テレ・TOKYO MX)が放送中だ。主人公(=視聴者)は、芸能事務所の新人マネージャー。アイドル候補生たちとのドキドキわくわくな共同生活を、自分目線で楽しめる新感覚の作りが話題を呼んでいる。初の環境で大役に挑む猪野に、現在の心境を聞いた。

撮影/すずき大すけ 取材・文/江尻亜由子

“リアル”を追い求めて…舞台と映像の違いに苦戦中?



――ドラマ『スター☆コンチェルト』では、連続ドラマ初出演にして初主演。最初にお話が来たときは、どう思いましたか?

いやぁ、プレッシャーしかなかったですねぇ(笑)。ずっと映像をやりたいと思っていたので、うれしいのが一番なんですけど。いきなりの主演ということで、うれしい段階を飛び越えていきました。「えっ、マジか。……ありがとうございますっ!!」みたいな。

――ついに夢が叶った、と。

はい。でもいきなり主演ということで、本当にビックリしましたね。

――実際に撮影が始まってみてからは、いかがですか?

やっぱり大変なんだなって改めて実感しました。舞台とは表現の仕方が違うんですよね。最初の頃は「表現がデカすぎる」「もっとちっちゃくでいいよ」って言われたりして。

――ちっちゃく?

「ちっちゃく」って何だろう?って考えた結果、自分の中では抑えた感じでやってたんですね。そしたらあるとき、権田原稲造役の半海(一晃)さんに、まったく同じことを、日比野 周(あまね)役の鎌苅健太さんが聞いたんですよ。「映像と舞台って、スイッチ変わりますか?」って。

――半海さんは、舞台で経験を積まれたあとに映像に進出された方ですね。

大ベテランの大先輩です。そしたら半海さんが、「あんまり変わんないけど、映像は、よりリアルかな」って言ってらして。僕とケンケンさん(鎌苅健太)は「リアルですね。…なるほど!」って。抑えようとしたら演技が小さくなっちゃうけど、「リアル」ってイメージしたら広がるなって、すごく納得できたんですよね。



――大先輩たちを間近で見ていて、勉強になることは多いですか?

半海さんや、(小須田 誠役の)波岡(一喜)さんと共演できるのは本当にうれしいし、ありがたいです。半海さんの目を見ていると、吸い込まれていく感じがするんですよね(笑)。

――画面越しでもわかります。目力がスゴいですよね(笑)。

スーッと(笑)。やっぱりオーラといいますか、さすがの存在感があって。波岡さんに関しては、遊び心がハンパじゃない。台本に書かれてないことを即効で出してくるので。引き出しの多さがスゴいなと思います。

――猪野さんも、アドリブにトライしたり?

たまにやってみるんですけど、「それは…やらなくていいかな?」って言われてしまうことが多いですね(笑)。「あ、いらないですか…」って(笑)。試行錯誤しながら演じています。



「自分と役が重なりすぎて、台本を読むのが怖かった」



――本作では、寮で共同生活を送りながらデビューを目指すアイドル候補生たちを描いていますね。

ある意味、原点に還る作品と言いますか。「これからアイドルを目指す」というストーリーなので、事務所に入った頃とか、役者をやっていこうと決めた頃の自分を思い出しながら撮影に臨んでいます。

――登場人物それぞれにアイドルとしてのキャラづけがあると思うのですが、猪野さんが演じる瑛倉ヒロキは、どういう人物なんでしょう?

“THE普通”ですね……まぁ、“THE普通”が“THE一番難しい”んですよ!(笑)

――そうですよねぇ。

ポジティブで、無邪気で、いい意味でバカ。とにかく人を笑顔にするためにがんばってる子です。自分のことよりも他人のことを気にしているから、誰かが悩んでるときには、「解決してあげたい」って、考える前に行動に走ってるような人間です。周りのことばっかり見てるからか、自分のことが何もわかってないんですよね。

――たとえば?

今回のドラマは乙女ゲーム風な作り方で、僕らのマネージャーさん=視聴者さんなんですけど、そのマネージャーさんに対する想いとか……。誰かと手をつないでたら「なんかイヤだな」と思うけど、その気持ちが何なのかわからない。

――鈍感なんですか(笑)。

「あれ? なんかイヤだ。なんだこれ?」みたいな反応なんですよ。「それ、恋だろ! 気づくだろ!?」っていう(笑)。あとは、周りが盛り上がってたら逆にその輪には入らず、一歩引いて「ははは」って見てるような人間だなと。

――みんなが盛り上がっているときに、ちょっと一歩引いて見ているっていうのは、前回のインタビューでご自身がそうだと言ってらした気が。

そうですね。ヒロキと近い部分はほかにもあります。彼がアイドルを目指している理由が、たくさんの人を、ひとりでも多くの人を笑顔にしたいから、なんですけど。

――そこは共感できますよね。

はい、完全に自分とかぶると思います。ファーストイベントをやったときや、舞台のカーテンコールでお客さんの顔を見たときに「やってよかったな」って思うので。自分が表に出ることで、少しの人でも、ちょっとのことでもいいから、何かいい方向に変えられたらいいなっていうのは、ずっと思っていることです。




――逆に、ヒロキとここは違う!という点はありますか?

唯一違うのは、「ポジティブ」なところですかね。僕は自分に自信を持ったことが一度もない、ネクラでネガティブな人間なので(笑)。

――えー?(笑)

基本、ローなテンションなので。いつでも。ヒロキは中身からハイなので、テンションが高いシーンを演じるのは大変ですね。

――「自分に自信を持ったことが一度もない」とおっしゃいましたが、今回、ドラマの主演が決まったことが自信になっているのでは?

この作品が終わったら、少しだけ自信になるんじゃないかと思ってます。今はただ、ひたすらやろうっていうだけですね。僕もヒロキと同じ、“THE普通”の人間で、歌やダンスやお芝居が特別うまいわけじゃなく、気持ちだけでこの世界に入りたいと思って始めた人間なので。

――ヒロキと一緒に、猪野さん自身も成長していく感じですね。

まさにそうです。「こんなに普通の自分が、本当にここにいていいのか?」っていう、僕とまるっきり同じ悩みを抱えているので。ヒロキが今後どういう方向に進んでいくのか、どういう決断をするのかっていうのは、同じ立場にいるからこそ、台本を読むのも怖いなと思っちゃいます。

――ヒロキがどういう方向に進んでいくのか、どういう決断をするのか…? ネタバレになってしまうので言えないと思いますが、台本を読んだ感想だけ、聞かせてください。

「強いなぁ」って。ヒロキのことを「強くて好きだな」って思いました。スタ☆コンが駆け出して、これから諸問題が起きるんですけど、それをどう乗り越えていくのか? ヒロキ自身がどう変わっていくのか? 楽しみながら見守っていただけたらうれしいです。



夜中の2時までダンス練習…仲間のありがたさを実感



――今回は主演として、現場を盛り上げなきゃ、みたいなことも考えますよね。

そうなんですよ。でも、これがなかなか大変で……。舞台の稽古だと、だいたいお昼くらいから始まるのが、今は朝5時起きとかで撮影があって。初主演の前に初連ドラなので、朝に慣れてなくて、最初のほうはひたすら眠かったです(笑)。

――(笑)。

自分のテンションはなんとか上げられるようになったんですけど、周りのテンションを上げるっていうところまではなかなかできなくて。そこをできるのが、ケンケンさんです。

――鎌苅さんに助けられている?

この前、ご本人にお伝えしました。「マジ助かってます」と(笑)。周りをよく見ていらっしゃるんですよね。ケンケンさんがいるから、自分はありのままにいられるっていう感じです。

――他のメンバーだと、長谷川翔音役の川隅美慎さんとは演劇「ハイキュー!!」で共演されてますよね。

美慎くんは、お芝居に対してめちゃくちゃ熱い人です。同い年ですけど僕より芸歴も長いですし、尊敬できるところがたくさんありますね。

――花宮みなみ役の永田崇人さんとは、共演作品も多いですよね。

崇人はムードメーカーです。朝から晩まで元気なんですよ(笑)。現場はいつもにぎやかなんですけど、崇人がダントツでうるさい(笑)。「ヒロキの明るさってこんな感じなんだろうな」と思いながら見てますね。そして、本当にお芝居が好きなんだろうなって感じます。僕が言うのもなんですが、共演するたびに成長しているなって……。

――それは、刺激を受けそうですね。

そうなんです。崇人は自分がどう考えてるかっていうのも、ハッキリ言ってくれるんですよね。そこの度胸は「さすが九州男児だな」って。僕がデビューしたばかりの頃は、そんなことできなかったから。




――いい現場ですね。

「とにかくいい作品にしよう」っていう気持ちが、みんなすごく強いです。セリフ合わせとか、自分が不安なところは、みんなつきあってくれますし、もちろん自分もつきあいますし。ダンスシーンもあるんですけど、そこもお互いに、できるようになるまで丁寧に教えあったりするので。

――ダンスシーンも見どころのひとつですよね。

僕はけっこう苦戦してるんですけどね…。先生が最初に教えてくれるんですけど、練習時間があんまりなくて。「今からやるのを覚えて」って言われて、1〜2回やったらもう次のフリに進んでいくんですけど、そう簡単には覚えられない……。

――そういうときに、共演者のみんなで教えあう?

美慎くんはダンスの経験があるので、フリ覚えがすごく早いんです。それで、美慎先生がみんなに教えてくれるっていう。

――チームワークですね!

この前、すごくうれしかったことがあったんです。ダンス稽古があって、例のごとく、僕はなかなか覚えられなかったんですよ。稽古が終わったのが夜の10時くらいだったんですけど、危機感を感じまくって、プロデューサーさんに「ひとり残って練習したいです」って言ったら、「じゃあ朝まで練習できるところを予約するね」ってスタジオを借りてくださって。帰り際、「このあと、ほかのスタジオで練習して帰るわ」って言ったら、みんなついてきて来てくれたんですよね。

――次の日もきっと早いのに。

そうなんですよ。それなのに、「オレも不安だからつきあうよ」とか言って。で、美慎くんが「じゃあオレ、教えるよ」って。2時半くらいまで練習したのかな? あのときはもう、めちゃくちゃうれしかったです。仲間の存在ってありがたいなって思いましたね。