米中の経済摩擦が懸念される

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日米欧が、中国を世界貿易機関(WTO)協定上の「市場経済国」(自由な市場で経済運営が行われている国)とは認めない方針を打ち出した。鉄鋼製品など中国の安値輸出に歯止めをかけようという狙いだ。これに対し中国は強く反発しており、2017年1月に就任するトランプ米次期大統領が対中強硬姿勢を見せていることから、経済摩擦が激化する恐れが出てきた。

中国は2001年にWTOに加盟した際、15年間は「非市場経済国」扱いとなることを受け入れた。その期限が2016年12月11日だった。

中国は「2国間協議」を始めると発表

「非市場経済国」と「市場経済国」の違いの大きなポイントは、ダンピング(不当廉売)の判定。製品の輸入国が、ある国の製品についてダンピングと認定したら、高関税をかけて輸入を妨げ、国内産業を不当な安売りから守ることができる。「市場経済国」なら、その国の輸出価格が国内価格に比べ不当に安い場合にダンピングと認定でき、そのことを立証しなければ課税できない。これに対し、「非市場経済国」の場合、第三国の価格を基準にし、ダンピングか否かを判断できる。

中国の場合、国内価格が国際価格よりも大幅に安く、焦点の鉄鋼製品の場合、例えば鉄筋は日本より1〜2割安いとされる。国内外の競争が機能していれば、作り過ぎれば価格が暴落し、体力のないメーカーはつぶれ、過剰な生産設備が廃棄され、価格が戻り、メーカーの経営も安定するというのが、市場経済のイロハだが、中国は巨大国営企業などが政府の庇護のもとで延命するため、国内の設備過剰がなかなか解消されず、不当な安値輸出が後を絶たないという問題がある。

米国は、この間も中国への反ダンピング税をたびたび課してきており、今回、「中国の市場経済国への移行は機が熟していない」(プリツカー米商務長官、11月24日)と表明、欧州連合(EU)も同様で、日本も米欧と歩調を合わせ、市場経済国認定を見送っている。一方、中国との経済関係を重視する韓国、オーストラリアなど市場経済国と認めた国も少なくない。

日米欧が足並みをそろえたことに、中国は強く反発。中国商務省は12月12日、米、EUと、この問題をめぐって「2国間協議」を始めると発表した。WTO訴訟の最初の手続きで、協議が不調に合わった後、中国は正式にWTOに提訴することになる。

米国内の他の政府組織と摩擦が生じる可能性

今回の米国の決定は現在のオバマ政権によるもので、注目はトランプ政権のスタンスだ。「米国第一」を掲げるトランプ氏は大統領選中、米国内の仕事を大幅に増やすと公約し、「為替操作国である中国からの輸入品に45%の関税を課す」など、対中強硬姿勢を示してきた。そして、12月21日には、通商政策の司令塔になる「国家通商会議(NTC)」の創設を発表し、中国を批判してきたピーター・ナバロ米カリフォルニア大教授をトップに指名した。

この狙いについて、国際経済筋は「対中貿易の不均衡是正など具体的な成果をあげるため、通商政策を重視する姿勢の表れではないか」と推測する。米国の経済政策は世界の基軸通貨であるドルを管轄する財務省が中心に位置し、通商交渉は通商交渉代表部(USTR)、輸出促進などは商務省という任務分担。日本に当てはめると、財務省は財務省、USTRと商務省を合わせて経済産業省、他にクリントン政権時代にできた国家経済会議(NEC)があり、日本の内閣府に相当する。

トランプ政権での各省、組織の位置づけ、権限分担はまだわからないが、環太平洋経済連携協定(TPP)の破棄を明言し、二国間交渉を重視すると繰り返していることから、対中国をはじめ、二国間で不均衡是正を迫るとみられ、新設のNTCが大きな役割を果たすことになりそうだ。ただし、「財務省など他の組織と摩擦が生じる可能性もあり、特に対中国では台湾や南シナ海などの安全保障問題ともかかわるだけに、国家安全保障会議(NSC)との連携を含め、政権内の政策調整をどうコントロールするかが見もの」(全国紙政治部デスク)といえそうだ。