今年の2歳戦で大きな話題となっているのが、今年初年度産駒がデビューした種牡馬フランケル。イギリスで14戦14勝という完璧な成績を残し、歴代最高レーティングの140を獲得し、"史上最強馬"とも呼ばれている存在だ。イギリスで繋養されている種牡馬なので、日本で血統登録された2歳馬は10頭。その中から今のところ4頭が出走し、ソウルスターリング(牝2歳/美浦・藤沢和雄厩舎)とミスエルテ(牝2歳/栗東・池江泰寿厩舎)の2頭が勝ち上がり、2頭とも重賞ウイナーとなっているのだ。

 ミスエルテはデビュー2戦目のGIIIファンタジーS(京都・芝1400m)を制し、先週のGI阪神ジュベナイルフィリーズ(JF)(阪神・芝1600m)ではソウルスターリングが快勝。フランケル産駒として世界初のGI馬となった。ちなみにこれまでに全世界でフランケル産駒は6頭が重賞勝ちしているが、5頭が牝馬である。

 そして、今週はGI朝日杯フューチュリティステークス(FS)(阪神・芝1600m)にミスエルテが出走する。通常、牝馬は牝馬限定の阪神JFに出走するが、ミスエルテは馬体の回復に時間を要したとのことで、阪神JFの1週後に行なわれるこのレースに回ってきた。今回はミスエルテのこのレースにおける勝算を分析してみたい。

 過去、朝日杯FS(※)を勝った牝馬は7頭。最も近い馬でも1980年のテンモンまで36年も遡る。とは言っても、当時は2歳牝馬限定のGI級(GI=グレード制ができたのは1984年から)レースが存在せず、阪神JFの前身レースである阪神3歳ステークスは、牡牝混合の関西の2歳王者決定戦として行なわれていたのだ。
※2000年までのレース名は朝日杯3歳ステークス。馬齢の数え方が今と違い、今の2歳は3歳と数えられていた

 そのため、かつては朝日杯3歳ステークスと阪神3歳ステークスには多くの牝馬が出走していた。その後、1991年に牝馬限定の2歳GIとして阪神3歳牝馬ステークスが創設。現在と同じレース体系となり、あえて朝日杯FSに出走する牝馬は激減した。そんな状況でも、1991年以降4頭の牝馬が出走しているが、2007年フォーチュンワード(9番人気6着)、2013年グリサージュ(12番人気9着)、2013年ベルカント(3番人気10着)、2015年コパノディール(14番人気10着)と、いずれも着外に終わっている。

 一方で最近、傾向が変わってきているのが朝日杯FSの出走馬のレベルだ。牝馬の阪神JFは翌年のクラシック第1弾・GI桜花賞(阪神・芝1600m)と同条件なので、翌年の牝馬三冠勝ち馬が出走していたことも多く、過去10年で13頭に及ぶ後の3歳GI馬が出走。ウオッカ、ブエナビスタ、アパパネなどもここを勝って名牝へと羽ばたいた。対照的に朝日杯FSの出走馬は、2008年キャプテントゥーレ、2013年ロゴタイプなど2頭の皐月賞馬含め、4頭の3歳GI馬を出したに過ぎない。つまり、出走馬のレベルはそれほど高くないのだ。

 今年も、阪神JFと朝日杯FSの出走馬を比べて、阪神のほうが"層が厚い"と感じた人は多いのではないだろうか。今年はこれまでに牡馬混合重賞を勝った牝馬がヴゼットジョリー(GIII新潟2歳S)、レーヌミノル(GIII小倉2歳S)、ジューヌエコール(GIIデイリー杯2歳S)と3頭出ており、現時点では例年より牝馬のレベルが高いと言われている。前評判を見ても、ミスエルテが1番人気に推されそうである。以上の状況を踏まえれば、牝馬でも十分、このレースを勝てるチャンスはあると言える。

 あとはミスエルテ自身の問題だ。血統を見ると、母ミスエーニョは2歳時に米GIIIソレントS(オールウェザー約1300m)を6馬身半差で圧勝し、米GIデルマーデビュータントS(オールウェザー約1400m、8頭立て)では後にケンタッキーオークスなど米GI6勝を挙げるブラインドラックを直線入り口6番手から差し切っている。ソウルスターリングも母が仏オークスなどGI6勝のスタセリタという名牝だったが、ミスエルテも素晴らしい血統の持ち主だ。

 前走ファンタジーSの勝ちタイム1分21秒8というのは際立ったものではないが、上がり3ハロン33秒6と末脚の破壊力は非凡なものを感じさせたし、今回と同じ阪神芝1600mの新馬戦では、ほとんど追われないまま後続を突き放す圧巻の走りを見せていた。その能力は一級品と言っていいだろう。

 ただ、強い馬が必ずしも勝つとは限らないのが競馬。出走を1週延ばしたように、万全の態勢で臨めない可能性も高い。また、普段からテンションの高い馬なので、当日落ち着いてレースを運べるかは始まってみないとわからない。初の多頭数で馬群に揉まれたりするケースも考えられる。

 筆者の見解としては、"ここで勝ち切る力はあるが、今回は力を出し切れない可能性も高い"とも感じている。枠順や当日の馬体重、馬の状態を確認できない時点での見解なので難しいところだが、いわゆる"危険な人気馬"と言えるだろう。圧勝するシーンも想像しつつ、大敗の可能性もあるだろうというスタンスでレースを見たいと思う。

平出貴昭●文 text by Hiraide Takaaki