調教師・角居勝彦氏

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 今年の阪神ジュベナイルフィリーズには高レベルの馬が揃ったといわれるが、2歳牝馬にはまだまだ幼い仕草も目につく。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、馬券検討に多くのヒントを与えてくれるパドックでの見分け方をお届けする。

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 パドックを見て馬券を買う人が意外に少ないと聞きます。それぞれの流儀があるのでしょうが、競馬場に行ったなら、やはり見たほうがいいと思います。せいぜい10分足らずのことですが、さまざまな情報が周回の姿に詰まっているし、それぞれの馬の個性を見つけることで、より身近に感じることができます。

「見てもわからない」という人が多いようです。確かにパドックで「能力」を読み取ることはできません。が、その日の調子が今ひとつの馬を見分けることはある程度できると思います。つまり、勝つ馬を見つけ出すのは難しいかもしれませんが、勝てない馬を外すのはできる……。

 具体的には、落ち着いて周回できない馬。これは見ていても分かるはずです。騎手の指示にきちんと従わなくては競馬には勝てません。パドックで馬に指示をするのは引いている人間(主に厩務員)。その者のいうことに耳を貸さず興奮している馬は期待できません。

 同様に、鳴いたり色気を出したりする馬も集中力を欠いている。馬っ気を出す「私が一番強い!」という主張は幼さの裏返しで、じっと我慢できない証拠です。

 やはり我慢できる馬が強い。ガキ大将か優等生かということなら優等生タイプです。ガキ大将のほうが大きな可能性を感じさせるような気もしますが、調教を経ているわけですから、暴れるよりも我慢するほうが高レベルです。クラスが上がれば上がるほど、我慢の度合いが重要になってきます。

 パドックは馬にとっても、仕上げを担当する厩務員にとっても、日頃の成果を披露する晴れ舞台。角居厩舎ではパドックできちんとできるように馬を作ります。ファンにバツ印をつけられるような仕上がりは避けたい。馬を預かる人間の責務だと肝に銘じています。

 引き手をぐいぐいと引っ張るような歩様は、気合いが入っているようでいてそうでもない。引き手よりも速く歩く馬は気負い気味でしょう。入れ込み癖のある馬の場合、引いている人間が、馬のリズムに合わせて大股で速く歩くこともあります。厩務員に鼻面を寄せて甘えているのも、「早く帰りたい」という幼い仕草ですね。本馬場ではなく厩舎の馬房に気持ちが向いている。

 馬にとってはパドックも経験です。のんびり歩いている馬でも、パドック周回から本馬場のスタートまでの間のどこかでスイッチを入れる。場数を踏むことで自分のスイッチの入れ方が分かってくる。「とまーれ!」の声がかかって、勝負服を着たジョッキーが自分の元に駆け寄ってきてムチを持って跨がる。このときに、馬に指示する人間が厩務員からジョッキーに変わる。ここに注目するのも面白いかもしれません。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年11月27日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年12月16日号