■香港国際競走展望 前編

 今年も国際競馬の掉尾(ちょうび)を飾る、香港・シャティン競馬場を舞台にした香港国際競走が今週末に近づいてきた。今年は日本から過去最多の13頭が参戦。さらに、今年から始まった海外レースの国内発売としては初めて、JRAの競馬の開催時間に重なるとあって、その盛り上がりは計り知れない。これまでは「ガンバレ! ニッポン」だった香港国際競走も、馬券が絡む新たな局面を迎えようとしている。

 ということで、今回は2回に分けて、その香港国際競走の各競走を展望する。
 
 最初に行なわれるのは芝2400mの香港ヴァーズ。過去に日本調教馬はステイゴールドが勝ち、シックスセンスとジャガーメイルがそれぞれ2着となっている。

 今年は日本からサトノクラウン(父マルジュ、牡4歳)、ヌーヴォレコルト(父ハーツクライ、牝5歳)、そしてスマートレイアー(父ディープインパクト、牝6歳)の3頭が参戦する。3頭とも現地時間8日朝、芝コースで最終追い切りが行なわれ、三者三様に順調さを示した。特にスマートレイアーは香港に入ってから、5日にも芝で強めの調教を行なっており、目下の状態がかなりいいことを伺わせる。

 ただ、その好調ぶりを加味しても、主力となるのは欧州勢。中でもハイランドリール(父ガリレオ、牡4歳)は揺るぎない主役と見て間違いないだろう。昨年、このレースを制覇した後、今年だけで6カ国で出走。このうち2勝を挙げているが、それが "キングジョージ"とブリーダーズカップターフとだ。どちらのレースも今回と同じ距離でGI中のGIだけに、実績も格も適性も抜けていると言っていいだろう。

 展開面でのアドバンテージも大きい。枠順は10番とやや外めも、逃げ宣言をしているビッグオレンジ(父デュークオブマーマレード、せん5歳)が内の7番枠で、序盤で前をカットされる心配がない。ハイランドリール自身も強力な先行力を持っており、ビッグオレンジにとっては、終始強力なプレッシャーを受けることになると同時に、後続もハイランドリールを追いかけた場合、逆に潰されることが見込まれる。調整も順調そのもので、人気であっても逆らう理由が見つからない。

 ハイランドリールに待ったをかけられるとすれば、このレースで過去10勝を挙げているフランス調教馬。中でもシルバーウェーヴ(父シルバーフロスト、牡4歳)がその1番手と見ていいだろう。GI サンクルー大賞(サンクルー競馬場・芝2400m)、GIIフォワ賞(シャンティイ競馬場・芝2400m)とフランスにおけるこの距離の主要競走を連勝。凱旋門賞(シャンティイ競馬場・芝2400m)こそ13着と大きく敗れはしたが、その後は早くからここを目標に調整されており、巻き返しは十分ある。

 ただし、同じフランス勢でもガルリンガリ(父リンガリ、せん5歳)とワンフットインヘヴン(父ファストネットロック、牡4歳)はやや割引で考えたほうがよさそうだ。前者はこれが46戦目というタフネスながら、8月以来の出走で仕上がりにやや不安。後者は香港入りしてから血液検査で異常値を示したために馬場入りを中止。間際での調整に狂いが生じている。

 それであれば、日本の3頭のうち、サトノクラウンとヌーヴォレコルトを揃って3番手評価に挙げたい。サトノクラウンは期待された4月の香港遠征が惨敗に終わったが、これはレース直前に大雨が降ったことによる馬場悪化と入れ込みによるもの。昨年のクラシックで、ドゥラメンテが主役となるまでは、三冠候補と見られていたこの馬の実績と潜在能力は侮れない。一方のヌーヴォレコルトはタフな遠征を強いられているが、ここに来て負荷をかけるほどに力を発揮できるようになってきていると斎藤誠調教師。馬場適性は昨年の香港カップ2着で証明済みだ。

 続いて行なわれるのが、芝1200mの香港スプリント。日本調教馬にとってはロードカナロアが連覇した以外は、とにかく厚い壁となっている。今年はビッグアーサー(父サクラバクシンオー、牡5歳)とレッドファルクス(父スウェプトオーヴァーボード、牡5歳)がこれに挑む。

 迎え撃つ香港勢は、昨年の勝ち馬ペニアフォビア(父ダンディーマン、せん5歳)と一昨年の勝ち馬エアロヴェロシティ(父ピンズ、せん8歳)という強力な実績馬が今年も出走してくる。ただ、現状は世代交代の端境期にさしかかっているのも事実。そういった意味では、中心となるのは芝1200mに限れば、[7−4−0−0]の上がり馬ラッキーバブルス(父シーブリング、せん5歳)と見ていいだろう。まだGIタイトルはないが、初めてのGI出走となった今年5月のチェアマンズスプリントプライズで、香港のスプリント路線の実績馬を相手に2着と好走。勝ったのはオーストラリアから遠征のシャトークァで、地元勢では最先着を果たしている。今回はいよいよGI戴冠の大きなチャンスだ。

 2番手は横一線の中、ラッキーバブルスとライバル関係にあるアメージングキッズ(父ファルカーク、せん5歳)を挙げる。条件戦ではあるが、同じ舞台でラッキーバブルスを下したこともある。しかも、そのときのハンデキャップは、アメージングキッズのほうが3ポンド(約1.2kg)重かった。鞍上が香港のリーディング騎手ジョアン・モレイラというのも大きな材料だ。他にも選択肢があるなか、モレイラはこの馬を選んできた。

 以下は、8歳の古豪エアロヴェロシティ、フランスのサインズオブブレッシング(父インヴィンシブルスピリット、せん5歳)、さらに日本の2頭を挙げる。エアロヴェロシティは、この1年あまりが不運続きだった。まず、昨年10月のGIIプレミアボウルで心房細動を発症。連覇を目論んだ香港スプリントを断念した。復帰戦のセンテナリースプリントカップでは、力の違いを見せつけたものの、高松宮記念連覇へ乗り込んだ日本で今度はセン痛を発症して無念の回避。この鬱憤を2年ぶりのこのレース勝利で晴らしたい思いがあるだけに、軽視は禁物だろう。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu