ロシアW杯最終予選の戦いぶりが、フランスW杯最終予選と重なっていた。

 19年前の1997年に行なわれた最終予選は、ウズベキスタン戦の大勝スタートで幕を開けた。UAEに苦杯をなめた今回とは一歩目が大きく異なるが、そこから先のどこかすっきりとしない戦いぶりが、古い記憶を呼び覚ましていたのである。

 当時はカズこと三浦知良のチームだった。すでに“キング”と呼ばれていた男は、韓国との最終予選第3戦で臀部を強打してしまう。クラブチームのリーグ戦なら出場を回避してもおかしくないほどの痛みだったが、加茂周監督が率いるチームは韓国戦の直後に中央アジアへ遠征する。カザフスタン、ウズベキスタンとのアウェイ2連戦へ臨むことになっていた。カズをメンバーから外すことはできず、それにとって彼はコンディションを悪化させていくことになる。

 ストライカーでは城彰二、西澤明訓、岡野雅行らが招集されていたが、呂比須ワグナーと2トップを組むのはカズなのだ。経験と実績はもちろん決定力とネームバリューも抜群のカズは、チームメイトに安心感をもたらし、対戦相手の警戒心を惹きつける。彼がピッチに立つことの効果は、ゴールを奪うことだけにとどまらなかった。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督のチームにおける本田圭佑、岡崎慎司、香川真司らも、対戦相手にも良く知られた存在だ。ワールドカップ本大会に2度出場しており、ヨーロッパのクラブでプレーしている。自分ならではの“違い”を生み出せる選手だ。

 問題はコンディションである。所属クラブでコンスタントに出場していなかったり、ケガを抱えたりしているため、彼らはトップフォームを維持できていない。

 そうかといって、簡単に外せるわけでもない。

 フランスW杯最終予選はおよそ2か月で決着をつける集中開催だったが、ロシアW杯最終予選は集合と解散の繰り返しだ。時間がないまま実戦に挑むため、それまでに培ってきた選手同士の呼吸がチームの支えとなる。コンディションに不安を抱える選手がいるとしても、メンバーの入れ替えは難しい理由がそこにある。

 サウジアラビアとのホームゲームに臨んだヴァイド・ハリルホジッチ監督が幸運だったのは、直前にオマーンとのテストマッチが組まれていたことだろう。4対0で勝利したこの一戦で大迫勇也を1トップで、久保勇也を2列目右サイドでテストすることができた。本田らと同じくクラブでは出場機会の限られる清武弘嗣が、トップ下でしっかりと機能することも確認できた。サウジ戦の勝利は、オマーン戦が布石となっていたのである。

 フレッシュな組み合わせで臨むことのできたもうひとつの理由は、原口元気の台頭にある。最終予選が開幕する以前の彼は、武藤嘉紀や宇佐美貴史とスタメンを争うひとりだった。彼らのケガと原口自身のクラブでの好調ぶりが重なり、9月のタイ戦からスタメンに名を連ねることとなる。その後の活躍ぶりは目ざましい。

 ゴールという結果と守備での献身性を両立させている原口がいなかったら、ハリルホジッチ監督はもっと厳しい状況に追い詰められていただろう。すなわちそれは、ロシアW杯出場の道のりが、いま以上に険しくなっていたことを意味する。最終予選前半戦はMVPを選ぶなら、文句なしに彼である。

 さて、フランスW杯のアジア最終予選では、トップコンディションを取り戻せないカズに代わって、ゴンこと中山雅史が土壇場で得点源の役割を担った。当時20歳の中田英寿も、世代交代の象徴となった。

 ロシアへの道のりで、現在の日本代表にはどのような変化が起こるのだろう。チームの空気が変わるきっかけは、サウジ戦でつかんでいる。