金正恩氏

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北朝鮮の金正恩党委員長が、脱北者がいる家族に対して弾圧ともいえる取り締まりを行っている。その裏には、今年に入って脱北者の数が増加に転じたことがあるようだ。

金正恩体制が発足した2011年以後、脱北者数はそれほど増えていなかったが、今年に入って増加に転じる。韓国統一省は先月、11月にも脱北者数が3万人を突破すると明らかにしていた。

さらに今年8月末から北朝鮮北東部を襲った水害の影響で、脱北を防止する設備が破壊されてしまった。また、現地も混乱が続いていることから、この機会を狙った脱北者が増加しているという。

女子大生拷問部隊

元々、脱北行為に対して快く思わない金正恩氏にとって、この状況は許しがたいものに違いない。正恩氏は、更なる脱北増加の予防措置として秘密警察である国家安全保衛部(以下、保衛部)を被災地へ派遣した。

保衛部は、北朝鮮庶民の間で人気がある裏コンテンツである韓流ビデオをめぐって女子大生に拷問を加えるなど、強引な取り締まりで恐れられている。ただでさえ、被災して厳しい状況にあるにもかかわらず「拷問部隊」が派遣されたことに、現地住民からは不満の声が続出している。

参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

さらに治安機関は、脱北者の増加を食い止めるため家族に対する監視を強化。ただし、監視方法は「盗聴器」を仕掛けるという実にアナログな手口だった。

口に砂利を詰め

保衛部や保安(警察)署の担当者は、脱北者がいる家族の自宅を頻繁に訪れ、白々しく「一杯やろう」と誘う。そして、食卓の裏に盗聴器を設置する。また、移動しながら韓国との国際通話を摘発するためか、自転車にも盗聴器を設置するという。

もちろん、こんなアナログな方法では盗聴器を仕掛けられた家族も気づく。そして「なんでこんなものを設置するんだ」と保衛員を責め立てるが、本人は知らぬ存ぜぬの一点張り。脱北者がいる家族は「家に客が来た後は、家中を点検しなければならない」「イチャモンをつけられるような行動、言動に気をつけろ」などと神経を尖らせている。

わざわざバレる可能性があるにもかかわらず盗聴器を仕掛ける真の狙いは、家族間の猜疑心を生み出し脱北などを選択しないよう圧力をかけることかもしれない。

また、監視だけでなく「韓国にいる家族に『許してやるから、戻ってこい』と伝えろ」と、家族に揺さぶりをかける。その理由は、12月17日まで行われている「200日戦闘」の総和(総括)の時に、「脱北者を帰国させた」と実績を報告できれば、担当保衛員は昇進が約束されるからだ。何も成果が得られなければ、処罰される可能性もあることから彼らも必死だ。

保衛部に限らず北朝鮮の治安機関は、治安を維持する職務だけでなく、その過程で庶民からお金をかすめとり、それを上部の党組織に上納しなければならない。そのために「恐喝ビジネス」までも厭わない。

脱北者がいる家族が対象とはいえ、アナログな手口まで駆使して庶民を弾圧、統制しようとするのが金正恩体制の本質なのだ。