◇保育園を義務教育化すれば解決する



土屋:義務教育の年齢が下がればいいってことですか。

駒崎:そうです。基本的には保育園を義務教育化して全員分用意すればいいんですよ。小学校は用意できているんだから、その分用意すればいいだけなんです。小学校のスペースが空いているところもあるし、建て替えする時に保育園のスペースを作ればいい。

もっと言うなら、新しいビルを作る時に容積率が決まっているけれど、あれって実は国や自治体がいじれるんです。保育園を入れたら容積率をアップできますよって言ったら、喜んで高くするところも出てくるはず。これって政治家がすぐにできることなんです。

他にも、土地を持っている人はアパートを作ると固定資産税が減税されるんですよ。だけど、保育園を作っても固定資産税の減税はない。どっちが得かって言われたら、それはアパートを作りますよね。これは戦後、住宅が不足していた時代があって、どんどんアパートを作ってもらいたかったからできたものなんだけど、これが戦後から変わってないんですよ。

人が作った制度なんで、人が変えられるんです、東京都だけでもできるんです。知事が「やれ」と言えば、保育園を作れば固定資産税が減税できるという制度が出来る。

土屋:小池都知事はやれそうですか。

駒崎:舛添さんより10倍はマシです(笑)。一回も保育園に足を踏み入れなかった舛添さんよりはいいと思いますよ、選挙中もうちの園に来てくれましたし。ただ、小池さんがどうというより、都知事を働かせるのは都民ですから、ダメだったら舛添さんの時みたいに辞めさせて、うまくいったら拍手すればいい、これだと思います。

◇子供の看病で会社を休んで解雇される世の中はおかしい



土屋:そもそも駒崎さんは、日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを行っていますが、フローレンスを立ち上げたきっかけはなんだったんですか?

駒崎:僕の母親がベビーシッターをしていて、お客さんのひとりに双子のお母さんがいたんです。その双子のお子さんが二人続けて風邪をひいてしまった。風邪をひくと保育園では預かってくれないので、お母さんは長い間仕事を休んで看病したんですね。そうしたら会社が激怒して、事実上解雇になったという話を母から聞いたことがきっかけです。。

「子供が熱を出したから看病で休む」。そんな当たり前のことをして職を失う社会はおかしい。だから、そういう子供を、病気の時に預かることができればいいなと思ったんです。

行政も病児保育の施設を構えてはいるのですが、それだけだとカバーしきれない部分もありますし、不便だったりもします。病気の子供を移動させるだけでも大変だし心配じゃないですか。そこで、病気の子の家に行って面倒を見るという訪問型病児保育をスタートさせまして、それ自体は日本で初めてでした。

土屋:私がやっているラジオで一緒のアナウンサーも、3歳の子供を育てながらやってるんですが、やっぱり番組に穴をあけられないから病児保育を頼らざるを得ない。でも、「本当に預かってくれる場所が少なくて」と言っています。おっくんは保育の現場にいる者として、病児保育は難しいと思いますか。

奥村:この3月末まで横浜の保育園で主任保育士をやっていたんですが、保育園の朝は、子供たちが登園すると、まず検温して37度5分で預かれるか預かれないかを区切るんですよ。風邪をひいた子供を保育園で預かると、他の子に風邪がうつってしまう。お母さんも仕事で責任ある立場の人が増えていてなかなか休めないから、保育園で風邪をもらってきてしまうと、他のお母さんも同じように困ったことになってしまうんです。そんな中で、訪問型病児保育というのは大切だと思います。

土屋:保育士さんに風邪がうつったりしないんですか。

奥村:これは新任の保育士あるあるで、新人はすぐ風邪をもらって休みがちなんですが。現場に長くいるとだんだん子供の病気に対して耐性ができてきて、風邪ひかなくなるんです、本当に(笑)。

駒崎:うちは、そこは給与保障していて、「風邪で休んでも給与を保証するよ、だから安心してね」というやり方です。予防接種も打ってもらっていますが。

◇保育士は保護者以上に休めない



奥村:病児保育の話をしてるけど、先生は保護者以上に休めないんですよ。先生が病気を隠して出勤せざるを得ない状況がある。だから、病気の先生の代行もあったほうがいい。

駒崎:いま、東京と仙台15カ所で保育園を運営していて、東京には13カ所あります。先生も休みたいんですが、保育業界は休めないのが基本。これはおかしいと思ったので、うちでは1〜3カ所に1人、余剰人員を置くことにしたんです。

ヘルプマンと呼んでいるんですが、「ヘルプマンが行くから休んでもいいよ」と、先生が休める体制を作りました。そしたら保育士さんが「ここは休めるから素晴らしいです」って言うんですよ。印象的な言葉でしたね。

奥村:それは、複数園あるからなんですよ。普通はシフトがギリギリに組んである。だから休めるというのは羨ましいです。

土屋:複数の保育園があることで、こっちの人があっちに行くということができるんですね。

奥村:一カ所でやっている保育園だと、余剰人員をつけたらそれだけで赤字だし、先生ひとり休むだけで、人手が足りなくなって、目が届かなくなって、ヘタしたら子供が危ないですからね。

土屋:事件は現場で起きてるんですね。現場の人にもっとアピールしろと言っても難しいところもあるとは思いますが…。

駒崎:現場の人が給料上げろとは言いづらいから、僕が「給料上げようよ」と言っている。そんな状況です。僕は、現場の声を拡声する拡声器になれたらいいなと思っています。

プロフィール


■駒崎弘樹

1979年、東京都江東区出身。NPO法人フローレンス代表理事。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、「地域の力によって病児保育問題を解決し、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」と考え、2004年にNPO法人フローレンスを設立。08年Newsweek「世界を変える100人の社会起業家」に選出。10年から待機児童問題解決のため「おうち保育園」開始。後に小規模認可保育所として政策化。14年、障害児保育園ヘレンを開園。著書に「社会を変えるを仕事にする」「働き方革命」など。
■奥村政佳

1978年、大阪府出身。筑波大学自然学類卒。高校在学中、17歳の当時最年少で気象予報士に合格。2001年にアカペラボーカルバンド「RAGFAIR」のボーカルパーカッショニストとしてデビュー。音楽活動と並行して保育士資格取得。2016年春まで主任保育士を務める。横浜国立大学大学院教育学研究科に在学中。
■土屋礼央

1976年、東京都国分寺市出身。RAG FAIR として2001年にメジャーデビュー。 2011年よりソロプロジェクト「TTRE」をスタート。ニッポン放送「土屋礼央 レオなるど」、TOKYO MX2「F.C. TOKYO魂!」、FM NACK5「キラメキ ミュージック スター キラスタ」などに出演中。ニューアルバム「ブラーリ」が好評発売中。
TTREニューアルバム「ブラーリ」
土屋礼央 オフィシャルブログ
Twitter - 土屋礼央 @reo_tsuchiya
FC東京のために200兆円で味スタを満員にしてみた (ダ・ヴィンチBOOKS)
土屋 礼央
KADOKAWA/メディアファクトリー
売り上げランキング: 31,268


◇土屋礼央のじっくり聞くとシリーズ


「お坊さんも困ってる」Amazonお坊さん便の仕掛人が語る″ネットで僧侶″の必要性(第1回)
「とにかくやりたいことをやろう」立川流真打・立川志ららが落語家になったワケ(第2回・前編)
「落語は書いて覚えるな」真打まで18年の修行道(第2回・後編)
ゲーム実況で生きていけるの?人気実況者・茸が明かす「稼ぎのカラクリ」(第3回)
「″障がいを乗り越えてやっている″と思って欲しくない」パラリンピアン・田口亜希さんに聞く 障がい者スポーツのこれから(第4回)
「必要な分だけ払えばいい」ジェットスターの中の人が明かす安さの秘密(第5回)
渋滞はなぜ起こる?東大教授が解明した「渋滞を解決する方法」(第6回)
ウチの子をもっとかわいく!ニャンスタグラマーに聞く「盛れてる」ペット写真の撮り方(第7回)