Photo by jonathan.leung

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「ジャイアーーーン!」と葬儀の祭壇に向かって呼びかけたのが、わずか一年少し前。今度はその声を発した<スネ夫>が逝ってしまうとは……。声優の肝付兼太さんが肺炎のため、亡くなった。享年八十。

「7月くらいに『アンパンマン』の劇場版(注1)を娘と観に行ったんですが、ホラーマン役の肝付さんの声が、ものすごく枯れてて、元気が無くてビックリしました。収録したのはもっと前でしょうが、相当に衰弱されてたんですね」(40歳代のアニメファン)

 まずは肝付兼太さんのご冥福を祈りたい。

 肝付さんは鹿児島県出身。俳優を志すがなかなか食べられず、別の職業に就きつつチャンスを伺ったという。徐々に役者仕事が増えていくなか、1965年のアニメ『オバケのQ太郎』のゴジラ役が運命を変えた。アドリブを交えたユーモラスな芝居が原作者の藤子不二雄氏(注2)に気に入られ、藤子作品がアニメ化される際は常連となった(注3)。

 『パーマン』のカバオ、『ジャングル黒べえ』の黒べえ、 『怪物くん』のドラキュラ、『忍者ハットリくん』のケムマキ、『キテレツ大百科』の苅野勉三など、強烈な印象が残るキャラクターを演じてきた。また藤子作品以外でも、『銀河鉄道999』の車掌、『ドカベン』の殿馬、『にこにこぷん』(注4)のじゃじゃまる等も、人気が高い。

――が、なんと言っても肝付さんの代名詞と呼べる役は、国民的アニメ『ドラえもん』のスネ夫だろう。今回の訃報も、

「アニメ『ドラえもん』で初代スネ夫を演じた」(朝日新聞)

 と報じたメディアが実に多かった。が、これは間違いである。

 肝付さんは二代目のスネ夫役(注5)であり、実は初代ジャイアン役。冒頭のたてかべ和也さんの葬儀での叫びは、初代ジャイアンが二代目ジャイアンを追悼したものだったのだ……。

■封印された『ドラえもん』第一作

 さらに言えば大山のぶ代は三代目(注6)のドラえもん役だ。知っている人は知っているが、1973年の日本テレビ版『ドラえもん』の存在があるゆえ。こちらが『ドラえもん』のアニメ化第一作なのだ。

 つまり現在、放映中のテレビ朝日版『ドラえもん』は第二作。しかも1979年から2005年の第一期(とされる)声優陣が演じた期間があまりに長く、印象が深いため、これがアニメ『ドラえもん』のスタートと思っている向きが多い。

 たてかべさんが亡くなった時も「初代ジャイアン死去」といった報道が多く、筆者はその誤りを指摘した。しかし今回、またも日本テレビ版『ドラえもん』は<無かったこと>にされた。原作者である藤子・F・不二雄氏がアニメの第一作をお気に召さなかったから、と巷間伝わっているが……。

「加えてアニメ制作会社が倒産したり、著作権の扱いが雑だったり。第一作はトラブルが多い作品だったんですよ。扱おうとしても資料が散逸しているし、小学館や藤子プロから抗議が来る可能性が高い」(元アニメ誌編集者)

 いまの子供たちに取ってドラえもんは水田わさびの声で、スネ夫は関智一だ。大山のぶ代のドラえもん肝付兼太のスネ夫がメジャーであっても、やがては歴史になる。第一作『ドラえもん』も歴史の一ページとして、折りに触れて言及して(注7)あげて欲しいと思う。

 ただキッカケが出演者の訃報というのは、もう勘弁してもらいたい……。

(注1)『アンパンマン』劇場版…『それいけ!アンパンマン おもちゃの星のナンダとルンダ』
(注2)藤子不二雄…この時はまだ藤子不二雄Aと藤子・F・不二雄に分かれていないが、特に藤子・F先生に気に入られていたという。
(注3)藤子作品の常連…同じ作品でもリメーク時は別の役を演じたり……。
(注4)『にこにこぷん』…1982年、NHK「おかあさんといっしょ」番組内で始まった着ぐるみによる人形劇。
(注5)二代目スネ夫役…初代は八代駿。
(注6)三代目ドラえもん…初代・富田耕生、二代目・野沢雅子。
(注7)言及して…再放送しろとは言わない。実際、フィルムの散逸などで難しい模様。

著者プロフィール


コンテンツプロデューサー

田中ねぃ

東京都出身。早大卒後、新潮社入社。『週刊新潮』『FOCUS』を経て、現在『コミック&プロデュース事業部』部長。本業以外にプロレス、アニメ、アイドル、特撮、TV、映画などサブカルチャーに造詣が深い。Daily News Onlineではニュースとカルチャーを絡めたコラムを連載中。愛称は田中‟ダスティ”ねぃ