日本損害保険協会会長 北沢利文氏

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日本損害保険協会の会長に就任した北沢利文氏(東京海上日動火災保険社長)に、損保業界が直面する課題と協会の取り組みについて聞いた。

■地震、自動車事故に次ぐ新たなリスクとは

──損保協会として、どのような活動に取り組んでいくか。

【北沢】リスクに関する情報の発信、そして、損害保険各社の健全性向上と確実な保険金支払いに資する取り組みをしていきたい。4月に熊本地震が起きたが、地震のリスクや地震保険に対する理解促進が特に重要だと考えている。日本で生活する以上、地震をはじめとする自然災害は避けて通れない。それに対する備えとして、保険はもちろん、どうすれば身を守れるか、被害の拡大を防げるか、いち早く復旧できるか、といったことも含めて、幅広い情報提供を行っていきたい。

──地震保険の世帯加入率は2016年末で29.5%に留まっている。

【北沢】地震保険ができて今年で50周年になる。阪神淡路大震災のときは、地震保険の世帯加入率は7.0%にすぎなかったが、その後も必要性を訴え続けて、ようやくここまで来た。これからも代理店に向けた情報提供の強化などを通じて、加入率100%を目指して普及に努めていく。

──南海トラフ地震や首都直下型地震が起こる確率は30年以内に70%といわれている。それに対する備えは。

【北沢】大規模地震が起きた場合のシミュレーションを積極的に行うよう、各保険会社に働きかけていく。また、今回の熊本地震では、保険金の支払いが約23万件に上り、阪神淡路大震災のときよりも多かった。これが南海トラフや首都直下型の場合、桁違いの件数になる。そこで、保険金の支払いに関する手続きの簡素化を今、業界を挙げて研究している。その一環として、熊本地震で初めて、一部の損害調査にタブレット端末を導入した。端末に損害内容を入力すると、損害割合と支払う金額が即座にわかり、お客様に速やかに案内ができ、次の立ち会い調査にもすぐに向かうことができる。このような業界共通のシステムづくりのほか、電話でのヒアリングなどの被害状況を把握する方法も検討している。

──自動車の自動運転技術の開発が急速に進んでいるが、どう対応するか。

【北沢】協会では自動運転の法的責任について検討を重ねてきた。自動運転には4つのレベルがあり、レベル3まではドライバーが運転に関与するため、現行法に基づく損害賠償の考え方が適用可能だと考えている。それに対してレベル4は、加速・操舵・制動をすべてシステムが行い、ドライバーは運転に全く関与しない。そのため、事故が起きたときに、被害者の補償を誰が行うかが問題になる。そこで、レベル4の自動運転車については、従来の自動車とは別のものとして捉え、事故が起きた場合に被害者の救済が行われる仕組みづくりを推進していきたい。

──新たなリスクとしては、ほかにどのようなことが考えられるか。

【北沢】あらゆるものがインターネットでつながるようになる中で、特に危険だと考えているのがサイバーリスクだ。先日もサイバー攻撃を受けてJTBの顧客情報が大量に流出する事件が起きた。世の中、便利になればなるほど、その裏には巨大なリスクが生まれる。そのリスクを正確に判断し、ヘッジする保険はもちろんだが、事故の予防、事故が起きた場合の拡大防止、そしてそこから得た教訓を再発防止につなげていくこと。こうしたプロセスを含めたリスクマネジメントに関する情報を、世の中に積極的に発信していくことこそ、協会の重要な使命だと考えている。

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日本損害保険協会会長 北沢利文
1953年、長野県生まれ。77年東京大学経済学部卒業後、東京海上火災保険(現東京海上日動)入社。2010年東京海上日動あんしん生命保険社長、東京海上ホールディングス取締役、14年東京海上日動火災保険取締役副社長、16年4月より取締役社長。16年6月より日本損害保険協会会長に就任。

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(増田忠英=構成 枦木 功=撮影)