3歳牡馬クラシック最終戦となるGI菊花賞(京都・芝3000m)が10月23日に開催される。最大の話題は、春のクラシックを沸かせた2頭の対決だ。

 その2頭とは、一冠目のGI皐月賞(4月17日/中山・芝2000m)を制したディーマジェスティと、二冠目のGI日本ダービー(5月29日/東京・芝2400m)でハナ差2着となったサトノダイヤモンド。どちらも前哨戦をきっちり勝って、抜かりない状態にある。まさに「2強」の様相。ダービー馬マカヒキは不在ながら、三冠の最後を飾るにふさわしい、見応えのあるレースになりそうだ。

 下馬評でも「勝つのは"2強"のどちらか」というムードにある。とはいえ、菊花賞はどの馬にとっても未知の距離となる3000mの舞台。過去には、穴馬が大金星を挙げたケースも少なくなく、伏兵馬の逆転勝利を狙って馬券を買うのも悪くない。

 そこで、過去10年の菊花賞で金星を挙げた3頭をピックアップ。そこから、今回の「穴馬」になりそうな馬をあぶり出してみたい。

◆過去10年で金星を飾った「伏兵馬」
2010年=ビッグウィーク(7番人気、単勝2320円)
2009年=スリーロールス(8番人気、単勝1920円)
2006年=ソングオブウインド(8番人気、単勝4420円)

 上記3頭のうち、ビッグウィークとスリーロールスは、夏場から秋口にかけて1000万下クラスを勝ち上がっているという共通点があった。

 ビッグウィークは、未勝利から500万下、1000万下と3連勝を飾ったあと、トライアルのGII神戸新聞杯(阪神・芝2400m)で3着となって本番へ。スリーロールスは、1000万下で4馬身差の圧勝をして、そのまま菊花賞に駒を進めた。そして、ともに戴冠したのだった。

 菊花賞の歴史を見れば、夏場に1000万下をクリアしてきた馬が、金星を飾っているケースが多い。2004年に8番人気で制したデルタブルースもそのパターン。また、勝利は挙げられなかったものの、2014年に7番人気で3着に入ったゴールドアクターも、本番前に500万下、1000万下と連勝している。

 つまり菊花賞では、最上級の勝利がたとえ1000万下であったとしても、連勝したり、圧勝したりして、夏の「上がり馬」としての高い能力を示していれば、十分に勝ち馬となりえるのだ。

 今年のメンバーを見ると、そういったタイプが実に多い。500万下、1000万下を連勝して挑む馬は、ウムブルフ、ジュペルミエール、ジュンヴァルカンの3頭。さらに、同じく連勝したのちに、神戸新聞杯で4着となったカフジプリンスもいる。過去の例から、この4頭は「2強」に割って入る、あるいは「2強」を逆転する候補と見ていい。

 これらの中でも、ここでは「2強」の逆転候補、金星をゲットできる可能性のある馬まで絞り込んでいきたい。

 まずは、3000mのレースだけにスタミナがポイントとなる。ただその点に関しては、4頭とも2400mや2600m戦を勝っており、どれも遜色はない。

 そこで、観点を変えてみたい。確かに菊花賞ではスタミナが必要だが、一方で近年ではスピード能力を秘めていることも勝利の必須条件となりつつある。というのも、この時期の京都競馬場は"超高速馬場"になりやすいからだ。

 例えば2014年、トーホウジャッカルが従来の記録を1秒7も更新する3分1秒0という驚異的なレコードタイムをマークした。今年の京都開催も、2歳未勝利戦でレコードタイムが出るなど、かなりの"高速"状態となっている。よって、一定のスピードがないと厳しいだろう。

 昨年のレースを振り返ってみても、勝ち馬キタサンブラックは母父がスプリンターのサクラバクシンオーだったため、戦前は血統面から距離適性に疑問が持たれていた。しかし、その不安を一掃して快勝した。また、2着のリアルスティールも、母父は短距離色が強いストームキャットだった。

 要するに、もはや菊花賞ではスタミナ一色の血統では通用しないのではないか。一部スピード色が混ざった血統馬のほうが強いのではないだろうか。

 そう考えて先述した4頭の血統を見てみると、2頭の馬に注目がいく。シュペルミエールとジュンヴァルカンだ。

 前者の父はステイゴールド、後者の父はネオユニヴァースと、どちらも中長距離に秀でた血統である。翻(ひるがえ)って、母父にはスピード色の濃い馬名が記されている。

 シュペルミエールの母父はクロフネ。同馬は、種牡馬としてスリープレスナイトやカレンチャンなど、スプリントGIを勝った産駒を次々に輩出。マイルGI馬も出していて、まさにスピード系の血統だ。

 そして、ジュンヴァルカンの母父エンドスウィープは、2000m以上のGIを勝った産駒もいるが、総合的には短距離で活躍する子を多く出している。マイルGI2勝のラインクラフトや、ダートの短距離戦で鳴らしたサウスヴィグラスなどがそうだ。

 長距離戦の下級クラスを連勝しているシュペルミエールとジュンヴァルカン。距離に不安がないうえ、血統にはスピード色が混ざっている。近年の傾向から言って、この2頭なら「2強」を上回る結果を出してもおかしくない。

 ところで、冒頭で記したビッグウィーク、スリーロールス、ソングオブウインドの成績を振り返ると、3頭とも菊花賞までは2000m以下のレースでしか勝っていなかった。要は中距離以下で高い能力を発揮してきたタイプであり、そうした点からも菊花賞で穴を開けるには、やはり"スピード"が重要視されるのではないだろうか。

 であれば、今年の菊花賞メンバーの中で、2000m以下の実績に秀でており、なおかつ人気の盲点となりそうな馬がいれば、それもまた「穴馬」として面白い。

 そんな存在としてお勧めしたいのは、マウントロブソンだ。

 同馬は、春にGIIスプリングS(3月20日/中山・芝1800m)を制していて、スピードの裏づけがあり、世代上位の実力があることも証明されている。前走のGIIセントライト記念(9月18日/中山・芝2200m)では7着と敗れたが、これは「調教不足が原因」と陣営は断言している。この結果は度外視していい。

 皐月賞ではハイペースを先行して、勝ち馬からコンマ7秒差の6着と健闘。続くダービーは7着だったが、スタートで出遅れて、実力は出し切っていない。ひと叩きして、確実に上向きの状況で迎える最後の一冠で、「2強」を逆転できる可能性は大いにある。軽視は禁物だろう。

 3000mという未知の距離に加え、高速馬場という条件の中で行なわれる菊花賞。特殊な舞台で最後の一冠を手にする馬はどの馬か。3分に及ぶ"死闘"をじっくりと見守りたい。

河合力●文 text by Kawai Chikara