日本ダービー2着馬サトノダイヤモンドの休み明け初戦、前走の神戸新聞杯(9月25日/阪神・芝2400m)は、2着ミッキーロケットに最後まで食い下がられる、まさに辛勝だった。

 キングカメハメハ産駒の素質馬で、いわゆる「夏の上がり馬」とはいえ、ミッキーロケットは1000万条件を勝ち上がったばかり。春のクラシック第1弾となる皐月賞では、勝ち馬から2秒以上も離されている。トライアルとはいえ、そんな"格下"にタイム差なしのクビ差まで迫られたサトノダイヤモンドに対して、「やや心許ない」という声が漏れている。

 しかし一方で、「あのクビ差は、どこまでいっても縮まらない差。トライアルとしては上々だった」という声もある。

 牡馬クラシック最後の一冠、菊花賞(10月23日/京都・芝3000m)に挑むサトノダイヤモンド。その滑り出しとしては、はたしてどちらの評価が正しいと見るべきだろうか。

 その手がかりは、ダービーにある。

 ダービーの勝負どころとなる最後の直線で、サトノダイヤモンドが落鉄したことはよく知られている。それが、勝ち馬マカヒキとの叩き合いの末の、ハナ差負けにつながったとも言われている。

 実は、ディープインパクト産駒の走る馬は総じて、爪が薄いという"弱点"がある。サトノダイヤモンドもその弱点を抱えていて、それがあの落鉄の原因ともなっている。しかも、あれはただの落鉄で終わらず、あの激走によって、思いのほか深い傷を爪に負ったらしい。

 関西の競馬専門紙記者が語る。

「ダービーのあとは、とにかく痛めた爪を治すのが最優先で、その他のことは二の次、三の次。そのため、調整が遅れに遅れて、神戸新聞杯には『何とか間に合った』という感じでした。これまでずっと折り合いのよかった馬が、あのレースでは力んで走っていましたからね。あれは、馬体がまだ戻り切っていなかった証拠です。

 それでも、ちゃんと結果を出しました。さらにトライアルを叩いたことで、状態はグングン上昇しています。今度は、きっちり勝てるんじゃないですか」

 思えば、マカヒキの手綱を取って弥生賞を制したルメール騎手は、春の二冠でマカヒキに騎乗する選択肢もあった。それをあえて、パートナーにはサトノダイヤモンドを選んだ。サトノダイヤモンドのほうが、将来的な「伸びしろが大きい」と見込んだからだ。

 結果的にダービーは、不運な落鉄でマカヒキの後塵を拝したが、ルメール騎手の「この世代では、サトノダイヤモンドが最強」という思いは、少しも揺らぐことはなかった。迎える菊花賞は、春の二冠の鬱憤を晴らし、ルメール騎手のサトノダイヤモンドに寄せる信頼が、ついに報われる舞台と見るべきだ。

 3000mの距離についても、レースでしっかりと折り合える、この馬の最大の長所を考えれば、他の馬より向いている可能性は高い。少なくとも、距離が原因で負ける、という心配は他馬に比べて少ないだろう。

 ひとつ不安があるとすれば、オーナーの里見治氏にまつわるジンクスか。

「サトノ」の冠名で知られる里見氏は、良血で、しかもセレクトセールで億単位の高額で落札した馬を何頭も所有している。ところが、いまだにGIの勲章だけは手にしたことがないのだ。

 これは、日本競馬界にいくつかある"不思議"の、極めつけのひとつとされている。ダービーで敗れた不運も、その「ジンクスだったのでは......」という声さえある。

 だが、それゆえと言うべきか、先の専門紙記者によれば、多くのトップレベルの調教師たちが今最も目指しているのは、「サトノの馬でGIを勝つこと」だという。

「もちろん、最初にジンクスを破ったという"名誉"もあるのでしょうが、もし里見オーナーの馬でGIを勝てば、その後もいい馬をどんどん預けてもらえるはず。それは、調教師たちにとっては、相当な魅力だと思います」

 となると、これも考えようによっては、むしろ追い風だ。

 春の二冠は、皐月賞3着、ダービー2着と、無冠に終わったサトノダイヤモンド。菊花賞で最後の一冠を手にして、オーナーの里見氏にもGIの栄冠をもたらすことができるのか。華やかな歓喜の瞬間が訪れることを期待したい。

新山藍朗●文 text by Niiyama Airo