北朝鮮の故金正日総書記は、大飢饉「苦難の行軍」のまっただ中にあった1998年、北部の両江道(リャンガンド)大紅湍(テホンダン)郡を中心とした地域に、ジャガイモ農場を開発することを指示し、1000人以上の除隊した軍人を送り込んだ。

その15年後の2013年10月、労働新聞は「大紅湍では偉大なる変革が起きた」とし、収穫が4.5倍に達したと紹介、「世界ジャガイモ大会で朝鮮の大紅湍ジャガイモが世界的レベルを突破した」と自画自賛した。

北朝鮮で「ジャガイモ革命」と呼ばれるこのプロジェクトは大成功を収めたのだが、今ではジャガイモが取れすぎて逆に困っているという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

両江道の情報筋によると、道内の機関や企業所には、道の農村経理委員会と収売糧政局から「協同農場にジャガイモの配給を早く取りに行け」と矢継ぎ早の催促が届いている。ところが、誰も取りに行こうとしないという。損をするからだ。

配給量は、1人あたり2ヶ月分112キロ。職場全体となるとトン単位になるので、トラックを借りて運ぶしかない。

ところが、ガソリン1キロ(1.34リットル)の値段は8000北朝鮮ウォン(約96円)。ジャガイモは1キロでわずか400北朝鮮ウォン(約4.8円)。トラックのレンタル料やガソリン代の方が高く付くため、4ヶ月分をもらわなければ損をするというのだ。

各協同農場にはジャガイモが山積みになっているが、貯蔵施設がないので、このままでは傷んでしまう。

当局は農民に対して「余ったものはデンプンにして軍隊に供出せよ」との指示を出したものの、電力が全く供給されていないため、機械は使えない。秋はただでさえ忙しい季節なのに、手作業でデンプンづくりをしている暇などない。

傷んでいくジャガイモを横目に、農民たちは困り果てているという。

貯蔵施設がない場合は「雪室」を利用する方法もあるが、それも難しそうだ。北朝鮮の冬は寒くても、雪はあまり降らないからだ。韓国気象庁の統計によると、1月の平均降水量は、三池淵(サムジヨン)が18.1ミリ、恵山が5.2ミリ。東京の52.3ミリ、札幌の113.6ミリと比べると非常に少ないことがわかる。

別の町に運ぼうにも、恵山まで直線距離でも80キロ、平壌となると400キロも離れていて、ガソリン代も馬鹿にならない。さらには道路も整備されていない。

農場ではジャガイモが大量に余り、軍隊などでは食糧不足に陥っている。ちぐはぐな北朝鮮の現状だ。