『中学受験 わが子を合格させる父親道―――ヤル気を引き出す「神オヤジ」と子どもをツブす「ダメおやぢ」』鳥居りんこ著・ダイヤモンド社

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親の学歴が高くなくても子が賢くなる家庭を観察すると、3つの共通点がある。それは、リビング内に百科事典、ホワイトボード、そして作家・重松清の著作があることだ――。

■親が東大出身でなくても賢い子が育つ家の共通点

最初に身も蓋もない話をさせていただく。大変、恐縮である。

私は長年、中高一貫校の取材をさせて頂いているので、校長先生方にお話を伺うことも多い。ありがたいことに、そのお付き合いの中で「本音」を聞かせて頂ける機会に巡り合うこともある。

例えば、複数の校長先生がおっしゃった言葉があるので、ご紹介する。

「結局ね、りんこさん、東大に行くような子は元々のDNAが違う。親族に東大出身者がいない家系からは無理!」(本当に身も蓋もなく恐縮である)。

「親族に東大出身がいないけど、ウチの子は東大ですけど?」と言われる方もおられるとは思うが、これは例えば戦争などの影響で学校に行きたくても行けなかったとかで「東大合格証書」はないかもしれないが、それに匹敵する頭脳を持ち合わせているご先祖さまが何処かにおられるという風に推測されるのだそうだ(あくまで一部の校長先生方の証言)。

「じゃ、無理だわ!」とわが子へのすべての教育を諦めるのはまだ早い。

私はこの<DNA説>に対抗すべく、「窮鼠猫を噛む」的発見はないものだろうかと、数年前から偏差値が高いとか優秀大学に進んだというよりも(結果としてリンクするが)、「学ぶことが好き」という子の家庭環境について調べている。

こういうご家庭に聞き取り調査をしていくと、そこには「三種の神器」が存在する。今夏発売の拙書『わが子を合格させる父親道(ダイヤモンド社)』にも載せたが、ここでさらに詳しくつづってみたい。

■三種の神器は、居間に「落ちている」

【頭の良い子を作る「三種の神器」 1:百科事典】

マストである。これに加えて、図鑑、辞書の類もある。これらは壁を彩る装飾品ではなく、実際に頻繁に使われている。しかも、親が命令するのではなく、子どもが寝そべりながらそれらを飽きもせずに眺めているという傾向が見られた。

もちろん、調べ物をするときにも使うのであろうが、それよりも『コロコロコミック』が畳の上に落ちていると同じ感覚でそれらがある。

何をするにもある程度の基礎教養(読み書き算盤)という土台がなければいけないのであるが、この事典の類に幼いときから触れていると、語彙力と知識が爆発的に増えるようなのだ。文字の中を浮遊している内に、目は他の解説に浮気しているということだ。

【頭の良い子を作る「三種の神器」 2:ホワイトボード】

これもかなりの確率でリビングダイニングに置いてある。教育力が高いご家庭は例外なく「家庭力」つまり家族間のコミュニケーション能力も高いのであるが、このホワイトボードがそれに一役買っているのだ。

もちろん普通に「おやつは戸棚の中。お母さんは6時には帰ります」というような家族の伝言に使われることも多いと思うが、それに加え、これを使って家族で遊んでいる光景が見えるのだ。

例えば、なぞなぞを書いていたり、ちょっとした連絡を書いていたり、落書きだったり、本日の四字熟語だったりが秩序なく羅列されているイメージだ。子どもが感じた些細な疑問を書いていることもあれば、親が問題のヒントだけを書き足すこともある。要は、親子で「交換日記」的なコミュニケーションを日々、楽しく行っているって感覚のようだった。

■子どもを賢くする漫画作品はコレ!

【頭の良い子を作る「三種の神器」 3:重松清】

みなさんご存知、大作家である。小学生にも十分、読みこなせるくらいのわかりやすい文章でつづられている著作も多いが、すべてが深い。

ゲーム機内の「ズキュン、バキュン」という擬音語だけでは人の心の機微は十分には育ってはいかないのだろう。これを育むためも大きいが、良書はその後のわが子の人生に多大な影響を与える。

代表として重松清さんを挙げたが「学ぶことが好き」という知的好奇心を持ち続ける土台を築けた子どもが育った家には、子どもの年齢に応じた良書が数多く置いてある。

「ウチの子、本は嫌いなんだよね」という親御さんにはまず、こちらをお勧めしたい。リビングの中で気軽に子どもが手に取れる場所に漫画本をたくさん並べて置くのだ。

それは『ONEPIECE』(尾田栄一郎)でも『名探偵コナン』(青山剛昌)でも良いのだが、その中に例えば『動物のお医者さん』(佐々木倫子)やら『火の鳥』(手塚治虫)やら、漫画で読む偉人の伝記やら、漫画で描いた日本の歴史、科学漫画サバイバルシリーズ(朝日新聞出版)やらを忍ばせておくのだ。

「読め」と強要してはいけない。あくまで忍ばせておき、興味を持ったら、内心「シメシメ」と思う程度でいい。そして、徐々にその中に、例えば「かいけつゾロリ」(原ゆたか)などの「本」を紛れさせ、何気に「重松」に持って行き、最終的には「新聞」に移行できたら最高だ。

さらに言えば、これに子どもが「もっと! もっと!」とせがむほどの3分程度の読み聞かせを小学校6年生くらいまでやり続けられたら、子どもの情緒、学力、知力、親子関係などのすべてが好転し出すので、騙されたと思って、小学生以下のお子さんをお持ちの方は今夜から実行して頂きたい。3カ月くらいで驚きの効果を実感できるだろう。ただし、続けなくては意味がないので、親に相当の忍耐力は必要になる。

■子を賢くする新・三種の神器は「折り紙」「時刻表」……

おまけとして、これら三種の神器にさらに付け加えるならば、こういうものがある。

「囲碁」「将棋」「折り紙」「時刻表」「ジグゾーパズル」。

こちらは聞き取り調査をしていると、どうも頭の中で「展開図」を描けて行く能力が磨かれるようなのだ。

先を予想するというのか、想像力が発達するというのか、長じたときに「計画・実行・評価、改善」といういわゆる「PDCAサイクル」で自然に動けるという武器になるようだった。

このように「知的好奇心」を家庭で伸ばしてもらえたお子さんたちはこう証言した。

「やらされ感がなかったので、逆にそれは自分でやり遂げたという満足感になった」と。

私が調査した限りでは、この三種の神器を持っていたご家庭は「撒き餌」が上手で、釣果を急いだりはしていない。魚が餌に食い付くがごとくわが子が何かに夢中になっていたら、それを決して邪魔せず、見守っているのだ。

これをお読みの方の中には泥遊びに夢中なお子さん、ダンゴ虫採取に余念のないお子さんをお持ちの方も数多くおられるだろう。

これからはシーズンなので「全身落ち葉」やら「どんぐり収集」に熱中するお子さんが続出するだろう。しかし、止めてはいけない。

賢い子を作るキーワードを言っておこう。

「好きなことを好きなだけ」

ただ、これだけである。

我が子が何かに対し、時が経つのも忘れて集中するということがあったなら、それが本当に楽しくて「俺さま、スゲー! 楽しい!」と思ってやっていることなのか、何かから逃れるために「現実逃避」として中毒症状が出ているかを見極めることは大切だ。

もし前者であるならば、親はそれを止めてはいけない。

私の研究発表をまとめてみる。

「我が子に雲の上に登るほどの集中力を付けさせることが、頭脳明晰なDNA雲上人と互角に渡っていける唯一の道である」

(エッセイスト、教育・子育てアドバイザー、受験カウンセラー 鳥居 りんこ エッセイスト、教育・子育てアドバイザー 鳥居りんこ=文)