■短期集中連載・海外馬券発売開始! 2016凱旋門賞(6)

 95回目にして、初めてシャンティイ競馬場で行なわれた凱旋門賞。太陽を隠していた薄い雲がちょうど晴れたとき、勝負は佳境を迎えた。最後の直線、2番手から前を伺うオーダーオブセントジョージとポストポンドの、ほんの僅かな隙をこじ開けて一気にファウンドが踊り出る。あっという間に突き抜け、後続を一気に引き離す。追ってくるのは僚馬のハイランドリール。その内ではこれまた僚馬のオーダーオブセントジョージが粘り、ポストポンドを交わして猛追してくるシルジャンズサガに耐えている......。

 しかし、ファウンドの伸び脚は止まらない。今年に入ってGIで5戦連続2着の鬱憤を一気に晴らすかのように、2分23秒61のコースレコードで駆け抜けた。2、3着も同じくクールモア(※)勢のハイランドリール、オーダーオブセントジョージ。人気のポストポンドは一旦、先頭に立つ気配も見せたが、ゴール前で失速して5着。日本から挑戦したマカヒキは14着に敗れた。
※世界各地に拠点を持つ競走馬生産者グループ


 今年はロンシャン競馬場が改修のため、シャンティイ競馬場での異例の代替開催。それに象徴されるように、異例ずくめの凱旋門賞となった。

 まず定説とも言われていた「3歳有利」が完全に崩れたことだ。出走16頭中、6頭が3歳馬で、しかもマカヒキ、レフトハンド、ハーザンドといった面々は上位人気にも推されていた。それにもかかわらず、上位7頭までが古馬で、3歳馬で最先着を果たしたのはハーザンドのペースメーカーであるヴェデヴァニを除いた5頭の中で最も人気のなかったドイツのサヴォワヴィーヴルで、スタートの出遅れから直線で猛然と挽回しての8着だった。

 また、シャンティイの2400mは右回りであるが、コースの形状がやや特殊で、スタートしてすぐに左に反るようにカーブを切る。外枠が不利と言われるシャンティイでも、立ち回り次第で外枠の馬がスルスルと内に潜り込むことができる。

 さらに、馬場は先行有利の高速馬場。前日から「緩い」という関係者のコメントが聞こえていたが、馬場状態を表すペネトレメーターの数値は3.0。これは緩いどころか、むしろ硬い部類だ。それを如実に表すかのように、前半に組まれたふたつの2歳マイルGIでは、それぞれ1分35秒台の決着と、フランスの馬場を考えれば相当に速いものとなっていた。しかも、前日から前に行った馬が最後まで粘り、中段から後方でレースを進めた人気馬は、ことごとく人気を裏切っていた。シャンティイはむしろロンシャンよりも「乾きにくい」馬場だ。それでいてのこの状況なのだから、いかに馬場を読み切ることができるかが、レースの命運を握ったといっても過言ではない。

 これに見事に対応しきったのが今回上位を独占したクールモアの3頭で、ハイランドリール11番枠、ファウンド12番枠、オーダーオブセントジョージは大外16番枠と、枠順だけ見れば悲観的にもなりそうなところを、3頭の人馬がそれぞれに、それぞれの役割を完璧に果たしながら、最高の結果を導き出した。

 まずはそれぞれのスタートだ。発走してすぐ、コースを外側に向かうところで、オーダーオブセントジョージがすぐ内のレフトハンドとマカヒキに接触。そこで、鞍上のフランキー・デットーリ騎手は馬群から外に離れた場所に馬を誘導した。接触したことで気の立った馬がここで馬群に取り付いていくと、折り合いを欠くことに繋がりやすい。馬群から離すことで、まずは落ち着かせたのである。

 ファウンドは控えめにスタートを切ると、進行方向左、つまり外枠方向に切れていく馬群を後方でやり過ごしながら、最短距離で中段のインコースを確保する。一旦は後方3番手に控えていながら、まるでワープしたかのようなショートカットで、気がつけば好スタートを切ったマカヒキとは、半馬身差の位置を確保した。2400mのレースにおいて、この序盤の200mの動きが最後まで活きることになった。

 ハイランドリールは絶好のスタートを切り、のしをつけて最内枠から先行したペースメーカーのヴェデヴァニの外で2番手にすんなりと取り付いた。

 オーダーオブセントジョージは落ち着いたところで、馬群に寄せていき、ハイランドリールのいた2番手にそのまま入り、ハイランドリールが縦列で直後に続いた。さらに直後のインコースにファウンド、つまり外側をブロックする2頭を前に置いてファウンドが追走するという隊列が、向こう正面に入る前には形成された。そのブロックのすぐ外にポストポンド、さらにマカヒキ、レフトハンドが位置していた。ここで完全にフォーメーションができたといってもいい。あとはヴェデヴァニを簡単に潰さないようにしつつ、勝負どころまで力を温存する。ここでオーダーオブセントジョージが折り合いを欠いたままだったら、ヴェデヴァニに競りかけて、不本意な形で早々に先頭に立たされていたはずだ。

 そして、勝負どころの4コーナー以降も見事なチームプレーを見せた。直線手前のカーブで、ハイランドリールが少しずつ外に張り出し、オーダーオブセントジョージに接近しようとするポストポンドのコーナーワークを膨らませつつ、ファウンドに進路を開ける。オーダーオブセントジョージは内へと進路を取り、ポストポンドとの間隔を確保する。ポストポンドもこれについていくが、ここでできた僅かな隙間に躊躇なくファウンドが飛び込んだ。まるで詰め将棋のような完璧な形。さらにファウンドが抜け出したあとも、ここまで無駄なくレースを進められたことで、ハイランドリールもオーダーオブセントジョージもまだまだ自身のための競馬への余力を残しており、記録的な上位独占となった。

 ゴール後、オーダーオブセントジョージのデットーリ騎手は、ファウンドのライアン・ムーア騎手に馬上で熱烈なキス。まさに会心の"チームの勝利"だったといえよう。

「It's unbelievable(信じられない)。」

 クールモアのメイン調教師エイダン・オブライエン師は、レース後の共同会見でいつものように冷静に、しかし熱のこもった言葉を発した。

「言葉にできない。こんなことがあると思いますか? 世界で最も難しいレースを上位3着まで独占できるなんて、これ以上のことがあるでしょうか。ライアン(・ムーア騎手)が彼女(ファウンド)にもたらした素晴らしい騎乗、チームの努力の賜物、そして3頭の父であるガリレオがもたらしたものです」

 一方、日本から挑戦し、現地でもポストポンドと人気を分け合ったマカヒキは、道中は3列目の外側を追走し、4コーナーから直線入り口にかけても、前に接近する様子を見せたが、その後はずるずると後退して14着と大惨敗を喫した。もちろん、もう脚が残されていない時点で鞍上も無理に追うことをやめてのものだが、それにしても期待が過剰だったのかと思うほどの負け方だった。

「いつもより折り合いを欠いていた。ちょっとわからない」

 眉をひそめながら、クリストフ・ルメール騎手は言葉少なめに振り返った。前日はイギリスで騎乗、この日も凱旋門賞ひと鞍に専念だった。集中するためだったのかもしれないが、結果から考えれば、今日の馬場は経験しておいたほうがよかったのかもしれない。ムーア騎手はこの日、凱旋門賞の前に2鞍騎乗していた。

 友道康夫調教師も、やや思案しながら敗因を探った。

「今回の方が(ニエル賞と比べて)雰囲気も良かったんですが、外枠でいい位置を取りに行った分が敗因か、ほかに考えられるとしたら初めての中2週の競馬か」

 ただ、戻ってきて息もきちんと入っていたようで、大きなダメージも今のところない様子。願わくば、このまま欧州に残って、英チャンピオンSへの転戦も考えて欲しかったが、間隔を詰めて使ったのが今回初めてとなれば、「今後のことは帰国してからなので、まずは無事に戻ってもらいたい」という方針も頷ける。

 ちなみに、今回初めて日本でも馬券が発売されたが、変動式のオッズで発売された、フランス(PMU)、香港、オーストラリア(TAB)で比較すると、ファウンドの単勝オッズは日本の7.8倍が最も低く、香港とオーストラリアが10倍、フランスでは約13倍だった。マカヒキが過剰人気になると思われた日本の馬券発売だが、ファウンドの鞍上が日本でもお馴染みのムーア騎手だったということを差し引いても、思っていた以上に冷静な分析がファンもできていたということなのだろう。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu