◆海外馬券発売開始! 2016凱旋門賞 (4)

 凱旋門賞まで残り2日となった。

 昨年は久々に日本からの出走はなかったが、今年は大激戦の日本ダービーを制したマカヒキ(牡3歳)が日本競馬の悲願ともいえる凱旋門賞制覇に挑戦する。

 今年は早い段階ではドゥラメンテが、日本からの一の矢と見られていた。昨年も二冠を制したのち、一時は凱旋門賞挑戦が噂されたが、その後に判明した骨折によって秋シーズンを棒に振ったことで断念。そして今年こそ、と思われていたが、宝塚記念のレース中の負傷で、その挑戦は夢に終わってしまった。

 その一方で、空前のハイレベルと言われた今年の3歳勢から、ダービーと前後して相次いで凱旋門賞挑戦に、次々と名乗りが上がった。もともと凱旋門賞は3歳が強い条件で、勝ちに行くなら3歳馬のうちに、という論が強くなっていた。皐月賞を制したディーマジェスティは、過去に凱旋門賞でエルコンドルパサー、ナカヤマフェスタと二度の2着がある二ノ宮敬宇調教師と蛯名正義騎手の同じコンビ。まさに"三度目の正直"、陣営にとっても積年の"悲願"であった。

 また、セレクトセールで2億円超という高額で取引されたサトノダイヤモンドは、管理する池江泰寿調教師がオルフェーヴルで二度の2着があるだけに、こちらにとっても"悲願"であった。しかし、この2頭はともにこの秋は国内に専念。唯一、残ったのがダービー馬マカヒキだった。

 マカヒキは凱旋門賞で3着入線(のちに失格)となったディープインパクトを父に持ち、そのディープインパクトと同じ金子真人氏(名義は金子真人ホールディングス)がオーナーである。ディープインパクトでは牡馬三冠、アパパネで牝馬三冠を成し遂げ、ともに現役時代に所有していた両親(母ウィキウィキ)が産んだマカヒキが、自身にダービー3勝目をもたらした。金子氏にとって、もはや日本競馬ではやり残したことがなく、並ぶ者もいない無双状態ともいえる。一方で、意外にも海外のビッグレースはユートピアがドバイでGIIゴドルフィンマイルを勝ったのが最高で、前述の凱旋門賞や、トゥザヴィクトリーでのドバイワールドカップ2着など、あと一歩届いていない。日本で唯一の牡牝三冠馬オーナー金子氏としても、今回で"悲願"を成就させたいはずだ。

 マカヒキは日本ダービー勝利後、福島県のノーザンファーム天栄で休養。7月半ばにトレセンに戻されて、これまで凱旋門賞で好走してきた大半の日本調教馬がそうしてきたように、前哨戦をステップに本番へと向かうプランが組まれた。8月後半にフランスへ渡り、主要前哨戦3競走のひとつである3歳GIIニエル賞に出走。5頭立ての少頭数で、超スローペース、さらにレース中に落鉄していたこともあって、僅差の勝利であった。しかし本番のコースで、陣営のイメージどおりの競馬を実践でき、なおかつ余力を残して勝利するという最高の形で、前哨戦をクリアできた。

 その後もフランス、シャンティイに残って順調に調整が続けられ、レース5日前の27日(火)にはシャンティイのエーグル調教場の右回り芝周回コースで最終追い切りが行なわれた。マカヒキには本番でも手綱を取るクリストフ・ルメール騎手が騎乗。2013、14年にトレヴとのコンビで日本調教馬の前に立ちはだかったティエリ・ジャルネ騎手が帯同馬であるマイフリヴァに跨り、このマイフリヴァをマカヒキが4馬身追いかける形でスタート。実戦を想定して末脚を伸ばすと、最後はマイフリヴァを1馬身半〜2馬身突き放してフィニッシュした。

 この動きにルメール騎手、司令官である友道康夫調教師ともに大きな手応えを感じたようだ。追い切り翌日は滞在する小林智(さとし)厩舎内にある馬場で1時間の引き運動を行ない、友道調教師はその様子に目を細めた。

「朝日に馬体も輝いて最高にいい感じに仕上がったと思います。秋は、この後は何も考えていません。ダービー以上に仕上げたつもりです」

 ニエル賞で落鉄した右後蹄も問題ないという。

「蹄にはまったく影響がなかったし、傷んでもいないです」

 さらに29日(木)はラモルレー調教場のダートコースで軽めのキャンターを行ない、コンディションの調整に終始した。ここに至る調整過程で、何ひとつ不安な要素は伝わってこない。

 それ以上に友道調教師の言葉から伝わってくるのが、十分すぎるほどに落ち着いたマカヒキの様子である。

 走る馬というのは爆発力もある分、それが気性面で表裏一体のケースも少なくない。たとえばオルフェーヴルも、最大の敵はオルフェーヴル自身と言われ、最初の凱旋門賞挑戦時は帯同馬アヴェンティーノもレースに出走させることで万全を期したほどだった。

 しかし、マカヒキにはその懸念がまったくないという。日本ダービー勝利後、友道調教師の談話で印象に残っているのが、「あの馬、気がつくと馬房でいつも寝ているんですよね(笑)。こちらはダービーの前だ、と力が入っていてもまったくお構いなしで」というエピソードだ。フランスでも同じようにマイペースを崩さないことが、現在の順調さに繋がっているのだろう。

「それでいて、競馬に向くとガラっと気持ちが入るというか、前向きになる。とにかくオンとオフがはっきりしていて、オフのときは無駄なことはせず、オンのときにしっかりと力を出してくれる」

 厩舎としても初の海外遠征。しかも凱旋門賞とあっては過剰に力が入ってしまいそうなところだが、マカヒキが"普段どおり"でいることでスタッフ側にもいい効果を与えていると見ていいだろう。

 マカヒキのこうした泰然自若な様子が運も引き寄せたのか、馬場状態も味方しそうだ。今年は例年よりも冷え込みが早く、馬場が重くなりやすいシャンティイ競馬場のコンディションがより悪くなるのではという懸念があったが、木曜日の時点で、日本で言うところの良馬場に近い水分コンディションを保っている。もちろん、イメージほどディープインパクト産駒は重い馬場を苦手とはしていないが、タフな馬場は欧州を主戦場とする馬たちにもプラスに働いてしまう。それだけに硬めの馬場こそ、マカヒキの望むところだ。

 今年の凱旋門賞から日本でも海外の大レースの馬券発売が始まることもあって、今週に入ってスポルティーバではより客観的な視点を重視し、従来あったような「マカヒキ頑張れ」というトーンを抑え目に記事をお届けしてきた。しかし、日本競馬の悲願に挑戦するマカヒキを応援する気持ちは持ち続けている。

"今年こそ"が日曜日に訪れることを心待ちにしたい。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu