目には目、肝臓にはレバー。 薬膳の「同物同治」

写真拡大


執筆:山本 ともよ(管理栄養士)


薬膳の世界には「同物同治(どうぶつどうち)」という言葉があります。これは「身体の弱っている部分を治すには、不調の場所と同じものを食べるといい」という考え方です。

例えば「肝臓の調子が悪いときにはレバー」を、「目が疲れている時には魚の眼肉」を食べるといったことです。

現代の栄養学的に見て、これは本当なのでしょうか?詳しく見ていきましょう。

薬膳とは

「薬膳」とは中国医学の理論を基に、生薬や各種の食材を用いて作られる料理です。疾患の予防・治療・回復のほか、健康増進、滋養強壮などを目的としています。

同物同治は薬膳の考え方のひとつで、例えば、肝臓の調子が悪いときには牛や豚、鶏などのレバー、胃腸の調子が悪いときにはミノやハチノス、腎臓の調子が悪いときにはマメ(腎臓)を使った料理を食すというものなのです。

同物同治を栄養学的に見ると

まずお断わりしておきたいのは、

「特定の食品で『病気を治す』ことはできない」

ということです。

不調時における栄養素の働きは、あくまで原因となっている栄養不足を補ってその改善を助けることにあります。

これらを踏まえた上で、同物同治を考えてみましょう。


例えば、「内臓の不調」を感じやすいのはどんな時でしょうか? 

疲労が溜まっている時、お酒を飲んだ時、精神的なストレスが過度にかかった時、風邪などの病気にかかった時、などが考えられます。

このような時に共通して不足しがちな栄養素は、タンパク質、ビタミンB群、ビタミンC、鉄、亜鉛などです。レバー、ミノ、ハチノス、マメなどの「モツ」には、タンパク質、ビタミンB群、鉄、亜鉛が多く含まれており、まさに理に適った食材だと言えます。

また、眼肉には不飽和脂肪酸やビタミンA、ビタミンB群が豊富に含まれています。これらは眼精疲労の予防や改善に必要な栄養素です。これもまた、理に適った食材と言えます。

ただし、今のところ「同物同治は常に当てはまる」という医学的根拠はありません。

「同物同治」が危険なことも

その動物が食べた物を消化・吸収する器官である内臓や、脳みそ、眼肉など、普段食べ慣れない部位には食中毒を引き起こす細菌や毒素、有害物質が残存している可能性があります。

処理や調理が適切でないと、弱った身体にさらに負担をかけてしまうことになります。現在では、食肉の加工の基準も厳格化されつつありますが、食材は「よく洗う・しっかり加熱する」を守ることが大切です。

同物同治をうまく生かすには

不調の原因と、それに関連する栄養素で何を補うべきなのかということ、これらをきちんと知ることが大切です。食べ過ぎによる胃もたれは、胃などのモツを食べても改善されません。

食生活、運動習慣、睡眠、ストレス、病気、ケガなど、生活の中での原因を見直し、その中のひとつの改善ポイントとして「同物同治」を活用するといいでしょう。

最後に一言。人間の体内ではビタミンCを作り出すことができません。さまざまな不調の改善に必要なビタミンCを摂るには、野菜や果物をプラスして摂ることも忘れずに。

<執筆者プロフィール>
山本 ともよ(やまもと・ともよ)
管理栄養士・サプリメントアドバイザー・食生活アドバイザー
株式会社 とらうべ 社員。企業で働く人の食と健康指導。糖尿病など疾病をもった人の食生活指導など活動中