レギュラーシーズンも残りわずかとなった9月初旬、ニューヨーク・ヤンキース田中将大投手のあるデータがアメリカで話題となりました。それは、田中投手の「フォアボールの少なさ」です。

 今シーズンの田中投手の成績は、現在29試合に先発登板して13勝4敗。ア・リーグの最多勝争いには絡んでいませんが(1位は20勝のリック・ポーセロ/ボストン・レッドソックス)、黒星はわずか4つのみ。勝率.764というすばらしい数字をマークしています。また、防御率3.04はア・リーグ2位、投球回数186イニング3分の2は同7位。昨シーズン終了後に右ひじの骨棘(こっきょく)除去手術を受けたことを考えると、信じられないピッチング内容と言えるでしょう。

 これほどの結果を残せている最大の要因は、コントロールのよさが挙げられます。ヤンキース入団1年目の2014年、田中投手が1試合平均で与えたフォアボール(与四球)の数は1.39個で、メジャー2年目の2015年は1.58個。いずれも規定投球回数には届かなかったものの、それを満たしていたと想定するならば、この数字はそれぞれア・リーグ4位、2位に相当します。

 すでに規定投球回数に到達している今シーズンは、現在ア・リーグ3位の1.49個。並み居るスラッガーが顔を揃えるメジャーリーグにおいて、3年連続でコンスタントに安定したピッチングを続けているのは特筆すべきことです。

 さらに与四球と奪三振との比率でも、田中投手のデータは突出しています。1個のフォアボールに対して三振を奪った数を見ると、2014年は6.71、2015年が5.15、そして2016年はア・リーグ3位の5.16。今シーズンはストレートの割合が減って三振奪取率が下がっているにもかかわらず、高い比率をキープしているのです。

 メジャーの平均的なピッチャーの比率は、だいたい2.00前後。フォアボール1個に対して奪三振が2個、という計算です。優秀なピッチャーで3.50前後と言われています。フォアボールが多いとこの数値は高くならないので、いかに田中投手のコントロールが優れているかがわかるでしょう。

 特に8月の1ヶ月間を振り返ってみると、6試合の先発登板で39イニングを投げて、与えたフォアボールの数はわずか1個。逆に奪った三振の数は38個だったので、上記の比率にすると38.00という信じられない数字となっています。

 月間で38個以上の三振を奪い、かつフォアボール1個以下を記録したピッチャーは、メジャーリーグ史上4人しかいません。ちなみに過去3人のうちひとりは、シアトル・マリナーズの岩隈久志投手。2014年7月に39奪三振・1与四球というすばらしいピッチングを披露しました。

 田中投手は8月2日から8月19日まで、先発した4試合すべてを与四球ゼロで投げ抜き、8月24日のマリナーズ戦でセス・スミスに与えるまで「133打者連続フォアボールなし」を記録。8月7日のクリーブランド・インディアンス戦、8月13日のタンパベイ・レイズ戦、8月19日のロサンゼルス・エンゼルス戦と、3試合連続で「奪三振8個以上・与四球ゼロ」を記録したのはヤンキース史上初、メジャー史上8人目の快挙でした。

 このようにフォアボールが少なく、三振が多いというピッチングは、実はヤンキースのチーム全体にいえる特徴でもあるのです。なぜならば、1998年にブライアン・キャッシュマンがGMに就任して以来、このようなタイプのピッチャーの獲得に補強の重点を置いてきたからです。

 1999年のロジャー・クレメンス(前トロント・ブルージェイズ)、2001年のマイク・ムシーナ(前ボルチモア・オリオールズ)、2005年のランディ・ジョンソン(前アリゾナ・ダイヤモンドバックス)、2009年のCC・サバシア(前ミルウォーキー・ブルワーズ)......。キャッシュマンGMが獲得したピッチャーは、いずれも制球力のある奪三振タイプです。

 その結果、ヤンキースの投手成績を見ると、毎年のように奪三振が上位で与四球は下位、という順位になっています。今シーズンも、防御率(4.13)はメジャー15位と平均点ですが、奪三振1268個はメジャー4位(ア・リーグ1位)で、与四球372個はメジャー30球団でもっとも少ない数字です。

 このような傾向にあるヤンキース投手陣のなかで、エースとして認められる条件とは、高い勝率を誇り、剛腕タイプで、かつコントロールがよいこと。まさに田中投手は、これらの条件にピタリと当てはまります。

 メジャー3年間の田中投手の通算成績は、38勝16敗・防御率3.11で勝率.703。この勝率は現役ピッチャーのなかでメジャー1位の数字です(50試合以上の勝敗を対象)。また、奪三振(440個)とフォアボール(79個)の通算比率は現在5.57で、これは1900年以降の近代野球で史上2番目に高い数字なのです(投球回数400イニング以上を対象)。今、田中投手の成績は現役最高といっても過言ではありません。

 今シーズンの田中投手は派手な活躍が少ないため、比較的地味にメディアで扱われています。しかし、実はものすごいピッチングを披露しているのです。残りシーズン、ぜひ田中投手のプレーに注目してください。

※数字は9月13日現在

福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu