10月2日に行なわれる、芝2400m路線の最高峰レースGI凱旋門賞(フランス・シャンティイ競馬場・芝2400m)に向けて、各地の主要な前哨戦がすべて終わり、主役となりそうな顔ぶれが出揃った。

 中でも、日本のファンとして注目は今年の日本ダービーの勝ち馬マカヒキ(牡3/父ディープインパクト)にとって国外初戦となるGIIニエル賞(フランス・シャンティイ競馬場・芝2400m)の結果だろう。今年はロンシャン競馬場の改装により、シャンティイ競馬場で行なわれる本番の凱旋門賞と、同じコース、同じ距離での一戦。マカヒキにとっては初の海外遠征に加えて、ひと夏を越えての秋初戦だが、地元フランスのダービー馬アルマンゾル(牡3/父ウートンバセット)や、英愛ダービー馬ハーザンド(牡3/父シーザスターズ)といった強力なライバルが揃ってGIアイリッシュチャンピオンステークス(アイルランド・レパーズタウン競馬場・芝10ハロン<約2000m>)に回って不在となり、圧倒的な人気を集めて、いきなり"負けられない一戦"となった。

 結果はミッドターム(牡3/父ガリレオ)が作る、前半1400mを1分34秒2という超スローペースの3番手を追走。直線では外に持ち出して、2番手でレースを進めたドーハドリーム(牡3/父シャマーダル)を加えた3頭による追い比べを、ゴール前できっちりと差し切って勝利を収めた。

 差し切るのに手こずったようにも見えたのは、レース全体が後半のスパート勝負になったことによるもの。さらに、右後肢を落鉄していたのだという。大きな着差で圧倒することこそなかったが、馬場と極端なスローペース、さらにアクシデントを乗り越えて海外遠征初戦を見事に飾り、本番に向けて弾みをつけた。むしろ、「久々の競馬で、しっかりと併せ馬で追ってほしかった」と考えていた友道康夫調教師にしてみれば、注文どおりの展開をしっかりとこなし、合格点を大きく上回るパフォーマンスだったといえよう。

 しかし、凱旋門賞といえば、自身の父ディープインパクト(2006年)やオルフェーヴル(2012、13年)らが跳ね返され続けた高い壁。同じように前哨戦のニエル賞で同世代の英ダービー馬ルーラーオブザワールドや、下馬評の高かった地元のフリントシャーらを下して本番に臨んだキズナも、結局厚い扉をこじ開けることは叶わなかった。ここから本番までの3週間は、これまでの日本調教馬に足りなかった残りの1ピースがマカヒキに求められる時間となる。

 とはいえ、残りの1ピースはマカヒキ自身ではなく、相手関係によるところも大きい。

 この週末、各地で相次いで行なわれた前哨戦のうち、もっともメンバーが揃っていたのは9月10日に行なわれたアイリッシュチャンピオンステークスである。ここには前述の仏英を代表する3歳牡馬2頭のほか、昨年のGIブリーダーズカップターフ(アメリカ・キーンランド競馬場・芝2400m)の勝ち馬ファウンド(牝4/父ガリレオ)、昨年の仏ダービー馬ニューベイ(牡4/父ドバウィ)、さらに3歳にしてGIを6勝のマインディング(牝3/父ガリレオ)といった、凱旋門賞でも有力馬と目されている面々が揃って出走した。下馬評ではハーザンドとマインディングの英国クラシック勝ち馬が人気を分けあっていたが、これらを後方一気でまとめて破ったのが、アルマンゾルだった。

 この勝利にブックメーカーはすぐさま反応。アルマンゾルは今後、2000m路線を進むことを示唆しながらも、地元の凱旋門賞出走にも含みを持たせていることをふまえて、各社そろって2番人気の評価へと押し上げた。逆に人気を裏切って8着に敗れたハーザンドは、3着のマインディングとともに評価を落とすことに。

 ただ、昨年はアイリッシュチャンピオンSを勝ったゴールデンホーンがそのまま凱旋門賞を制したが、今年はそのゴールデンホーンの勝ち時計よりも3秒以上要していた。馬場状態は同じイールディング(日本の「重」に相当)だったものの、より重馬場適性も要する状態だったのであれば、本番のシャンティイの馬場状態によっては、今回の結果による評価をもう一度見直さねばならない。

 ニエル賞と同日、同じシャンティイ競馬場では他に同距離の前哨戦が2レース行なわれた。古馬牡馬によるGIIフォワ賞は、フランスのシルバーウェーヴ(牡4/父シルバーフロスト)が前走のGIサンクルー大賞(フランス・サンクルー競馬場・芝2400m)に続いて、重賞を連勝。3歳以上の牝馬で争われたGIベルメイユ賞を制したのは、今年のフランスオークスの2着馬、レフトハンド(牝3/父ドバウィ)が初GIタイトルを手にした。

 これを受けて評価が上がったのが、フランスオークスでレフトハンドを下した勝ち馬であるラクレッソニエール(牝3/父ルアーヴル)である。昨年の夏にデビュー以来8戦無敗。すでにGIも2勝している。無敗のフランスオークスの勝ち馬といえば、2013年、14年と凱旋門賞を連覇した名牝トレヴが思い出される。

 そして、目下の本命と目されるのが、この週末は出走のなかったポストポンド(牡5、父ドバウィ)である。昨年のGIキングジョージ六世&クイーンエリザベスS(イギリス・アスコット競馬場/芝12ハロン)以来、GI4勝を含む6連勝中。今年の3月、GIドバイシーマクラシック(UAE・メイダン競馬場・芝2410m)では、ドゥラメンテに落鉄の影響があったとはいえ、これに直線で並ぶ間すら与えずに勝利したのは記憶に新しい。昨年もフォワ賞を制して凱旋門賞に向けて気勢が上がったが、突然の転厩などもあって、本番には駒を進めなかった。その昨年よりも充実した状態だけに、上位人気に推すブックメーカーの評価以上にマカヒキにとって難敵となるのは間違いない。

 残り3週間。すべてが日本とは異質で、日本で走るときと同じようにはいかない。それでも、過去に同じステップで凱旋門賞に挑み、惜敗した馬たちはいずれもこの3週間で驚くべきパワーアップを遂げていたのも事実。オルフェーヴルの1回目の挑戦は、日本ほど鋭い脚が使えないと思われていたのが、逆に本番では鋭く切れすぎたほどだった。

 幸いにして落鉄の影響も軽微な様子。マカヒキもこのまま無事に調整を積み、レース当日までに我々が驚くような進化を遂げることを楽しみにしたい。

土屋真光●文 text by Tsuchiya Masamitsu