暑い夏の調教法は?

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 夏競馬は新潟記念の他、札幌と小倉で2歳重賞が行なわれ、フィナーレを迎える。この夏をどう過ごしたかで、秋以降の競馬が見えてくる。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、秋競馬を乗り切るために、どんな準備をしているのかについてお届けする。

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 能力のある馬はひと夏を越えてガラリと変わる。夏場に走る馬は春にあまり無理をしていないことが多く、秘めた力が徐々に顕れるようです。いっぽう春までびしっと競馬をしていた馬は、夏の一休みで少し体をリセットできる瞬間があると、急に体がよくなるんです。

 人間もそういう時期というのがありますが、そのときにしっかりトレーニングをしなければなりません。特に3歳馬はポテンシャルに成長が噛み合う時期です。春のクラシックに間に合わなかったり、トライアルであと一歩だったような馬も、ひと息入れたことで勝ち星を積み上げられることがある。

 さらに、なかなか勝ちきれなかった3歳未勝利馬でも、待望の初勝利を挙げ、続けて昇級戦にも勝つことがあります。2勝していれば、9月になってすぐ始まるトライアルレースにも出られます。

 角居厩舎では、夏の間に5頭が未勝利を脱出しました(8月21日終了現在)。どんな勝ち方でもいいから、とにかく勝ち上がってほしい……相手関係などを考えて、使うレースを吟味しましたが、秋以降は、それぞれの馬にあった路線を歩ませたいものです。

 2歳馬に関しては、角居厩舎のスタートはゆっくりです。ウチの厩舎のように、芝の中距離以上のレースに使っていきたい場合は、新馬戦や未勝利戦に勝ってしまうと次に使うレースがあまり多くない。唯一あるのが札幌2歳Sですが、このレースを使おうという場合は、いったん北海道に放牧に出してからというパターンになってくる。

 そうすると、トレセンの調教師がつくるというより、牧場がつくるという感覚が強いですね。だから夏場に入厩してもゲート試験だけ受かって、牧場や外厩に戻しておくことも多いのです。

 それにしても、今年の夏も暑かった。昨今の日本の夏は本当に厳しい。気温35度などと聞くと、競馬をやっていいのかなとさえ思います。

 馬房にはエアコンを入れ、冷たいミストを送り込む工夫をほどこす。飲料水は水素水や電解質の豊富なものを作る。飲みが進まないときにはゼリー状にして食べさせる。ときには静脈に注射を打ったりします。それでも、馬は「暑さ」を理由に調教を嫌がったりするということがないように思います。だから厩舎の人間は、馬の様子を注意深く見なければいけない。

 そんな気候ですから、秋競馬を意識しようとすれば、何回も使いません。地方での開催が中心で、輸送も長くなるからなおさらです。もちろん、体温調節ができて上手に汗をかき、日中寝てしまえるような夏場に強い馬にとっては稼ぎ時だったでしょう。でも、それが秋競馬まで続くとなるとどうか。秋口の競馬は、管理する側はもちろん、馬券検討をするときも、その辺の見きわめが大事かと思います。

●すみい・かつひこ 1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年9月9日号