予定調和ではない問いかけがリアルを引き出す

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 生放送で輝く人は限られるものだ。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が昼の情報番組に言及した。

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 お昼のテレビ番組『バイキング』(フジテレビ系)が、異彩を放っています。

 テーマを設定し専門家を呼び、ゲストと意見交換するのは他局の番組も似たり寄ったり。ひな壇のゲストや芸人の数など、番組によってそれぞれ違いはあるけれど。もっと根本的なところで、『バイキング』には他とはちょっと質の違う「緊張感」が漂っているのです。

 昨今注目の事件。強姦致傷容疑で逮捕された俳優のテーマについては各放送局横並びで扱っていますが、例えば『バイキング』ではこんなシーンがありました。

 8月26日、ゲスト出演したジャーナリストの江川紹子さんを、MCの坂上忍氏が厳しく批評。そのシーンにびっくりさせられ、また考えさせられるものがありました。

 江川さんは「テレビでこの事件を取り上げると、被害者がまた好奇の目にさらにさらされて傷つく可能性がある」といった趣旨を語り、「私が出演していること自体矛盾してるんですけど、こういう報道もどうなのか」と、番組そのものに疑問を示した。

 そのとたん。坂上氏が言い放った。

「もちろん、ここにいるみんなそのことはわかっている。その上で、番組に出演している。もし江川さんが今そう言うのなら、そもそもこの番組に出てくるべきではない」「『矛盾してる』って一言で片付けてほしくない」

 ストレートに、きっぱり。たしかにそれはそうだろう。正論だった。ジャーナリストの江川さんは押し黙った。

 一つの事件を巡って、テレビが番組を作って報じること。その中に、さまざまな複雑な影響が含まれている。坂上氏の歯に衣着せぬ発言は、意図したかどうかはわからないけれど、そうした帳尻が合わない現実の「複雑さ」を浮き彫りにしていて、生々しかった。

 これは一例ですが、「お約束ごと」の上に成り立っている他番組ではなかなか遭遇しない「リアルさ」が、滲み出てくる瞬間があるのです。

 ではなぜ、そうしたリアルさが生まれてくるのでしょうか? 出演者は、芸人であろうと俳優であろうと、お仕事の面だけでなく、一方では納税し選挙権もある社会人。それは当然のこと。しかし、テレビ画面の中では往々にして、前者の「お仕事」に終始しお約束ごとの中で演じたり発言することが多い。

 ところが『バイキング』には、芸人や俳優たちの「お仕事姿」だけでなく、「社会人としての姿」もひきずり出したり垣間見えてしまう瞬間が。それもこれも、予定調和を揺るがす質問がMCから投げかけられるから。

 ちなみに、俳優の強姦致傷容疑事件以前からこの番組では社会的なテーマを積極的に扱っていました。「五輪費用問題」「住宅トラブル」「シングルマザー」「東京都知事選」「築地市場移転問題」……。

 象徴的だったのが7月19日。「東京都知事選挙選」のテーマで、主要3候補者をズラリとスタジオに並ばせ、坂上氏が司会をして激論。昼のバラエティ番組では異色の試みでした。

 鳥越俊太郎氏が、小池百合子氏の「病み上がり」という言葉を問題にしたのもこの時。

「がんサバイバーに対する大変な差別ですよ」と鳥越氏が一気にまくし立てた。気色ばんだ小池氏、「記憶にない」とあわてて否定。

 すると鳥越氏が、発言を示す根拠を示しながら激高。「がんサバイバーという人は、何十万、何百万といるんですよ、『1回がんになったら、あなたはもう何もできないんだ』と決めつけるとは」。小池氏「そんな趣旨のことは言っていない」と反論。スタジオが凍り付き、ビビビっと緊張感が走りました。

 他の報道番組でもなかなか見られないこうした生激論は、選挙に対する貴重な情報提供になった。何といっても候補者の人間性、ひととなり、というものが画面に思い切り露出していたから。

 そうしたリアルを引き出す根源の一つが、坂上氏の質問力でしょう。「予定調和ではない」問いかけを発する力。

『朝まで生テレビ!』の司会・田原総一朗氏は「生放送では何が起こるか分からないというところに視聴者が共感してくれている」と語っていましたが、その意味で、坂上氏は田原氏に通じる点があるのでは。

『バイキング』は「朝生」ならぬ「昼生」。注目を浴びてさらに人気番組になったとしても、そのリアルな迫力だけは失わないで欲しい。丸くならないで欲しい。生放送という媒体において、リアルが垣間見える瞬間をこそ、視聴者は待っているのですから。