■「夏競馬」珍道中〜西日本編(13)

 西日本をめぐる「旅打ち」最後の舞台は、名古屋競馬場。最初のレースを的中し、幸先のいいスタートを切った。が、喜びもつかの間、そこからは下降の一途をたどった。

 第6レース、第7レース、第8レース、第9レース、さらにメインの第10レースと、予想が立て続けに裏目に出た。手堅く買えば、大波乱となり、人気馬を切れば、手堅く収まり、軸馬で迷った際には切ったほうの馬がくるという始末だ。メインの第10レースに至っては、軸として買った2頭が9頭立ての5着と、7着。あまりのハズしっぷりに頭を抱えた。

 初っ端で儲けた"貯金"はとっくに底をついて、財布に残ったお札からは福沢諭吉が消えていた。うだるような暑さの中、終わりの見えない連敗街道にもうろうとしてきたワシ。身も、心も、限界に近づいていた。

 やばい、ちょっとひと息つこう。そう思って、ふらふらしながら自動販売機の前まで行った。そして、最初に目がいった「金の烏龍茶」を買った。倒れる寸前にあっても、ワシは"金"の亡者なのだ。

 取り出し口から手にした紙パックの横には何やら格言めいたものが書かれている。

「初志貫徹」

 まるで、ワシの迷いを見透かされたかのような気になった。ワシは少々落ち込んだ。しかし、「金の烏龍茶」が体に染み渡って、元気が少しだけ戻ってきた。マイナス思考を振り払うように頭を振る。

「そうだ、ワシは"旅打ち"に来ているのだ。最後まで、しっかり戦い切ろうじゃないか!」

 気持ちを新たにして、この「旅打ち」最後のレースに挑んだ。全身全霊を込めた予想で導き出したのは、グリグリの1番人気となっている6番コスモアルドラを2、3着に回して、前走の勝ち方が鮮やかだった9番ブランニューを1着に置いた3連単。その他、保険となる組み合わせの3連単と、ブランニューを軸とした3連複を購入した。

 高めがくれば、今日の負けは挽回できるはず。そう思いながら、購入した馬券を新聞の上に並べて写真を撮ろうとした。その刹那、何か違和感を覚えた。よぉ〜く見てみると、6番と8番を間違えて買っているではないか!?

 8番は無印のエアマニング。確かに、来ればデカい。大穴中の大穴である。が、グリグリの1番人気と間違えての購入はいただけない。締め切りが迫る中、大慌てで1着=9番、2着=6番と固定した3連単を3点だけ追加で購入した。財布からは福沢諭吉どころか、お札がなくなっていた。

 ゲートが開いた。まず先手を取ったのは、びた一文買っていない1番サマーサラファン。人気の6番コスモアルドラは3番手につけ、ワシの"本命"9番ブランニューはコスモアルドラをマークするような形で続く。

 4コーナーを迎えて、コスモアルドラとブランニューが前に迫る。脚色がいいのは、ブランニューだ! コスモアルドラをねじ伏せるようにして先頭に立った。そして、2頭の続く3番手争いには、後方から5番ナタリーが伸びてきた。

「いけぇ! そのまま、そのまま!!」

 ゴール板の前まで来て、競馬場全体に響き渡るかのような絶叫を上げるワシ。目の前を、9番、6番、5番の馬が順に通過していく。

「ヨッシャー!!」

 再び、雄叫びを上げ、天を見上げた。ひと筋の涙が頬をつたう。

 馬券を買い間違えるという逆境にありながら、ギリギリのところで的中馬券を仕留めたのだ。3連単の配当は、2210円。財布の中に福沢諭吉が戻ってきた。

「さあ、帰ろう!」

 ワシはホクホク顔で名古屋競馬場を後に、急いで名古屋駅に向かった。まだ日が暮れる前。この時間なら、「青春18きっぷ」を使って東海道線で帰っても、その日のうちに東京に帰ることができる。早く帰って、久々の我が家でゆっくりしたい。

 名古屋駅に着いたら、すぐに東海道線の浜松行きに飛び乗った。「ふぅ〜、やっと帰れる」と思って座席に座った。目を瞑り、この旅がやっと終えられることに安堵した。

 これまでの「旅打ち」の思い出がよみがえってくる。笠松競馬、小倉競馬、佐賀競馬......、それぞれの勝負、それぞれの場所で出会った人や、美味しかった名物が頭の中に浮かんでくる。

 ......ん? おかしい。なぜか、列車がいつまで経っても出発しない。そこへ、車内アナウンスが響き渡る。

「ただいま、集中豪雨のため、運転を見合わせております。運転再開の目処は立っておりません」

 なんだとぉ〜!? せっかく家路につけると思ったのに......、もしかしてこれも「ブラック媒体・スポルティーバ」の陰謀か!?

 気がつけば、電車に乗ってから1時間近くが経過しようとしていた。一向に運転が再開する気配がない。どうする......、そのとき佐賀競馬場へ向かう途中、「青春18きっぷ」と一緒に今夜の『ムーンライトながら』の指定席券を買っていたことを思い出した。それなら、東京に向かう途中で、終電がなくなって降ろされる心配もない。

 我ながら、土壇場の強さには自画自賛したくなるほどだ。

『ムーンライトながら』が名古屋を出発するのは、23時20分頃。それまで、サウナでひと休みすることにした。

 だが......、さすが「ブラック媒体・スポルティーバ」の企画である。せっかくサウナでさっぱりとしておきながら、ドシャ降りの中、駅に戻るはめに。しかも、駅員が「『ムーンライトながら』も出発の目処が立ってないんですよねえ」と、無情なひと言。ワシはびしょ濡れのままホームで立ち尽くすこととなった。

 結局、定刻より2時間ほど遅れた列車に乗って帰京。それからすでに数週間、いまだ鼻水が止まらないまま、今日も大井競馬のナイターで、ひとり戦うのであった。

(おしまい)

土屋真光●旅人 Traveler&text by Tsuchiya Masamitsu