『リセット 〜Google流 最高の自分を引き出す5つの方法〜』(ゴーピ・カライル著/あさ出版)

写真拡大

■インターネットより大事なインナーネット

『リセット 〜Google流 最高の自分を引き出す5つの方法〜』(ゴーピ・カライル著、白川部君江訳、あさ出版)は、グーグルのチーフ・エバンジェリストとして、同社に強い影響力を及ぼす人物。インドの貧しい家庭に生まれ育ちながらも、ウォートン・スクールと名門インド経営大学院を卒業し、最先端の地位をつかみ取った人物だ。

彼がここで強調しているのは、「インナーネット(inner−net)」の重要性。インターネットが普及した現在、テクノロジーのなかでもっとも重要なものは、実は私たちの内部、すなわち脳と体、心、呼吸、意識の集合体としてのインナーネットにあるということである。そしてそれはそのまま、マインドフルネスの考え方へとつながっていくことになる。

ヨガや瞑想など、古代の知恵から生まれたメソッドを実践することで、我々の内面を変化させ、外部の世界との調和を試みる。そうすれば、それがバランスのとれた生き方につながっていくということ。数あるマインドフルネスに関する書籍と比較しても、著者の人生が基盤となっているだけに、強い説得力を感じさせる。

■「もう限界」と思ったら限界か

『限界の正体 自分の見えない檻から抜け出す法』(為末大著、SBクリエイティブ)は、数々の実績を打ち立ててきた元世界陸上銅メダリストである著者が、「限界」のあり方に疑問を投げかけ、そこから一歩先に進むための考え方を説いた書籍。

人はことあるごとに限界と直面し、多くの場合はそこで諦めや挫折を余儀なくされるが、果たしてそれは正しいのか? 限界とは、人間のつくり出した思い込みで、つまり自分でつくり出した思い込みの檻に、自ら入ってしまっているのではないか?

でも実際には、限界とは、超えるものでも、挑むものでもないのかもしれない。そして、仮に限界に対する思い込みや常識がブレーキをかけてしまっているのであれば、それを外せば「自己ベスト」を更新できるはずだという明快な考え方だ。

たしかにそうだと思う。限界を感じずにはいられない状況はビジネスシーンのどこにでもあるし、場合によっては、限界が言い訳になることすらあるだろう。だからこそ、あえて限界を疑い、「そこからなにができるか」を考えてみる。そこに、可能性が生まれるというわけだ。

■生活費を削って奉仕する人たち

『あなたが世界のためにできる たったひとつのこと――<効果的な利他主義>のすすめ』(ピーター・シンガー著、関美和訳、NHK出版)の著者が訴えかけるのは、シリコンバレーや欧米の若者たちにも注目されているという「効果的な利他主義」の重要性。「質素に暮らす」「稼いだお金を寄付する」など、理性と共感とテクノロジーを融合させることにより、“いちばんたくさんのいいこと”をする。それ自体が、よりよい世界を構築するために必要だという考え方である。

偽善的なことのようにも思えてしまうかもしれないが、決してそうではなく、視点がもっと深いところにあることが、本書を読むとよくわかる。「いまという時代に、自分たちがすべきことはなにか」を理解している人たちにとって、「いいこと」をすることはそれ自体が重要なのだ。

しかも、彼らは必ずしも多くのお金を持っているから寄付をするわけではない。生活費を削ってでも、人に奉仕するという人も少なくないのだ。いわば、それが自身の生きる意味であるということ。その思いが決して表層的なものではないことがわかるからこそ、本書に登場する人々には強く共感できる。そしてここには、コミュニケーションのあり方に亀裂が入っている現代社会にとって、いちばん大切なことが隠されているようにも思える。

■村上春樹は何を食べているのか

刊行は2014年末なので決して新しくはないながら、夏休みにぜひお勧めしたいのが、『天才たちの日課 クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々』(メイソン・カリー著、金原瑞人/石田文子訳、フィルムアート社)。

これは非常にユニークで、そして刺激的な本だ。小説家、詩人、芸術家、哲学者、研究者、作曲家、映画監督など161人におよぶクリエイターたちの、日課、スケジュール、ライフスタイル、部屋での過ごし方、食事や酒に代表される嗜好品などについて、淡々と事実だけを記述しているのである。

登場する人たちも、フランシス・ベーコン、モーツァルト、ベートーヴェン、キルケゴール、マルクス、フロイト、ユング、村上春樹、スティーヴ・ライヒ、ゴッホなど多種多様。気になる人の日常を垣間見るのはやはり楽しいし、彼らの大半が、意外なほど“普通”の暮らしをしていることを実感できるのも魅力。ぱらぱらとページをめくり、気になる人のパートを拾い読みしていくだけでも、充実した気分を味わえるだろう。

■「少年時代」という名の永遠

さて、最後に「これぞ夏休み!」というべき一冊をご紹介しておこう。『教科書名短篇 −少年時代』(中央公論新社編集、中公文庫)。タイトルから想像がつくとおり、中学国語教科書から戦後文学・翻訳小説の名作を厳選した短編集である。ヘッセ、魯迅から永井龍男、井上靖、安岡章太郎、三浦哲郎らによる12の短篇を収録したものだ。

テーマも「少年時代」ということで、読んでいるだけで甘酸っぱい気分になれるはず。涼しくなった夕暮れにでも読んでみれば、永遠に続きそうに思えたあのころの夏の情景が頭に浮かぶかもしれない(なお、歴史・時代小説を中心とした「人間の情景」篇も刊行されている)。

仕事柄、「本を読む人が減りましたが、どう思われますか?」というようなことをよく聞かれる。が、本音をいえばその発想が好きではない。たしかに読者人口の減少は、数字にも表れているだろう。けれど、そこにばかり注目し、「売れない売れない」と騒ぎ立てることになんの意味があるのかと、強い抵抗を感じるのである。

そんな暇があるのなら、むしろ注目すべきは「それでも読者がいる」という現実を意識することだ。本が好きな人は確実にいるし、だったら、そちらに注目したほうがよほど建設的だと考えるのだ。それに、誰の心のなかにも、きっと少年時代の読書の記憶が残っているはずだ。紙の匂い、ページをめくる指の感触などとともに。

この夏は休日を利用して、気になった本を読んでみてはいかがだろう? しばらく忘れかけていた読書の楽しみを、思い出すことができるかもしれない。

(印南敦史=文)