通勤時間の長さと「夫婦の険悪度」は関係あるのか?

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■「妻より夫の通勤時間が長いほうが離婚リスク高い」

「通勤時間が45分以上の場合、離婚のリスクが40%。それも、妻より夫の通勤時間が長いほうが離婚するリスクが高い」

これは2年前にスウェーデンの研究者Erika Sandow氏が発表した研究結果だ。

これが日本だとどうだろうか。共働き夫婦がスタンダードで育児分担も夫婦平等といわれる北欧に比べて、日本は同じ共働きでもまだまだ妻の家事・育児負担が大きい。加えて、北欧に比べはるかに通勤時間が長いとなると、夫婦関係に何が起きるか。

▼片道通勤時間の理想は35分、現実は58分

まず、以下の調査結果を見ていただきたい。アットホームが行った通勤時間の「平均」「理想」「限界時間」である。

【自宅から会社までの片道の通勤時間】
●現実(全体平均)=58分
●理想=35分
●限界=86分(1時間26分)
(アットホームの調査より)

現在の通勤時間(片道)の割合を見ると……。

●40分〜59分:28.8%
●60分〜69分:20.6%
●70〜79分:13.0%

40〜69分かかる人が約半数という結論になっている。

職場までの距離は遠過ぎると当然疲れる。でも、職場が都心にあるような場合、30分以内で行ける距離に住めば家賃も高くなる。結局のところ、時間と金銭の負担とを勘案し、その落としどころが58分という「現実」の通勤時間になっているのだろう。

■片道23分なら月19%給料を上げるべき

ちなみに、経済行動学者ニック・ポータヴィーの『幸福の計算式』にはこんな記述がある。

「通勤にかかる時間は明らかに心理的な負担を与えており、かなりの昇給がなければ埋め合わせることができない。通勤に片道23分かかる人は毎月19パーセント余分に給料をもらわないと、その心理的負担を完全に埋め合わせることができない」

ドイツ人の片道通勤時間の平均は23分とのこと。日本人の半分以下にもかかわらず負担が大きいようだ。同著では、

「さらに悪いことに、時が経っても人は通勤時間によってもたらされるストレスや不快感にまったく順応することができない」

と続く。ということは、長時間通勤を続けているとストレスが積もり積もって、日常生活に様々な弊害をもたらす可能性があるということなのだろうか。

▼通勤時間の長さは、家族にどんな影響があるか?

そこで今回、都内在住の共働き夫婦3組に話を聞いた。

ケース1は、通勤時間が「理想の30分圏内」、ケース2は「平均値の約1時間」、ケース3は「限界値を超えた1時間半」(いずれも自宅から会社までDoor to Doorの通勤時間)。

【ケース1 夫:40分、妻:30分】

この夫婦は結婚後、2回引っ越した。1回目は、妻が妊娠し、お腹が大きくなってきたことから階段がない家で、かつ妻がバス1本で通勤できるエリアに転居。それによって通勤時間は、夫:45分⇒30分、妻:45分⇒20分と、双方ともに短縮された。

その後、出産を機に分譲マンションを購入し、2度目の転居をした。当時、妻は産後に専業主婦になる予定だったので通勤時間という点では夫のみ考慮対象にしていた。投資物件になり得るようにと都心の人気エリア、駅徒歩3分の好立地に決めた。結局、妻は産後働いているが、それでも通勤時間は夫40分、妻30分と夫婦ともに悪くない。

「今は一緒に通勤しています。そのとき、家庭内のことについて夫と話ができるのがいいですね。通勤時間が比較的短いので、途中で夫が下車し、話が尻切れとんぼになることもありますが……。夫婦仲は、悪くはないですね」(妻)

■妻の通勤時間が長い夫婦の関係は、険悪

【ケース2 夫:75分、妻:60分】

半年ほど前、転勤で夫のみ通勤時間が15分増加(以前は60分)。妻は変わらず60分。

「夫は通勤時間以上に仕事量が激増したので、家事・育児の負担は私が増えました。夫は、平日の朝一瞬しか子供と接していませんね。一時期、どちらも疲れによる苛立ちがピークに達し、夫婦仲はギスギスしていました」

ハードな仕事を終え、1時間15分もかけて帰宅する夫。帰ってからご飯を食べるのがしんどくて妻が食事を用意しているのを知りながら、外食して帰宅したり、時には会社近くで泊まったりすることもある。休日は、仕事+通勤時間のW負担の疲れを取るため一日中寝ているので、妻の育児負担と怒りは増大する。

「ある日、夫に『こっちだって疲れてるのに頑張ってるの。一日中寝かせてもらったんなら『ありがとう』くらい言ってよ!』とハッキリ要望を伝えました。すると思いやりの言動が増えてきて、私もだんだん夫に寛容になってなんとか夫婦仲は落ち着きました」

夫は一生懸命働いている。にもかかわらず妻から苦情を言われる。通勤時間だけがそうしたトラブルの要因ではないだろうが、もし、あと30分でも通勤時間が短ければ、その分を子供と接する時間などにすることは可能だろう。

■長時間通勤を強いられた妻「ずっと根に持っています」

【ケース3 夫:5分、妻:90分】

結婚を機に、それまで通勤時間が30分だった妻が、夫の職場の近くに引っ越して通勤時間が激増。その後、出産を機に、階段利用のマンションからエレベーターつきのマンションに転居した。通勤時間は、夫:30分⇒5分、妻:1時間⇒1時間半と双方の利便性のバランスがさらに偏る形になった。

現在の住居に決めるまで、双方の利害が一致せず平行線が続き、ついに出産直前、タイムリミットが迫った段階で妻が折れたそうだ。

「この(自分だけが長時間通勤になった)件、ずっと根に持っています。ただでさえ産後は私のほうが仕事に制限が出るのに、さらに時間的制限が加わり、肉体負担も増しているわけですから。でも夫にそれを訴えても一向に聞き入れてもらえません。それどころか、『何度引っ越せば気が済むんだ!』と激怒されます。私の体調などお構いなし。そんな夫に愛情が持てるでしょうか? もはやいつ離婚してもおかしくありません」(妻)

妻は産後、左手が腱鞘炎になり、重い荷物を抱えての長距離移動により肩こり腰痛も慢性化。体重も産前より3kg減った。一方、夫は体重が増え、健康診断の結果はオールAだったという。

収入の柱は夫というケースは多いだろう。しかし、仕事を持ち、育児を中心的に担う妻の移動時間の負担をあまり軽視しないほうがいいのかもしれない。

では、3つのケースを整理してみよう。

ケース1は夫婦ともに短時間通勤で関係もよし。
ケース2は夫がやや通勤時間が長いことで妻に負担が偏り一時期関係は悪化したが、軌道修正してなんとか夫婦関係はキープ。
ケース3は通勤時間のバランスが極端に悪く、その状態を強行続行しようとする夫と妻とで争いが絶えない現状。

■円満のコツは、夫婦の職場への通勤時間にあり!?

以上の結果、長時間通勤は夫婦の人間関係にあまりいい影響を与えない傾向があることが見てとれる。もちろん通勤時間が夫婦ともに短ければ必ず関係が円満とは限らないし、そもそも性格不一致がトラブルの元凶ということも多い。

とはいえ、電車に乗っていることで奪われる時間は、特に子育て世代にとってはダメージが大きいのは確かなようだ。ただでさえ、長時間労働で消耗している上に、長時間通勤。いくら働き盛りといえども、限界はある。

少なくとも負担をかけている側がフォローしていれば軋轢や破たんは防ぐことが可能で、ギリギリ平和を保つことができるが、負担を片方に押し付けたままにしている夫婦は……。

賃貸・持ち家に関係なく、住まいの「場所」選びは、夫婦の勤務先へのアクセス時間もしっかり考慮に入れることが、夫婦円満のコツともなるのかもしれない。

※参照元
・『幸福の計算式』(ニック・ポータヴィー著)
・アットホーム「『通勤』の実態調査2014」
1都3県在住で、5年以内に住宅を購入し、都内に勤務する子持ちのサラリーマン583名を対象。
http://www.athome.co.jp/contents/at-research/vol33/
・スウェーデン人による通勤時間と夫婦関係の調査
http://woman.mynavi.jp/article/130826-019/
スウェーデンの研究者Erika Sandow氏が、スウェーデン人約100万人を対象に、1995年から2005年にかけて10年間調査。

(フリーライター 桜田容子=文)