厳選!2歳馬情報局(2016年版)
第13回:ヴァナへイム

 サラブレッドは生まれた瞬間に、ふたつの"役目"が求められる。ひとつは、現役の競走馬としてレースで実績を残すこと。もうひとつは、引退後に父や母となって、活躍馬を多く出すことだ。

 どちらか片方の"役目"をまっとうするだけでも簡単なことではないが、ふたつとも成功させる馬も少なからずいる。

 牝馬でその代表的な存在と言えば、「女傑」と呼ばれたエアグルーヴだ。現役時代には、1996年のGIオークス(東京・芝2400m)と、1997年のGI天皇賞・秋(東京・芝2000m)を制覇。特に天皇賞・秋では、牡馬一線級を封じ込める圧巻の勝利を飾った。

 さらに彼女は引退後、母としても高い能力を発揮。GIエリザベス女王杯(京都・芝2200m)を連覇したアドマイヤグルーヴや、海外GIのクイーンエリザベスC(香港・芝2000m)を制したルーラーシップらを世に送り出した。その他にも、多数の重賞勝ち馬を生み出している。

 そんなエアグルーヴからなる血筋は、今や日本を代表する一族。2015年には、アドマイヤグルーヴの子で、エアグルーヴの孫となるドゥラメンテが二冠馬に輝いた。

 そして、今年の2歳馬の中にも、エアグルーヴの血を引く素質馬がいる。まもなくデビューを迎える、ヴァナヘイム(牡2歳/父キングカメハメハ)だ。

 母は、エアグルーヴの子であるグルヴェイグ。現役時代には、2012年のGIIIマーメイドS(阪神・芝2000m)を勝っており、優秀な血筋の継承者として期待されている馬だ。ヴァナヘイムは、その初子となる。

 同馬の育成が行なわれたのは、ノーザンファーム空港牧場。担当スタッフの高見優也氏は、春の取材でこんな感触を口にしていた。

「筋肉質なタイプで、体にメリハリがありますね。すごくいい感じの体つきをしていると思います。筋肉量も豊富です。育成期間にだいぶ成長してよくなってきましたし、まだまだこれからもよくなるでしょうね」

 ヴァナへイムは、所属する角居勝彦厩舎(栗東トレセン/滋賀県)に入厩し、すでに本格的な追い切りを消化。8月28日の2歳新馬(小倉・芝1800m)で初陣を飾る予定だ。鞍上は、調教でも騎乗している浜中俊騎手が務める。

 初めてのレースとなれば、レースへの対応や折り合い面など、いろいろな不安も出てくるもの。しかし、同馬にとってはそれも心配ないだろう。高見氏のコメントがそれを裏づけている。

「折り合いには問題がなく、乗りやすい馬ですね。こちらの指示に従ってくれます。距離についても、(2000mを超えて)ある程度長いところまでいけるのではないでしょうか」

 なお、4月の時点では「いつでも(デビューへ向けて)動かせるが、焦らずじっくり進めます」と、高見氏は語っていた。そういった方向性にあったにもかかわらず、意外にも8月という早いデビューとなったのは、それだけ「調教が順調に進んだ」ということだろう。

 祖母エアグルーヴの血を受け継ぐヴァナへイム。早くもこの世代を牽引する"主役候補"となれるのか。デビュー戦でどれだけのパフォーマンスを見せるのか注視したい。

河合力●文 text by Kawai Chikara