投手だけでなく打者・大谷翔平(日本ハム)が、いよいよすごいことになってきた。「二刀流」の宿命で規定打席こそ到達していないが、ホームランはパ・リーグ5位タイの18本。打率も.346とハイアベレージを記録している(成績はすべて8月17日現在)。はたしてパ・リーグの投手たちは、"打者・大谷"をどう見ているのか。以下、2つの質問を用意し、他球団の投手たちに聞いて回った。

Q1.打者・大谷翔平の印象を聞かせてください。

Q2.自分が登板する試合で、相手にするのが「打者・大谷」と「投手・大谷」なら、どちらがチームの勝利に近づく確率が高いと思うか。

●石川歩(ロッテ)

 今シーズンは「打者・大谷」に対して2打数0安打に抑えている。ここまで石川は、勝利数、防御率ともにリーグトップの成績を残している。

A1.昨年はインコースとアウトコースを使えば抑えられたので、そこまで気にするほどの打者ではなかったのですが、今年はインコースも強く振ってくるようになっています。外の変化球もうまく打ちますし、インコースのボールも強い打球が打てる。しっかり投げきらないと危ない打者になっています。

A2.「投手・大谷」の方がいいです。大谷くんと投げ合ったときはなぜか負けてないですし......。もちろん厄介な打者ではあるんですが、僕としては"投手"に打たれるのがそもそも好きじゃないんです(笑)。

則本昂大(楽天)

 今季もここまでリーグトップの奪三振数を誇っており、球界を代表するパワーピッチャー。今シーズンは「打者・大谷」に対して6打数2安打。

A1.単純にすばらしいバッターですよね。見ていてもすごいと思いますし、どの球種もしっかりと振ってくる。そこは厄介なところですね。

A2.難しいところですね。そのときの大谷くん自身の状態もありますから......。投手としてもすばらしいですし、打者であればクリーンアップを打つ能力がある。どっちも嫌ですね(笑)。大谷という名前がスコアボードにあるだけで、プレッシャーがかかりますから。

●古谷拓哉(ロッテ)

 35歳のベテラン左腕は、「打者・大谷」との対戦は今シーズンが初めて。結果は3打数1安打。

A1.きれいな振りをしていて、そこがいちばん印象に残りました。小細工ありきでスイングするのではなく、自分のスイングをしっかりするなかで、ボールに対応している。たとえば、同じ日本ハムの中島(卓也)選手であれば、まずボールに当てることに重きをおいてスイングしているように見えます。それが良い悪いではなく、タイプがまったく違うということです。大谷くんは自分のスイングをした上で当ててくるんですよ。タイプ的には西武のおかわりくん(中村剛也)で、まずは自分のスイングをする。そんな感じがしますね」

A2.難しいところですが、僕は「打者・大谷」の方がいいです。「投手・大谷」ですと、点を取るのが難しい。その点、「打者・大谷」は9分の1です。勝負していい場面は勝負できるし、逃げるというわけじゃないですけど、無理に勝負にいかなくてもいいときもありますから。

●山崎福也(オリックス)

 プロ2年目のドラフト1位左腕は、今季ここまで大谷と3度対戦し、通算4打数1安打。

A1.スイングスピードが半端じゃなく速かったですね。真っすぐを投げたら持っていかれる雰囲気がありました。対戦では、変化球でごまかして、真っすぐを見せることしかできなかったです。あれだけ騒がれている選手なので、対決したい気持ちがありましたし、楽しみでしたし、実際に対決できて嬉しかったです。

A2.難しいですね。自分の調子もありますけど、投手として出てくれば......それはちょっと答えるのが難しいです(笑)。

●釜田佳直(楽天)

 5月29日に登板した試合で、大谷は「6番・投手」として出場。釜田は大谷を2打数0安打に抑えたが、4回途中7失点でKO。チームも「投手・大谷」に7回を1点に抑えられ、今季3勝目を献上した。

A1.打席でも威圧感がものすごくありました。ホームベースからかなり離れて立っているのに、外のボールに届きそうな感じがします。だからといってインコースが打てないわけではなく、しっかりと打ってくる。裏をかかないと抑えるのは難しいですね。それもコースへしっかり投げ切らないといけない。中途半端だとホームランにされてしまいます。加えて、小技もうまいといいますか、ボールを拾うのもうまいんですよね。

A2.「二刀流・大谷」と対戦しましたが、僕の感覚としては、「投手・大谷」と試合をする方がいいですね。やはり、あのバッティングは脅威です。ただでさえ厄介な打者が多い日本ハム打線のなかに、大谷くんがポンと打線に入ってくると、さらに気を遣います。「投手・大谷」なら、あまり意識せずに自分のピッチングに集中できますから。

和田毅(ソフトバンク)

 今季5年ぶりに日本球界に復帰したサウスポーは、「二刀流」大谷と初遭遇。ここまで11打数6安打2本塁打とやられている。

A1.まず逆方向に飛ばせるところがすごいですよね。自分としては、相性が悪いということもあるんでしょうけど、右投手も左投手も苦にしない。逆に左投手の方が打っているんじゃないかなと思うほど。本当に手ごわいバッターというイメージしかないですね。厳しいコースに投げて詰まらせてもヒットにされたり、甘いところにいけばホームランのイメージがありますし......。実際に高い打率も残しているのでアベレージヒッターとも言えます。本当にすごいというイメージしかないですね。

A2.難しいですね。どっちも嫌ですね。はい、どっちも嫌です(笑)。

岸孝之(西武)

「打者・大谷」に対して、2013年は11打数4安打、15年は3打数1安打、そして今シーズンはここまで11打数6安打。通算で25打数11安打(打率.440)と打ち込まれている。

A1.僕は結構打たれているんで......。ボールが甘くなったら、もうすごい打球が飛んでいきます。打ち損じを願うんじゃないけど......きっちり投げないとやられてしまう。そういう雰囲気しかないですよね。昨年との違いを僕に聞くのは間違いですよ。僕は常に打たれているから。印象は昨年と一緒ですよ。

A2.ピッチャーとして投げ合うのは楽しい部分がありますけど、そのことについては僕が言うことじゃないと思います。「打者・大谷」と対戦するのであれば、彼の前にランナーをためないことですね。大谷くんが打つと、試合の流れや雰囲気が変わるので、全力で抑えないといけない。また、投げ合うのであれば、彼よりも失点を少なくしないといけない。何だろう......わかんないです(笑)。

●野上亮磨(西武)

 今シーズン、大谷と2試合投げ合い、1勝1敗。「打者・大谷」には通算4打数1安打。

A1.今年は逆方向に強い打球のホームランが多いですよね。なので、自分の持っているすべての球種を使って勝負する必要があるのですが、タイミングをずらしにくいし、なにより打席で体がブレないんですよ。方向を決めて打っている感じもしますね。あと、スイングスピードが速いですし、特に今年は次元が違う(笑)。バッティング練習を見ていても、すごいですよね。あれは見ないようにしているんですけど、つい見ちゃうんですよ。野球ファンとして(笑)。で、対戦するときにその映像が頭のなかに出てきて、それはダメダメって(笑)。あらためて、いい打者であることは間違いないです。穴がないですし。ぶつけても仕方ないというくらいの気持ちでインコースの厳しいところに投げるんですけど、ボールがスーッと大谷くんから逃げていくんです(笑)。

A2.僕は投げる側なので、「打者・大谷」の方が嫌です。大谷くんはクリーンアップの打撃力があり、対戦するときは神経を使います。やはり彼が打線にいないとそれだけで楽ですし、なにより日本ハムの得点力は減りますよね。そう考えると、投手として対戦する方がいいですね。投げ合うのもタフですけど、そこは味方の打線を信じています。

●千賀滉大(ソフトバンク)

 今シーズンから先発に転向し、150キロを超えるストレートを武器にここまで10勝5敗と大躍進。「打者・大谷」とは、今季5打数1安打4三振と抑えている。

A1.逆方向にホームランを打てる数少ない選手ですよね。それに、ミスショットもホームランにできる力を持っています。(8月6日に打たれた)あのホームランも大谷くん自身が「いい当たりじゃなかった」と話していましたけど、本当にそんな感じの飛び出し方だったんです。そんなにいい当たりじゃなくても逆方向にあそこまで飛ばせる。やっぱりすごいですし、怖い存在です。

A2.「投手・大谷」として投げ合うときは、僕が言えることではないので......。やはり、彼が打者のときにどうするか。そのとき、僕は思い切り投げるだけです。

 球界を代表する投手たちも驚く「打者・大谷」の成長速度。それでも彼らのコメントからは大谷と対戦することの楽しさが溢れていた。「投手・大谷」と息詰まる投げ合いをし、「打者・大谷」に真っ向勝負を挑む。この先、数多くの名勝負が繰り広げられるのは間違いない。

島村誠也●文 text by Shimamura Seiya