リピーター続出「シン・ゴジラ」そろそろ名台詞について語らせてくれ

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熱烈なファンを生み出し続ける『シン・ゴジラ』。膨大な情報の奔流に押し流されつつ、知れば知るほど「もう一度観たい」と劇場に向かうリピーターの数も増殖している。世間に届くヒット作であると同時に、新たなカルト映画の誕生を目の当たりにした気分だ。

観た人それぞれにお気に入りだったり、ツボに入ったりしたセリフはあると思うが、ここでは筆者がグッときたセリフを並べてみたい。台本を入手したわけではなく、メモなどを元にしているので、間違いも多々あると思うがご容赦のほどを(たくさんのブログやツイートなどを参考にさせていただきました)。登場人物の肩書きはパンフレットに準拠した。

なお、この記事は完全にネタバレです。バレ倫。

この動き、基本は蛇行ですが、補助として歩行も混じっていますね。エラらしき形状から水棲生物と仮定してもハイギョのような足の存在が推測できます。
尾頭ヒロミ 環境省自然環境局野生生物課長補佐(市川実日子)


みんな大好き尾頭ヒロミ課長補佐の最初のセリフ。一気呵成の早口で、政治家や御用学者たちが織り成すヌルッとしたつかみどころのない空気を一変させてくれた。この後、関口文部科学大臣(手塚とおる)の楽観論にもピシャリと反論。「ピシャリ」という表現が似合いすぎ。

しかし、現場が人口密集地です。今は攻撃より避難を優先すべきです。
花森麗子 防衛大臣(余貴美子

「すぐに駆除すべきじゃないか!」とカジュアルに強硬論をぶつ金井内閣府特命担当大臣(中村育二)に花森防衛大臣が一言。取材元でもある小池百合子元防衛相をイメージさせつつ、イケイケの好戦派として単純に描かず、国民の安全を第一に考えている(自衛隊の弾で国民に被害が出るのはマズいと考えている)ように描くことで作品の奥行を作り上げている。虚構を現実で補強しているのだ。

総理、ここは苦しいところですが、被害の拡大を防ぐためにも、総理のご決断をいただかないと。
東竜太 内閣官房長官(柄本明

災害緊急事態の布告の宣言と自衛隊初の防衛出動の決定を大河内首相(大杉蓮)に促す東官房長官の言葉。この直後に有名な「今ここで決めるのか! 聞いてないぞ!」がある。東官房長官はこの後も総理相手に「理解を示しつつ、決断を促す」というコンボを決め続けるが、やっぱり仕事ができる人なのだろう。矢口蘭堂を内閣官房副長官に起用したのもこの人だ。

いえ、ローテで行きます。皆、入隊したときから覚悟はできています。
木更津駐屯地の自衛隊

自衛隊の回転翼機による巨大不明生物駆除作戦が決行されることになった。前例のない危険な任務に際して「志願させるのか?」と問う上官に、「覚悟はできています」と即答する自衛隊員――。
このシーンは戦いに赴くヒロイックな戦士を描こうとしているのではなく、取材に基づいたリアルな自衛隊員の心情を描いたものだと理解している。自衛隊員は、こういうとき潔く“わたくし”を捨てられるものなのだ。参考文献として自衛隊初の特殊部隊創設に関わった伊藤祐靖の『国のために死ねるか』(文春新書)を挙げておきたい。本書では能登沖不審船事件で初めて海上警備行動が発令されたときの模様が克明に記されている。当時の海上自衛隊にとって、北朝鮮の工作船は“ミニ・ゴジラ”だった。また、伊藤は自分のことしか考えていない政治家のために自衛隊員を死地に送るのはまっぴらだとも説いている。

大臣、先の戦争では旧日本軍の希望的観測、机上の空論、こうあってほしいという発想などにしがみついたために、国民に300万人以上の犠牲者が出ています。根拠のない楽観は禁物です。
矢口蘭堂 内閣官房副長官(長谷川博己

エレベーターの中で楽観論を語り合う大臣たちを矢口がおもむろに一刺し。矢口は間違いなく『失敗の本質 日本軍の組織論的研究』(中公文庫。第二次大戦時の日本軍の失敗を掘り下げながら日本的組織の特性を暴いた名著)を読んでいるはずだ。同時に、大臣にもためらいなく噛み付く矢口のクレイジーさも表している。それにしても「巨大不明生物の死骸を利用した復興財源案」って何だったんだろう……?

ま、便宜上私が仕切るが、そもそも出世に無縁な霞ヶ関のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児、そういった人間の集まりだ。気にせず好きにやってくれ。
森 厚労省医政局研究開発振興課長(津田寛治)

いよいよ始動する「巨大不明生物特設災害対策本部」、通称「巨災対」。個性的なメンバーを前に身も蓋もないことを言う森課長だが、さすがエリートの集まりらしくチームワークは終始良かったと思う。それにしてもこのセリフ、異様にリズム感が良い。まさに声に出して読みたい日本語だ。

あーっ! あーっ! わーっ! こんなんアリかよーっ!
安田 文科省研究振興局基礎研究振興課長(高橋一生)

検出された放射能と巨大不明生物の移動ルートが完全に一致しているのを発見したときの安田の素っ頓狂なリアクション。何か緊急事態やトラブルが発生したときに一人でじっと抱え込む人より、こうやって騒ぎ立てる人がいたほうが案外被害は拡大しにくいと思う(一瞬で周囲と共有できるため)。その後、尾頭さんに「ごめんなさい」と素直に謝っているところも好感度大。安田のキャラ人気も一気に沸騰することに。安田を演じた高橋一生はイケメンなのに、(たぶん役作りのため)前歯を真っ黄色にしていてエラいと思った。

気落ちは不要、国民を守るのが我々の仕事だ。攻撃だけが華じゃない。住民の避難を急がせろ。
西郷 タバ戦闘団長(ピエール瀧)

多摩川を絶対防衛線と定めたタバ作戦でゴジラの進行を食い止めることができず、敗走を余儀なくされる自衛隊。その中での西郷タバ戦闘団長のこのセリフは、個人的な “『シン・ゴジラ』グッと来るセリフランキング”ベスト3に入る。
この映画でのゴジラの存在は3.11の災厄に例えられるが、自衛隊は災厄をコントロール(ゴジラを火力で打倒する)ことはできなくても、多くの人を助けることができる組織だということが描かれている。実際に数多くの巨大災害の中で救助活動を行ってきた自衛隊の矜持を示したセリフだと言えるだろう。

しかし、米軍の攻撃が都内で始まる! 私にはここで、その推移を見極める義務がある。それに都民を置いて、我々だけ逃げ出すことはできん!
大河内清次 内閣総理大臣(大杉漣

無能扱いされることが多い大河内総理だが、筆者は嫌いではない。派手な決断はできないが、人の意見をよく聞き、人情味もある。とはいえ、このときも(いつものように)周囲から説得されてヘリに乗り込んだが、すぐさまゴジラの熱線で撃墜されて内閣総辞職してしまった。あーあ、ダメな首脳たちが死んじゃったよ! と思うのではなく、胸がチクッと痛むのは彼らが日本と国民のために必死に働いたからだろう。

シン・ゴジラ』名セリフ集、後編に続きます
(大山くまお イラスト/小西りえこ)