巨匠イングマール・ベルイマンの影響で『マルチプル・マニアックス』を撮ったとジョン・ウォーターズ

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 カルト的人気作品『ピンク・フラミンゴ』や大衆的作品『ヘアスプレー』の鬼才ジョン・ウォーターズが、1970年の映画『マルチプル・マニアックス』の復刻版について、8月4日(現地時間)ニューヨークのAOL開催のイベントで語った。

 本作は、かつては万引き女だったディヴァインが、「ゲロ喰い男」「ヘロインの禁断症状」などを売り物にした変態ショーを組織していたが、ある日内縁の夫デヴィッドがファンの女とデキてしまい、ディヴァインの殺害を企てたことから、さまざまな出来事が巻き起こるというもの。ウォーターズが23歳の時に製作、脚本、監督、撮影を試みた意欲作。

 本作で何を描きたかったのか。「アートシアターに向けた実験的な映画を撮りたかった。僕が育ったボルチモアでは、当時、イングマール・ベルイマンの映画でさえ、せりふが編集され、胸などを含めたシーンを残し、まるでセックス映画のように公開されていた。それに、ベルイマン映画には、ゲロを吐いているシーンが多くて、彼こそが“ゲロの王様”だ。僕ではない(笑)。ちなみに、(缶詰の)クリームコーンがモノクロでは素晴らしいゲロ映像になる。ウディ・アレンはベルイマンの影響で『インテリア』を撮影、僕は『マルチプル・マニアックス』を撮った」と明かした。

 本作はモンスター映画だとウォルターズ監督は語る。「ディヴァインはトランスジェンダーではなく、女性になりたかったわけでもない。彼はゴジラになりたかった。本作こそが、彼が最もゴジラに近付いた作品と言える。『ピンク・フラミンゴ』で彼は糞を食べて人をおびえさせ、今作では牛の心臓を食べている。ある意味『ピンク・フラミンゴ』から今作までは、彼の自然で有機的な旅路だ(笑)」と彼の世界では理にかなっているようだ。

 過去には車のトランクに映像プリントを入れて、自身の映画を上映してもらう場所を探していたそうだ。「ミッドナイトシアターというよりは、あるスペース(映画を上映できる敷地)を200ドルで借りて、客が誰も来なかったら、そのまま自分が200ドル失うことになり、客が来れば200ドルをキープすることができた。ただ、本作はジョナス・メカスの製作・配給会社やマイク・ゲッツのアンダーグラウンド・シネマ12との上映契約ができて、製作資金を父親に返せた。父親にどんな映画になるか事前に伝えていたら、資金を得られなかっただろうね(笑)」と振り返った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)