■「夏競馬」珍道中〜西日本編(2)

【オグリキャップ像に一礼し、いざ勝負!】

 唐突に始まった、予算5万円で行く夏の「旅打ち」。

 まずは笠松競馬を出発地として、新潟か小倉かを選ばねばならない。距離的には新潟のほうが近いが、新潟競馬場から他に転戦する選択肢がない。

 一方、小倉はというと、競馬も競輪も開催されていて、ちょっと足を伸ばせば佐賀競馬もある。効率よく周れば、実は安く済ませられそうなのは、こっちだ。

 早速、"脳内"旅行代理店「ツッチー・ヤイ・エス」とルートを相談しながら、今後の計画を立てる。

 そういえば、九州へ行くなら「九州ふっこう割」としていろいろな旅行代理店が割引クーポンを出しているではないか! すぐさまチェックしてみるが、いくら調べても「クーポンの配布は終了しました」という案内ばかり。たとえ割引クーポンがあったとしても、旅行開始の数日前に予約が必要だという。

 だから、いきなり言うなって......。担当編集Tの勝手な"指令"に再び腹が立ってきた。

 それでも、意外とできる"脳内"代理店「ツッチー・ヤイ・エス」は、ブラボーな旅程を導き出してくれた。

 7月29日、笠松競馬(途中で切り上げて)→中部国際空港セントレア(ジェットスターで)→福岡(博多泊)。

 7月30日、博多(バスで)→小倉競馬(+小倉競輪/小倉泊)

 7月31日、小倉(JR「青春18きっぷ」で)→久留米→佐賀競馬→福岡(ジェットスターで)成田

 これだ! ジェットスターなら当日でも結構安い。九州での移動はバスか、JRの普通・快速列車(自由席)に自由に乗り降りできる「青春18きっぷ」がおトクだ。競馬で勝ったら、新幹線にグレードアップすればいい。

 笠松競馬を途中で切り上げねばならないのは後ろ髪がひかれるものの、それを除けば、完璧すぎる。このスケジュールを瞬時に出せるとは、やっぱりすごいぞ「ツッチー・ヤイ・エス」!

 そうこうしていると、はや笠松競馬が始まってしまう時間に。慌ててサウナを出て、名鉄・名古屋駅から特急岐阜行きに飛び乗って、一路笠松競馬場を目指した。

 移動の車中では、セントレアから福岡へ行くジェットスターをスマホで予約。およそ1万1000円だった。いきなり痛い出費ではあるが、他を切り詰めれば、あとは馬券で取り返せばいいのだ(はなから、疑問を感じる考え方だが......)。

 名古屋方面から笠松に近づき、右手車窓に競馬場が映り込んでくると、編集担当Tへの怒りもどこへやら、徐々にテンションが上がってくる。

 笠松競馬場は、名鉄・笠松駅から徒歩3、4分ほど。改札を出て線路下の通路をくぐり、土手を越えるとすぐ、目の前が入場門だ。

 笠松競馬場は、木曽川のほとりにある1周1100mの地方競馬場。地方から中央競馬に移籍して大活躍した、アンカツこと安藤勝己元騎手(現解説者)が所属していた競馬場として有名だ。現役では、柴山雄一騎手がもともとここの所属だった。

 競走馬で言えば、なんといってもオグリキャップだろう。そんな、1980年代後半に空前の競馬ブームを起こした「アイドルホース」の出身競馬場でもあり、「名馬・名手のふるさと」とも呼ばれている。

 入場料は、100円。netkeiba会員になっていると無料入場クーポンが利用できる(実は前夜に訪れた川崎競馬場も同様)。少しでも、節約、節約。

 競馬新聞は入場門の外で販売されているので、忘れずに。

 入場門をくぐると、左手に馬が駆ける像がある。オグリキャップの像だ。足もとにはオグリキャップのたてがみが納められたレリーフが飾られている。

 笠松が生んだヒーロに、まずは一礼。いざ、「旅打ち」第1ラウンドへ。

【600円払って「特別指定席」を確保するも......】

「旅打ち」企画の報せを受けた時点で、すでに5000円以上使ってしまっている。マイナスからのスタートである。第1ラウンドの笠松では、最低でもそのマイナス分を取り戻したい。

 オグリキャップ像への挨拶を済ませると、場内では第3レースがゴール前の攻防を迎えていた。4コーナーであっさりと先頭に立った9番の馬が後続を引き離して勝利した。

 騎乗していた藤原幹生騎手は、これがデビュー以来通算600勝のアニバーサリーとなった。こういう瞬間に遭遇すると、こちらの気分も上がってくる。

 上がるのは気分だけではない。梅雨が明け、いよいよ夏本番を迎えたことで、気温の上がり方も尋常ではない。この日、名古屋周辺の最高気温は32度を記録。場内のスタッフに聞けば、正午の時点でコース脇では37度に達していたとか。ジョッキーも、馬も、みんなご苦労さんです!

 そうした状況の中、快適な環境こそが的中を生む――きっと昔のえらい人はそう言ったのではないか。涼を求めるため、600円払ってスタンド3階にある「特別観覧席」に入ることにした。なぁ〜に、600円ごとき、すぐに取り戻せるはずさ。

 笠松競馬場には、いわゆる屋内指定席がふたつあって、ひとつはゴール寄りの「ユーホール(500円)」。もうひとつが、ワシが入った4コーナー寄りの「特別観覧席」。こちらは各席に大きめのモニターが備えられている。

 なお、地方競馬のこうした指定席ではソフトドリンク無料のところが多い。今日のような日は水分補給だけでもかなりの出費になりそうだから、そうしたサービスで十分に元は取れる、といったところか。

 階段を上るだけで汗が吹き出たが、辛抱して3階まで上がると、エアコンによる快適な涼空間が待っていた。

「生き返るぅ〜」

 思わず口から漏れた言葉に、周囲にいたギャンブルおじさんたちが「だよねぇ〜」といった視線を送ってきた。

 涼しさを手に入れたら、次はのどを潤したい。概して、こうした特別席の飲料はカップ式の自動販売機が無料開放されているのが主流である。

 さて、自動販売機はどこに? 辺りを見渡してみても、有料のカートカン(紙製の缶)飲料の自販機こそあるが、カップ式のものはない。

「あのぉ〜、無料のドリンクはどこでしょう?」と、スタッフのおばちゃんに聞いてみる。すると、「無料なのはお茶だけよ」となんとも無情な回答。

 えぇ〜ッ!? それが楽しみで600円も払ったのにぃ〜(泣)。

 しぶしぶ「冷」と記された緑茶ボタンを押す。「こういうのは、得てしてヌルイんだよなぁ」と思いながらグッと飲むと、ほどよい冷たさがスーッとのどをクールダウンしてくれた。

 さあ、暑さから逃れたところでいよいよ勝負である。パドックを見て、レースの検討に入る。

 笠松競馬場のパドックは世界的にも珍しい、レースで使うコースの内側にあるスタイル。そのため、観客はコースを挟んで離れた場所の様子を見ることになる。こういうときは、自席にモニターがあるのは便利だ。

 手もとの新聞とモニターを交互に見つつ、導きだした本命は、2番人気のデルマタクミノカミ。成績も安定しており、タイムの比較も悪くない。さらに鞍上は、名古屋の女性ジョッキー「葵ちゃん」こと木之前葵騎手。まだデビュー4年目と若いが、昨年はイギリスの招待競走で海外初騎乗初勝利を飾っている。ワシの「旅打ち」の船出を飾る、幸運の女神になってもらおう。

 本命から3頭に馬連複を購入した。

 葵ちゃんのデルマタクミノカミは、序盤は中団よりやや後方を追走。先行有利な地方競馬においてはかなりドキドキする位置取りだ。しかし、3コーナー辺りから徐々に進出し、4コーナーでは先行勢を射程圏内にとらえた。

「おーし、こい!」

 ワシの声援に応じて、じわじわと前との差を詰める葵ちゃん。抜け出している馬も、流した相手3頭のうちの2頭。「これはもらった!」と思ったが、惜しくも葵ちゃんの追撃も及ばす3着。「旅打ち」一発目は、いわゆる「タテ目」と悔しい敗戦に終わった。

 気を取り直して、第5レース。人気になっているのは、中央競馬からの転入初戦となった前走を快勝した5番アナトリア。それに続くのが、今回が中央競馬からの転入初戦となる9番マイネルマルキである。

 この2頭がくるのはほぼ間違いない。しかし、アナトリアから買ったのでは、まったくうまみがない。そこでここはひねって、マイネルマルキを1着、アナトリアを2着に固定しての三連単で勝負。3着はそこそこ期待できそうな3頭に絞った。一応、マイネルマルキとアナトリアの馬複なども保険で買っておこう。

 マイネルマルキの鞍上は、ついさっき600勝を達成した藤原騎手。ここは、"ツイてるやつに乗れ!"作戦だ。

 だが、アナトリアがあっさりと勝利。2着はマイネルマルキ。馬複を保険で買ったとはいえ、配当150円と取りガミである。残念......。

 エアコンの効いた特等席で、身も、心も、財布の中身もクールダウンしながら、笠松ラウンドは後半戦へ突入する。

(つづく)

土屋真光●旅人 Traveler&text by Tsuchiya Masamitsu