■「夏競馬」珍道中〜北日本編(10)

 盛岡から札幌、帯広、門別とめぐってきた「北の旅打ち」。

 帰りも、函館発の深夜フェリーで津軽海峡を渡って、朝一番の列車で青森駅を出発した。

 7月29日に上野を出発してから、船中2泊、野宿1泊を含む、6泊7日の旅。移動の際の中心となったJRの「おトクなきっぷ(※)」は、有効期限の7日間を丸々使い切った。

※1週間の有効期間内なら、JR東日本とJR北海道の普通列車が乗り放題という「北海道&東日本パス」。値段は1万850円。

 この間、ずっと乗り続けた各駅停車の列車は、いったいいくつの駅に停まったのだろう。上野から青森間が86で、札幌→帯広間が45。どちらも往復だから、×2で262。これに、門別競馬場に行ったときの札幌→富川間の18、帰路に利用した札幌→函館間の68を足すと、なんと合計348。山手線が29駅だから、ちょうどその12倍だ。

 それが、どれほどのことかは想像してもらうしかないが、旅行中、競馬をやって、何か食べて、寝ているとき以外は、ずっと電車に乗っている、そんな感じだ。

「手づくり」と言えば聞こえはいいが、その実、無駄と遠回りばかりしてきた。しかもこんなに疲れる旅は、おそらく1970年代の北海道に湧くようにいたという「カニ族(※)」以来、誰もやったことがないのではないか、幾分の皮肉を込めて、そう思う。

※1960年代〜1970年代、横長の大型リュックサックを背負って、低予算で旅をしていた若者たちの俗称。今で言うバッグパッカー。

 そうは言いながらも、「予算5万円で旅打ち」というミッションを、無事に完遂できたことには、一定の満足感がある。

 もしワタシが、もっと馬券じょうずだったり、「今晩ススキノで、何かうまいものを食べるために、少しお金を残しておこう」などと考えない、度胸と才能に恵まれたギャンブラーだったりしたら、もっと大儲けしていただろうし、非常にリッチな、酒池肉林の世界だってあったかもしれない。そうすれば、かなりゴージャスな旅行記を提供できたはずだ。

 その点は、返す返す残念に思っている。

 ともあれ、予算内で盛岡と北海道の3つの競馬場をまわって「旅打ち」を続け、ちゃんと生きて東京に帰ってきた。

 内訳をざっと記せば、交通費は「おトクなキップ」(1万850円)に、高速バス代(4600円)、フェリー代(往復4000円)、そしてタクシー代と地下鉄料金等でおよそ2万5000円。宿泊費が3泊で10000円。あと、食費と馬券代を含めた雑費が約1万5000円といったところか。

 もし、北海道へ旅行に行きたい、競馬もやりたい、でも予算が......と悩んでいる人がいたら、ぜひ今回のワタシの旅を参考にしていただきたい。そんなにお金をかけなくても、アイデアと、ちょっとしたラッキーがあれば、旅も「旅打ち」も可能だ。

 昔から、旅の基本は「なんとかなる」。とりあえず、「なんとかなる」と思って歩き出すから、旅は出会いと発見に満ちた、面白いものになるのだ。

「旅打ち」の競馬は楽しかったし、列車の窓から眺める夏の北国の風景も素晴らしかった。特に、帰路に乗った室蘭本線→函館本線と続く路線での、内浦湾の海岸の景色は最高だった。

 食べ物もまた、おいしかった。

 盛岡のジャンボ焼き鳥、函館のイカ刺し定食、札幌競馬場の牛めしに、帯広の屋台村で食べた焼き牡蠣もおいしかった。門別で儲かったあとのススキノでは、東京の居酒屋で出されるものと比べると、倍はあろうかというホッケの開きに、ホッキ貝などの新鮮なお刺身を堪能した。

 札幌から去るときに食べたスープカレーも絶品だった。さすが、うまいと評判の店だけある。さらに帰りの函館では、フェリーの出発時間を待つ間、名物の函館ラーメン(塩味)を食した。疲れた体に染み渡るスープの味がたまらなかった。

 むろん、ご当地ビールのサッポロクラシックはたらふく飲んだし、最近うまくなっているという噂の、北海道の地酒も飲んだ。

 肉体的にはつらかったが、旅にはそれなりの見返りもあったのである。

 とはいえ、もし「もう一度、やれ」と言われたらどうするか?

 う〜ん......、そのときはちょっと考えてみることにする(苦笑)。

新山藍朗●旅人 Traveler&text by Niiyama Airo