■「夏競馬」珍道中〜北日本編(7)

 北の大地をめぐる「旅打ち」。

 帯広に着いてからは、予約していた格安ホテルにチェックインした。ひと風呂浴びて、たまっていた原稿を書いたり、写真のデータを整理したりしていたら、結構時間が経っていた。

 ホテルを出たのは、午後5時を15分ほど回った頃。帯広のばんえい競馬(ばんえい十勝)は、4月末から12月まではナイター開催(※)。14時40分に第1レースが始まって、最終レースが行なわれるのは、20時45分前後。
※11月末から12月は約1時間前倒しして開催。正月は昼間に開催され、以降、1月〜3月は薄暮開催。

 競馬場へのアクセスは、帯広駅からタクシーで7〜8分。駅からならバスも出ている。徒歩で行ったとしても、駅から20分くらい。時間に余裕があるときは、帯広の街並みを眺めながら、ゆっくりと歩いていくことをお勧めしたい。

 帯広は、いまでもどこか"開拓時代"の雰囲気が漂う街だ。

 ワタシはこれまで、ここには3、4回来ていて、競馬場へはだいたい歩いていく。今回は雨が降っていたが、これまで同様、歩いていった。

 馬券を買ったのは、7レースから。競馬場の入り口近くで専門紙を購入し、パッと見て「中心は8番の馬だ」と思った。

 ただ正直なところ、これまでに3、4回来ているとは言っても、ワタシはここで馬券を買うときの予想の立て方がよくわからない。

 もちろん競馬新聞には、近走成績や血統、厩舎のひと言コメントなどが掲載されている。でも、それをある程度読みこなせたところで、日頃から慣れ親しんだ中央競馬の専門紙を見て、それを土台に予想を組み立てることと、同じようにはいかない。

 古いことわざに「生兵法は大怪我のもと」というのがある。これを英語にすると、「A little learning is a dangerous thing」となる。たまにしか来ないばんえい競馬での勝負を前にしたワタシなりに訳せば、「普段あまり見ない新聞を、ちょっと読み方を知ったくらいでわかったような気になるのは、やめよ」という感じか。

 だから、ここでは専門紙はサラッと見るだけ。ほんの参考程度で、あまりアテにはしない。

 基本は、あくまでも"カン"。

 ばんえい競馬に限らず、「旅打ち」の基本は、きっとどこでも"カン"だ。それが、うまく働くかどうかで、勝負が決まる。ワタシの場合で言えば、今回の「旅打ち」を終えたあと、北海道新幹線に乗って東京へ帰れるかどうかが決まる。

 何年か前、札幌記念でさんざん負けたあと、その翌日に所持金6000円だけで帯広まで乗り込んできたことがあった。その際には、最終レースのひとつ前でひらめいた。

「人気はないが、潜在能力なら一番」というコメントにピンときたのだ。

 その馬から勝負して、5千何百円かの馬券を当てた。カンが働けば、そんなラッキーにもめぐり会うことがある。

 ともあれ、大事なのは今、目の前のレースである。

 ばんえい競馬の場合、どのレースも直線200m、フルゲート10頭のコースで行なわれる。未勝利も、GIも、そこは変わらない。

 途中、山型の障害がふたつあって、この障害をいかに巧みに乗り越えていくかが、勝負の分かれ目となる。特にふたつ目の障害は、ひとつ目の障害よりも1.5倍ほど高い。それゆえ、ここが最大の難関にして、勝負を決める最大のポイントとなる。

 馬券を買った7レースは、8頭立て。

 なぜ8番の馬を中心に見たかというと、第一に上手い騎手が乗っていること。ばんえいでは上手い騎手から買うのが、ワタシの鉄則。

 それと、これは都市伝説の類(たぐい)かもしれないが、「ばんえいでは水分の含有率によって、その日走りやすいコースができる」と何かの本で読んだことがある。以来、馬番にはこだわって、5000円代の馬券を当てたときも、このことが参考になった。

 そしてこの日、7レースを迎える前までに7コースが2回、8コースが1回勝っている。それで、「8番は1勝でも7番が2勝だから、そのあたりのコースが走りやすいのかもしれない」と思って、8番に決めた。

 ただし、ここで"悪魔の囁き"が頭の中をかすめた。「この8番の馬は前走1着。しかし、続けて勝てるほど強くはない。馬単の2着づけでどうか」――。

 案の定というべきか、レースでは3番の馬と7番の馬が勝負の第2障害をクリアして先頭争いをしている。特に7番の勢いがいい。「やはり7番枠は走りやすかったのだ」と、ワタシはひとりほくそ笑む。

 肝心の8番の馬がなかなか来ない。後方を見ると、第2障害の上で立ち止まっている。

 最後の直線に入っても、トップを争うのは3番と7番。

「あぁ〜、ハズレたかぁ......」

 そう諦めかけたときだった。来た、来た! ばん馬にこんなスピードが出せるのか、と思うくらいのスピードで8番の馬が猛然と追い込んできた。先行した7番に、8番が追いすがる。絵に書いたような、7番→8番の馬単の出来上がりではないか!

 ところが、ところが、だ。

 8番の馬の勢いは、こちらの想像をはるかに超えていて、ついには7番の馬まで抜いて、先頭でゴールしてしまったのだ。

 配当は、馬連で4220円。馬単が7920円の高配当。「せめて馬連にしておけば......」と、ワタシは激しく後悔した。

 その後も、しつこく7番と8番の馬から買い続けたが、まるで呪われたかのように、このふたつの馬番だけは一度も連にも絡まなかった。馬券はすべて紙くずとなった。「生兵法は......」のことわざは、実はワタシに向けられたものだったかもしれない。

 帯広に着いたとき、ワタシが感じた「吉兆」なんて、ただの思い過ごしだったのだ......。

 競馬のあとは、帯広に来ると必ず寄る『北の屋台村』へ。駅から徒歩5分くらいのところにある。

 釧路の近くで獲れたという、焼き牡蠣はうまかったし、笑顔で対応してくれたお店のおねえさんも可愛かった。

 だけど、ビールの味は苦かった。

(つづく)

新山藍朗●旅人 Traveler&text by Niiyama Airo