■「夏競馬」珍道中〜北日本編(3)

 予算5万円で行く「夏競馬の旅」。

 盛岡から次の中継地となる青森には「いわて銀河鉄道」と「青い森鉄道」を乗り継いで23時05分に着いた。

 ふたつの路線とも、とてもロマンチックなネーミングだが、乗ってみればただの普通電車。松本零士さんの漫画のように、急に車体が浮き上がったりするわけではない。ただ単調に暗い闇の中を走り続ける。

 どこかで「なるほど銀河鉄道!」と思わせるような仕掛けか、サプライズは考えられないのだろうか。例えば、電飾で飾ったトンネルを作って、ワームホールを通っているような気分にさせるとか――さすがに無理かぁ......。でも、そうしたアトラクションがどこにもないのは、ちょっと残念。

 青森に着くと、そこからは午前2時発のフェリーに乗って、対岸の函館にわたる。

 もはやその時間に電車では先に行けないから、ということもあるが、わざわざフェリーを使うことにも理由はある。

 ひとつは、青森のどこかで朝まで時間を潰して、函館行きの電車(追加料金を払って新幹線)に乗るよりも、料金的におトクだということ。青森−函館間のフェリー料金は、人間のみの乗車で大人1名2000円だ。

 そしてもうひとつ、客室では電車と違って手足を存分に伸ばして眠ることができる。つまり、深夜便のフェリーは格安の旅館代わりに使えるということだ。

 ところが、ここでも予期せぬ事態が起きた。

 青森駅からフェリー乗り場までが、やたらと遠いのだ。

 そういえば、青森駅で道を教えてくれた女の子のふたり組が、「あそこに見える陸橋沿いをずっと行くんですよぉ」と言いながら、「本当に(歩いて)行くんですかぁ〜」という顔をしてクスクスと笑っていた......。

 重いキャリーバックを引きずりながら、女の子たちが指差して教えてくれた大きな陸橋にたどり着き、その道沿いをひたすら歩く。国道には車がほぼ途切れることなく通っているが、その国道沿いの歩道を歩いている人などまったくいない。その道すがら、飲み屋もなければゲームセンターもないし、深夜営業のファミリーレストランも、コンビニエンスストアさえ見当たらない。

 本当に車が通る以外、人の気配がしないのだ。

 20分歩いても、フェリー乗り場を思わせるような施設も、看板も見えてこない。30分歩いても同じ。「本当にこの道でいいのか?」――そんな自問は何度繰り返したことだろうか。

 ここでバッタリと倒れたら、「ワタシはどうなってしまうのだろう......」とも思った。その疑問や不安を振り払うため、ひたすら大声で、ゆずだの、いきものがかりだの、石川さゆりだの、思いつく限りの歌を歌った。どうせ周りには、人っ子ひとりいないのだ。

 そうして、45分ほど歩いた頃だろうか、やっとフェリーターミナルの看板らしいものが見えてきた。

 今思えば、あのときの、いわゆる"生きた心地"とでもいうのか、心底ホッとした気分は、どう言葉にすればいいかわからない。

 ともあれ、フェリーに乗った瞬間にぐったり。連絡船では思惑どおり、北の大地に着くまでぐっすりと寝られた。

 東京からここまで、野宿して、電車を都合12時間も乗り継いできた。その疲れは簡単にとれるはずもないが、3時間以上、深い眠りについたおかげで、体も、気持ちも、ずいぶんと楽になった。

 函館には、午前5時50分に着いた。

 そこから、次の目的地に考えていた、函館朝市に向かう。

 実は昨年の秋、ミルコ・デムーロ騎手にインタビューしたとき、夏に函館へ遠征した際の、うに丼ざんまいの話を聞かされていた。

「(日々の食事は)うに丼、うに丼、うに丼、たまにスープカレーで、またうに丼......。美味しかったぁ〜」

 その話を聞いたときから、ずっとうに丼を食べたいと思っていて、その念願がついに叶うのだ。が、ここでまたアクシデントが起こった。

 青森だけでなく、函館も、フェリー乗り場から朝市のあるJR函館駅付近までが遠いのだ。

 フェリー乗り場の係員に聞くと、「歩いて40〜50分くらいだね」とあっさり言われてしまった。

 次に乗る予定の、札幌行きの高速バスは午前7時15分に出る。歩いていったのでは、バスには間に合っても、うに丼が食べられない。やむを得ず、タクシーに乗った。

 料金は、1190円。盛岡競馬場に行ったときほどではないが、この臨時出費もやはり痛い。そこで、うに丼は札幌でも食べられるだろうと、急きょメニューを変更。この時期の函館の旬の味覚、イカを食べることにした。

 コリコリとして噛むと甘い。津軽海峡で獲れたイカの刺身をメインにしたイカ定食と、ビールの小グラスを一杯つけて、1380円。これにさっきのタクシー代を足すと、ちょうどうに丼と同じくらいの料金だ。

 でも、旬の函館のイカは、ウニにも負けないくらい美味しかった。

 負け惜しみの誹(そし)りを覚悟であえて言えば、イタリア人にはちょっと難しいかもしれない"日本の味"だった。

 ちなみに、この店の現在の一番人気は、鮭トロといくらのコラボ、「鮭トロ親子丼」で一杯1400円だそうだ。

(つづく)

新山藍朗●旅人 Traveler&text by Niiyama Airo