未勝利馬の行方は?

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 3歳未勝利戦を勝てなかった馬はどういう道をたどるのか。(1)地方へ移籍。この場合2勝すれば中央へ戻れる(出戻り)。(2)格上の500万円下条件に出る。とはいえ出走もままならず、もちろん相手は強い(一か八か)。(3)登録を抹消する(引退)。いずれも厳しい道だが、数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、3歳未勝利戦を勝てなかった馬たちが復活する道について解説する。

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 夏競馬の間に3歳未勝利馬をなんとかしなくてはいけません。

 それまで2着3着もあって競馬にどこか光るものがある馬は、調教を変えたり放牧に出したりと、手を替え品を替えてなんとか勝たせてやりたい。馬の能力は人間が作り変えられるような甘いものではありませんが、秘めたポテンシャルを最大限に引き出すことが調教師の仕事です。焦らず我慢強く見守り、最善の手を打たなくてはいけません。

 とにかく一度勝てば、多くのことが好転すると期待したい。そういう馬には「出戻り」が大きな選択肢の一つとなります。ダートで走れて先行力があり、小回りが得意なタイプならば、地方に出す決断をします。

 しかし、もちろん容易なことではありません。熾烈な争いです。同じような思惑の未勝利馬も当然多い。

 さらに、今の地方競馬は決して侮れない。特に南関東(大井、浦和、船橋、川崎)はレベルが高く、最初からここをめざしている骨っぽいダート血統馬が多いので、中央で勝ちきれなかった馬がここで2勝するのはたいへんなことです。

 南関に出す場合は、2勝させてすぐ戻すというより、地方にじっくりと腰を据えるという意味合いのほうが強い。賞金水準も高く、中央馬との交流戦を含めて重賞競走も年間60レースほどあります。そこで中央馬を返り討ちにするというのも痛快でしょう。

 やはり中央でこそという馬は南関を避け、北海道や園田、笠松、名古屋など、比較的勝ちやすい競馬場を視野に入れます。馬の特性を見極めて、タイミングと場所を考えてやる。生き残りをけて、舎一丸となって知恵を絞ります。

 角居厩舎はおかげさまでいまは管理馬が多くなり、一度地方に出た馬を再び戻すということが、難しくなりましたが、開業当初はいろいろやりくりしました。

 2003年3月にデビューしたアキノロマンスという牝馬は新馬戦が6着、4着で、未勝利戦が2着と3着が1回ずつ、4着3回、5着1回という惜しい競馬が続いたものの、9戦して勝てなかった。500万条件に格上挑戦させましたが、健闘したものの5着。

 そこで、園田に移籍させて翌年4月、岩田康誠騎手の手綱で待望の勝利を挙げ、同じ鞍上で連勝、出戻りを果たします。岩田騎手がデルタブルースで菊花賞を勝ってくれたのはこの半年後です。

 アキノロマンスは中央に戻ってからは500万下で2007年2月まで走り続け、中央で2勝。無事に競走生活を終えました。こういう成長の仕方もあるのです。現在は繁殖牝馬となり、産駒のアキノバレリーナ(田中剛舎)が6月の未勝利戦を勝ったようです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年7月3日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年7月22・29日号