浅野拓磨のアーセナル移籍が発表された。

 リオ五輪を前にして、彼のスケジュールは慌ただしくなった。今月17日までサンフレッチェ広島でプレーし、翌日にロンドンへ飛んでメディカルチェックなどに臨む。ただ、リオ五輪代表はロンドン経由でブラジル入りするので、ひと足先にヨーロッパで時差調整をしているぐらいの気持ちでいればいいだろう。

 英国での労働ビザ取得には、日本代表での実績が乏しい。アーセナルと正式契約を結んでも、新シーズンはオランダなどのクラブへ貸し出されるはずだ。チーム内での競争を考えても、いきなりアーセナルで勝負するには現実的ではない。

 その意味で、彼はリオ五輪に臨む新たなモチベーションを得た。手倉森誠監督のもとでチームの勝利に貢献することは、そのまま新天地へのアピールになるからだ。

 すでに発表されたリオ五輪代表のメンバーには、3人のFWが登録された。浅野、興梠慎三、久保裕也だ。

 手倉森監督は「ある程度メンバーを固める」と話している。アジア最終予選のようなターンオーバーは採用しない方針だ。

 浅野に与えられる役割とは?

 対戦相手への脅威を考えれば、ジョーカーとして起用したい。蓄積疲労から逃れられない短期決戦のなかで、彼の爆発的なスピードはゴールへ直結する武器だ。スプリントとアジリティのハイブリッドには、欧州や南米のDFをも翻弄する期待感がある。

 彼自身の未来を考えれば、スタメンでも結果を残してほしいところだ。

 手倉森監督が選んだ18人は、サイドハーフを3人まで絞り込んでいる。矢島慎也、中島翔哉、南野拓実だ。4−2−3−1を基本布陣とした場合、彼ら3人はフル稼働を強いられる。これまでどおり4−4−2に軸足を置いても、3人への負担は大きい。

 そうした状況を考慮して、指揮官はボランチの大島僚太やFW陣の2列目起用も計算に入れている。4−4−2のシステムで、浅野がサイドハーフを担うこともある。途中出場ではなくスタメンで、である。

 複数のポジションで起用され、スタメンとジョーカーでピッチに立つ──浅野の期限付き移籍に興味を持つクラブからすれば、リオ五輪はこの21歳の実力を見定める格好の機会だ。

 イングランドの名門の一員となったことで、これまで以上の注目を集めるだろう。だが、浅野は精神的に落ち着いたタイプだ。結果に一喜一憂しない冷静さがある。1月の最終予選をきっかけに“ジャガーポーズ”が全国区になり、ファンやメディアへの対応が殺到するようになったことも、高い注目度といかに向き合うかの助走となった。

 リオ五輪を経由して、浅野はどこへ向かうのか。オリンピックへの興味が、またひとつ増えた。