臨床内科専門医が教える、自炊で食あたりを予防する10の方法

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梅雨のころから、食あたりや食中毒のニュースが増えてきますが、外食店での食事が原因かと思いがちです。臨床内科専門医で正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長は、「ニュースにはなりにくいようですが、自炊の食事シーンで発生することも多く、注意が必要です」と話します。詳しく聞いてみました。

■手作りの総菜、作り置きのカレーに注意

食あたりや食中毒の原因について、正木医師は次のように説明します。

「細菌、ウイルス、自然毒、化学物質、寄生虫などが付着した食品を食べたことが原因で、激しい腹痛、下痢、おう吐、発熱などが起こった場合、医学的には『食中毒』と診断します。一般的に言われる『食あたり』とは医学用語ではありません。もっとも食中毒を起こしやすいのは肉類や魚介類、卵などの生鮮食品で、特に加熱していない料理に多く見られます」

自炊の料理でも食中毒にかかるとのことですが、具体的にどのような食べ物で起こりやすいのでしょうか。正木医師は、患者さんの事例や医学会の報告から、次の3パターンを挙げます。

(1)おにぎり、寿司、サンドイッチ、弁当、菓子などの「手作り総菜」

自分の体にある傷やニキビ、吹き出物などを触った手で調理すると、ヒトの皮ふや鼻、口に住む「黄色ブドウ球菌」が付着しやすくなります。

この菌が作る毒素は熱に強く、加熱しても食中毒を防ぐことはできません。食後30分〜6時間で、吐き気や腹痛などの症状が出ます。

(2)生卵、半熟卵のオムレツや親子丼、焼鳥など、十分に火が通っていない肉や野菜などの「加熱不足メニュー」

加熱不足は、さまざまな細菌やウイルスが原因の食中毒を引き起こします。食中毒のもととなる細菌やウイルスは、乾燥に強くて熱に弱い種類が多いので、食材の中までしっかりと火を通せば、予防できる確率が高くなります。

十分に加熱されていない卵、肉、魚は「サルモネラ菌」、肉、特に鶏肉や牛レバーは「カンピロバクター」、肉や生野菜は「O(オー)157やO(オー)111などの腸管出血性大腸菌」、カキやアサリなどの二枚貝は「ノロウイルス」にかかりやすくなります。

サルモネラ菌は、食後6時間〜48時間で、吐き気、腹痛、下痢、発熱、頭痛などの症状が、カンピロバクターは、食後2〜7日で、下痢、発熱、吐き気、腹痛、筋肉痛などの症状が出ます。腸管出血性大腸菌は、3〜5日間潜伏した後、へその下あたりから下腹部にかけての激しい腹痛、下痢、血が多くまざった下痢などの症状が出ます。潜伏期間が長いため、原因に思い当たらないこともあります。

(3)カレー、シチュー、煮物など、加熱調理後に「長時間放置されたメニュー」

時間をかけて煮こむ料理では、熱に強くて酸素を嫌う「ウェルシュ菌」が繁殖しやすくなります。ウェルシュ菌は、ヒトや動物の腸管、土壌、下水などの自然界に広く生息しています。

加熱調理時に生き残ったウェルシュ菌は、鍋の中の、酸素が少なく常温で放置されている環境で繁殖します。食後約6〜18時間、平均して10〜12時間後に、腹痛や水様性の下痢などが起こります。

■冷ましてから弁当箱に詰める、保冷剤を乗せる

では、食中毒にかからないためには、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか。

「予防の3原則は、食べ物に『つけない』、食べ物に付着しても『増やさない』、食べ物や調理器具に付着した原因菌を『やっつける』です」と指摘する正木医師は、そのために次の10のポイントを挙げます。

(1)調理前や食事前は、必ず石けんを使って手を洗う。

(2)食材を持ち帰ったら、すぐに冷蔵庫で冷やす。

(3)食材は、調理直前に冷蔵庫から出して使う。

(4)傷がある手や指で料理はしない。

(5)傷んでいる、古いかもと思う食材は使わない(捨てる)。

(6)調理の際は、殺菌を意識して十分に加熱する。

(7)おかずやごはんは、弁当箱に詰める前にしっかり冷ます。
弁当やサンドイッチ、おにぎりなどの手作りメニューを持ち歩くときのポイントは、「温度と水分」。蒸気で水分が出ると、細菌が繁殖しやすくなるため。

(8)おかずの水分でごはんが傷むのを防ぐため、ごはんとおかずは分けて詰める。

(9)持ち歩くときには保冷剤を使って低温を保ち、菌やウイルスが繁殖しにくい環境を作る。室温で2時間以上放置せず、できるべく早く食べ切るようにする。

(10)弁当や総菜を開いたときや、口にした際に違和感がある場合は、絶対に食べないで処分する。

最後に正木医師は、治療の現場からこうアドバイスを加えます。

「食中毒を経験した人はみなさん、予想をはるかに超えるおそろしい症状だと証言しています。死亡例もよくニュースになっていますが、他人ごとではありません。細菌やウイルスが体内に入ると壮絶な苦しみを味わうことになります。ぜひ、予防を心がけてください。

そして、細菌やウイルスが原因である食中毒は市販薬では治りません。少しでも体調に異変があれば、すぐに内科を受診してください」

■まとめ

手作りの温かい弁当、作り置きメニュー、傷んだ食材など、身近な食べものに食中毒の危険性が潜んでいることがわかりました。「菌をつけない、増やさない、やっつける」を意識して、調理時の加熱や弁当の詰めかたに注意したいものです。

(岩田なつき/ユンブル)

取材協力・監修:正木初美氏。日本臨床内科医会専門医、大阪府内科医会理事、日本内科学会認定医、日本医師会認定スポーツ医、日本医師会認定産業医、正木クリニック院長。
正木クリニック:大阪府大阪市生野区桃谷2-18-9
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