米陸軍が研究中の軍事用3Dプリンタ(出典:米陸軍サイト)。

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■大好きなピザを戦場でプリント

今、世界各国で3Dプリンタの軍事転用が急速に進められている。米国で研究が進められているのは、なんとピザである。日本人なら味噌・醤油、韓国人ならキムチ、茨城県民なら納豆がないと死んでしまうというが、米国人もピザがなければ顔が濡れたアンパンマンのように力が出ない。それは冗談としても、食料補給は戦力を維持するための基本である。そこで米軍は、3Dプリンタでピザやパスタなどの食事を製造しようとしているのだ。陸軍ナティック研究所では、既存の3Dプリンタに超音波調理のプログラムを組み込んだ。2025年には、前線の各兵士が望み、なおかつ各兵士のセンサーが判断した「適切な栄養素」が添付されたピザやパスタをオンデマンドで出せるようになるという。

戦場での無人機のオンデマンド生産は、これよりさらに進んでいる。陸軍調査研究所の17年度プロジェクトは、「3Dプリンタによる戦場での小型無人機作製」がテーマだ。前線の一兵士からの要請に対し、戦場で既存の部品と3Dプリンタで作製した部品を組み合わせて、戦況に応じた偵察小型無人機を製造。24時間で前線に送るシステムを実現させるという。注目すべきは、この研究の目的が単なる無人機の生産ではないことだ。将来的には戦場で3Dプリンタを使い、さまざまな装備品をカスタマイズして生産できる技術を開発しようというのである。

研究中のものばかりではない。3Dプリンタの軍事転用は、すでに各国ではじまっている。特に、製造数が少ない航空部門では導入が著しい。たとえば、米軍の次期主力戦闘機であり、わが国も導入を予定しているF-35戦闘機は、45個の部品が3Dプリンタで製造されている(技術的には、13年時点で900個が可能と評価されている)。B-52戦略爆撃機は空軍基地で補修部品を製造しており、現行のF-18戦闘攻撃機は、コックピットや冷却ダクトを中心に90もの3Dプリンタ製部品が組み込まれている。そして、今後この部品はジェットエンジン等にも拡大されていく見込みだ。

英国軍の主力戦闘機タイフーンも、車輪の保護カバー、空気吸入口の支柱などの金属部品を3Dプリンタで製造・投入している。この動きは中国軍でも同様であり、01年からチタン合金の3Dプリンタ技術に力を入れ、新型戦闘機の設計や試験の過程に幅広く応用している。最新鋭のJ-31ステルス戦闘機の着陸装置全体を含む構造部分には、3Dプリンタ製品を導入しているようだ。戦闘機部品として日常的に3Dプリンタを導入する動きは、韓国軍やポーランド軍でも進んでいる。

ミサイルの研究開発も著しい進展を見せる。米陸軍は、3Dプリンタによる対地・空ミサイル製造を目指し、すでに既製品と同性能かつ低コスト・短期間でのロケットエンジン製造に成功している。レイセオン社も、3Dプリンタを使えばミサイルのエンジンから誘導システムまでのほとんどを圧倒的な速度で製造できるとしている。

対する地上戦力の「陸の王者」といえば戦車である。ロシア軍の次期主力戦車であり、装甲部隊の70%を占める予定のT-14アルマータの金属・プラスチック部品や原型試作にも、3Dプリンタが活用されている。将来的には、チタン合金製の数メートルもの装甲パーツも製造予定であるという。

そのほかにも、砂漠の砂からガラス製品を製造できるタイプ、通常の特殊セメント製の3倍の強度を持つ避難壕をつくれるタイプなど、米軍はさまざまな3Dプリンタの開発に成功している。紹介したものはほんの一部にすぎないが、各国が3Dプリンタの軍事転用を急速に進め、すでに部隊運用・開発・研究を猛烈に実行していることがおわかりいただけただろう。これは、高い性能の維持、金型やラインが不要になることによる低コスト化、在庫管理の軽減などが期待できるからである。それにもかかわらず、兵站が極めて貧弱で離島への展開すら困難な防衛省・自衛隊では、調達・導入・研究がまったく進んでいない。今、わが国が何をすべきかは、極めて明白である。

(一般社団法人ガバナンスアーキテクト機構研究員、ウィタンアソシエイツ株式会社研究員 部谷直亮=文)