今年も2歳新馬戦が始まった。この時期にデビューできるのは、仕上がりも早く、調教も順調にいった馬ばかりだ。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、昔と比べて新馬戦が早く、面白くなった理由についてお届けする。

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 競走馬は生まれてから1歳の夏くらいまで、のんびり楽しく過ごします。そして1歳馬の秋頃、人を乗せることに慣れてくるといよいよ騎乗運動。順調ならば距離を延ばし、ペースも徐々に上げていきます。最近は牧場の調教施設も充実し、雪深い時期でも屋内坂路などで乗り込みがコンスタントにできます。

 この時期、私が注目するのは脚の振り方です。内側から外に振り出すタイプと、外から内へ脚を巻いてくるタイプがいる。馬体の中心上に脚を持っていくとスピードが出るので、脚はどうしても内向します。脚が内向きのタイプだとさらに内側に爪を巻き、故障につながりやすい。内から外へ脚を振り出す馬のほうが安全です。

 力強い動きやスピード豊かな走りを披露した馬には、輝く未来への期待が高まっていく一方で、いろいろ問題が出てくるのもこの時期。騎乗運動に入って競走馬としてのウイークポイントなども明らかになってきます。早いところを乗ると脚を痛がったり、他馬を気にして走ることに集中できなかったり、飼い葉食いが落ちて馬体の成長が見られなかったり。後戻りしてじっくりとウォーキングマシンやトレッドミルに専念する馬も多い。

 速い馬では2歳春頃にはトレセンに入厩、環境に慣れ、調教を重ねていきながら、まずはゲート試験を受けます。騎乗者に従ってゲート入りするか、しっかりゲートを出るかなどがチェックされます。競走能力と直接つながるものではありませんが、具体的なデビュー戦を検討するのも、これに合格してから。そして、順調なら6月から順次デビュー戦を迎えます。

 昔と比べて、新馬戦は「早く、面白く」なりました。競馬サイクルの位置づけが「ダービーからダービーへ」と明確化したからです。以前は北海道のみが6月、新潟や小倉は7月末から。しかも1200メートルや1000メートルのダート戦ばかりでした。クラシックを狙う馬は、夏場はゆっくりと調整していればよかった。いまは東京・阪神でも6月から1800メートルがあります。

 函館の前半は1000メートル、1200メートルが主ですが、後半には1800メートルのレースもあるし、7月後半には初めての重賞も組まれています。これだけ舞台が多彩だと、早くデビューさせて、勝たせてやりたいと意気込むわけですね。

 新馬戦のパドックは独特のにぎやかさに溢れています。馬主さんたちも、小学校の運動会を観にきた親たちのよう。馬もまだ子供っぽく、可愛い声でいなないたりします。周回もどこか落ち着きがない。

 賞金も高い新馬勝ちは大いなるステータスです。ここからクラシックへ向かう馬が誕生すると思うと、ワクワクしてきます。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。中尾謙太郎厩舎、松田国英厩舎の調教助手を経て2000年に調教師免許取得。2001年に開業、以後15年で中央GI勝利数23は歴代2位、現役では1位(2016年6月5日終了時点)。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、馬文化普及、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカ、エピファネイア、ラキシス、サンビスタなど。

※週刊ポスト2016年6月17日号