「必要な分だけ払えばいい」ジェットスターの中の人が明かす安さの秘密 - 土屋礼央の「じっくり聞くと」(第5回)
土屋:「土屋礼央のじっくり聞くと」、今回は航空会社ジェットスターのコンシューマーPRマネージャー・高橋里予さんに、LCC(ローコストキャリア/格安航空会社)についてうかがいます。よろしくお願いします。

高橋:よろしくお願いします。

土屋:ジェットスターはどういう成り立ちなんですか?

高橋:オーストラリアのカンタス航空の100%子会社で、オーストラリアでできた会社です。ジェットスターというブランドとしてフランチャイズみたいな形でいろんなところに運航会社がありまして、そのひとつが「ジェットスター・ジャパン」という別会社なんです。運航会社というのは、実際に飛行機を所有し、飛ばしている会社のことです。

例えばジェットスターは日本-ゴールドコースト間にも飛んでいるんですが、これはオーストラリアの会社の飛行機がオーストラリアから飛んできて、またオーストラリアに戻っているんです。日本はジェットスター・ジャパンという別の会社が、国内線と短距離の国際線を飛ばしています。

土屋:ジェットスターが日本の市場を狙ったのはどうしてですか。

高橋:アジアやアメリカではLCCはすでにビジネルモデルとして出来上がっていて、それがマーケットとして定着している状況だった。日本には全くLCCがなくマーケットとしてゼロ、未開の地だったわけです。

人口も多いし、島国だけれども国内も飛行機の需要はたくさんある。もちろん海外への需要もある。マーケットとしての可能性を感じたんです。

ジェットスター「片道990円」の秘密


土屋:同じ場所に行くなら少しでも安く行きたいですよね。ジェットスターがなぜ安いのか教えてもらえますか。

高橋:LCCは新しく出てきたもので、皆さんがよくご存知の大手の航空会社を「フルサービスキャリア」と呼んでいます。みなさんフルサービスキャリアさんとの違いを知りたいのでしょうが、まずはその感覚を取っ払ってもらいたいです。

フルサービスキャリアのチケットが4万円したりするのは、何に対してお金を払っていると思いますか。

土屋:燃料費とか…?

高橋:それだけなら、私たちも同じですよね。だったらなぜ差がでてくるか。

飛行機を利用する人の中には、ネットで予約して、そのままモバイルボーディングパスでさっと乗って、預けるカバンもない、機内ではすぐに寝ちゃってドリンクも必要ないという方もいらっしゃる。

その一方、チケットをとったことがないのでコールセンターに電話して20分しゃべってやっと予約する方もいる。そうすると、コールセンターの家賃や対応スタッフの人件費が発生しますね。大きな荷物を預けると飛行機が重くなりその分燃費も悪くなる、機内のドリンクを飲み放題でガンガン飲めばその分のコストもかかる。

4万円のチケットの中には、そういう自分が使わない他の人の費用も入ってるんです。

土屋:そういうことか…! 言われればそうですね。

高橋:ジェットスターの考え方は「他人のサービスの分まで払わなくていいですよ。あなたが使う分だけ払っていただければいいですから」「目的地に行きたいだけの人には安く提供します、オプションをつけたい人はその分だけ払っていただきます」。必要なものにだけ支払えばいいというものです。

土屋:フルサービスキャリアの方からしたら、運賃の内訳のネタばらしになるのでは。

高橋:でも、そういう手取り足取りのサービスを求めている方もいるのでいいんです。使わない方がより賢く旅ができるように選択肢が増えたという考え方をしていただければと思います。

土屋:実際の料金システムを教えてください。

高橋:運賃は最低運賃からスタートして、席が埋まってくるとだんだん高くなる空席連動型のシステムを採用しています。手荷物は機内持ち込みは7キロ以内、それ以上は預けていただきます。預けるにはオプション料金が必要です。座席の指定は、何もしないと勝手に割り振られます。家族で並んで座るなら、オプション料金が必要です。必要な時に必要な分だけ支払っていただきます。

土屋:ちょっと広い座席もあるんですか。

高橋:あります。エクストラ・レッグルーム・シートと言います。

土屋:それにしても、ちょっと安くしすぎじゃありませんか? 心配になるんですけど…。

高橋:先ほど、高い代金には他人のサービス料も含まれているとご説明しましたが、それは氷山の一角で、その他にもいろいろなことをしてこの安さを実現しているんです。

土屋:その企業努力がハンパないですよね。どこをカットしたらこうなるんでしょうか。

高橋:例えば飛行機を一機出発させるのには、飛行機が空港に到着してお客様と荷物を降ろし、燃料を入れ、再びお客様を乗せ、荷物を積み、トーイング(飛行機を引っ張ること)し、滑走路に出して飛ばせるわけなんですが、フルサービスキャリアさんだとこの作業に6、7人必要だと聞いています。それをジェットスターは女性だけでも「3人」でできるので、その分人件費がかからない。

というのも、実は母国オーストラリアはすごく人件費が高いんです。人件費の安い国ならどんどん手作業でやればいいんですが、ジェットスターは人件費の高い国でビジネルモデルを確立したLCCなので、どうやって人件費をかけずに効率をよくするかというノウハウを持っています。機械化、システム化、マシンを投入することで効率化しています。

ジェットスターのキャビンクルーは中でサービスするだけではなく、機内の清掃もします。清掃業者を入れたらお金がかかりますから。飛行機一機が着いてから次に出発するまでの間、30分くらいのインターバルでキャビンクルーが後ろからザーッと掃除していくんです。

他にも、ジェットスターは日本で2台しかない空港で飛行機を引っ張る特殊な車両を持っているんですが、それがリモコンで動くんですよ。

土屋:!!(絶句)

高橋:通常はその車両を運転する人と翼を見る人、さらにパイロットとやり取りする人が必要なんですが、このリモコン車両は一人がパイロットをやりとりしながら車をリモコンで操作するんです。

ショッピングモールに行くような感覚で乗って欲しい



土屋:ジェットスターの安いチケットのおかげで、行ったことがない場所に行けるようになった人はすごく多いですよね。

高橋:それがジェットスターの理念なんです、安いことによってよりたくさんの人により頻繁に飛んでいただくことができる。より多くのお客様により快適に空の旅を楽しんでもらいたい。

この「より多くのお客様に」というのが大事なところで、今まで飛行機の旅ってものすごくハードルが高いもので、一大イベントのような感じで乗る方も多かったと思うんですけど、例えば、週末に1日空いたからショッピングモールに行くとか映画を見に行く感覚で利用してもらいたいんです。特定のお客様じゃなくて、どんなお客様にも利用していただける航空会社でありたい。

土屋:オーストラリアでは、これがスタンダードなんですか。

高橋:オーストラリアでももちろん、親会社のカンタスはフルサービスキャリアで、ビジネス需要を中心に大きな飛行機を持っていて飛ばしていますし、オーストラリアでもポジショニングができています。日本でもフルサービスキャリアさんとのポジショニングはできています。

土屋:フルサービスキャリアが子会社としてLCCをやっていると、食い合っているのではないかと思ったんですが。

高橋:多少はあると思うんですが、食い合わないんです。これはちゃんとデータが出ていて、成田空港にLCCが就航して以来、国内線の空港利用者が純増しているんです。LCCが飛んだ分だけ増えているんですね。だから、既存のマーケットを取り合うのではなく、新しいマーケットを作っているんです。今まで行かなかった人、今まで一度しか行かないところに二度三度行ってもらう。そのための価格なんです。