重曹うがいでがんが治る⁉ 【写真:Getty Images】

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リバイバルでバズってる「重曹でがんが治る」



 世のニセ科学をぶった切る『おかしな科学―みんながはまる、いい話コワい話 』(楽工社)の共著者で、疑似科学バスターのロッポンギヒロユキが世間のウソを見破ります。

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 日本の平均寿命はどんどん延びて男女とも80歳以上という長寿大国になっていますが、それでもまだたくさんの人がもっと健康的になろうとして、いろいろな健康法を探し回っています。

 でも、そうやってたどり着いた健康法が正しいモノとは限りません。……というか、いつの時代も口コミで広まるのはイタい健康法ばかり、と思ったほうが確実です。 

 最近、目にするようになったものもまた、飲みかけの牛乳を思いっきり吹きだしそうなものでした。「重曹でがんが治る」……。

 そうです。台所のお掃除に使う重曹です。パンづくりに使うベーキングパウダーの主成分である重曹です。ソーダ水を作るときに使う重曹です。食べても安全な重曹でがんが治るのだったら、こんなに素晴らしいことはありません。

 でもこれ6〜7年前にもちょっと話題になって消えてったトンデモ医学のヴァリエーションですよ。というか、当初のシモンチーニ理論ではがんの部位により重曹液を経口摂取したり、点滴や静脈注射したり、浣腸したり、カテーテル挿入したりという治療法だったのですが、いつの間にか伝言ゲームになっていたらしく、「重曹うがいでがんが治る」なんていうお気楽健康法まで登場してしまっているようです。

 そりゃあ、パンのベーキングパウダーや胃腸の薬に使う重曹ですから、水に溶いてうがいしたからといって悪いことはなさそうですが……。

 そもそも「重曹でがんが治る」という説を広めたのは、イタリアのトゥーリオ・シモンチーニという“元”医師。

 なぜ“元”医師かと言えば、シモンチーニが提唱する治療法を受けた後に患者が死亡するという事件が起こり、過失致死罪と詐欺罪に問われて医師免許をはく奪されたからです。

 一部の人の説によれば、重曹でがんが治るという“真実”をバラしてしまったから、政府によって弾圧されたということになってまいますが。

 ところがシモンチーニ“元”医師、これに懲りずにオランダに拠点を移して同じ主張を続け、またしても独自療法で被害者を出す結果に。

 その後、2009年ごろには日本を標的にしたようで、日本語版ホームページをオープンするわ、国内に「シモンチーニがんセンター」の設立を宣言するわ、と、かなり積極的に打って出ていたようです。

 とはいえ、日本の医療資格を持っているわけでもなく、イタリアでは医師免許をはく奪されたシモンチーニ“元”医師ですから、ご自身で治療をするわけにもいかず、日本への本格上陸作戦はとん挫したようで、現在は日本語版ホームページも閉鎖されています(英語版のページやフェイスブックはまだ健在ですが)。

 それで消え去ってくれるならよかったのですが、そうは問屋が卸してくれなかったようで……なにしろイルミナティやレプティリアンといったか「(誰にも)見えない敵」と闘い続けるデービッド・アイクさんとか、この手の話題には必ず絡んでくるウツミ某医師とかヤマザキ女史だのミズモリなんとか氏だのというジャーナリストを名乗る人たちがシモンチーニ理論を「いいね」しまくったせいで、いまだに根強く信じている人はいるようです。

 曰く「重曹でがんが治ってしまったら、高価な抗がん剤を売りたい製薬会社や病院が困るので、圧力をかけてインチキ治療だと吹聴しているのだ!」と、いつものお約束ですね。

「がんはカンジダ感染症である!」



 ところでこのマンチーニ理論が話題を集めたのは、「重曹でがんが治る」というお手軽健康法ノリの治療法だけではありません。とにかくブッ飛んで……いや、オリジナリティが高いのががんの原因説。マンチーニ“元”医師によれば、がんはカンジダの感染が原因で起こるのだというところです。

 カンジダといわゆる酵母の一種で、ヒトの皮膚や粘膜にも常在する真菌のこと。体調が悪いと日和見感染を引き起こすこともあり、中でも有名なのはカンジダ膣炎(性器カンジダ症)でしょう。

 女性がこれにかかるとカッテージチーズ状のオリモノが出たりしますし、性交渉で男性にうつってしまうこともあるので、膣の病気だからといって男性も無関係ではいられません。

 モンチーニ“元”医師によれば、これがすべてのがんのこのカンジダが原因だというわけです。

 なぜそんな大胆な説が生まれたかと言えば、「がん細胞は白い、カンジダも白い、ゆえにがんはカンジダだ!」という見事な三段論法による推論の結果とのこと。大胆すぎて、開いた口がふさがりません(がん細胞は白いと決まったわけじゃありませんし)。

 そして「がん細胞は酸性の環境が好き、酸性はアルカリ性で中和される、ゆえに弱アルカリ性の重曹でがんは退治できる!」というさらに大胆な展開があったのでしょう。

 こうして重曹ががん細胞を中和する(?)というシモンチーニ療法は完成したのでした。

 重曹は炭酸水素ナトリウムという化学物質で、胃腸の酸を抑える医薬品としても使われています。ベーキングパウダーの主成分なので副作用もあまりないでしょう。

 とはいえ、量が過ぎれば副作用も出るだろうし、腎臓や心肺機能に障害のある人は症状が悪化するおそれもあるわけなんですが、そのあたりはほとんど顧みていないようです。

トンデモは連鎖する――重曹は怖い、イーストも怖いの行きつく先は



 一般に安心・安全な食品成分とされる重曹ですが、食品添加物にこだわる一部の人たちの中にはやっぱり危険だと考えている人もいるようです。

 あるオーガニック食品の通販サイトには、「無添加商品の危険な添加物」というページで「ベーキングパウダー」を挙げ、その成分である「炭酸水素ナトリウム(重曹)」について、「人間の推定致死量は200〜300gであり、毒性は『弱い』です」とわざわざ説明しています。

 通常、重曹だけを200gも食べる人はいないでしょう。それでも、毒性が「弱い」と強調するのは、重曹やベーキングパウダーも絶対安心の食品成分ではないということを言いたいがため。その上で、「もし心配な場合は、代わりに「ドライイースト」を使ってみてはいかがでしょうか」とオススメしています。

 というわけで、ここで、「カンジダ <重曹 <ドライイースト」という序列が出てまいりました。では、ドライイーストが完璧なのかと言えばさに非ず。ネットを探ってみると、「ドライイーストはからだに悪い!」という方たちが少なからずいらっしゃいます。なんだか話が連鎖してますね。

 正確にはイーストとは酵母のことで、ドライイーストとは工場などの管理された環境で培養された酵母を乾燥したもの。

 実は、「からだに悪い」とされるのは乾燥酵母ではなく、この酵母が活動するときの栄養源となるイーストフードとされています。その成分は塩化アンモニウム、塩化マグネシウムなどで、食品添加物嫌いな人たちからはとことん目のかたきにされています。

 では、イーストフードが添加されたドライイーストよりもいいのは何かといえば、最終的には「天然酵母」ということになります。

 こだわりのパン屋さんでよく見かけるアレです。「天然」というからには、衛生管理の行き届いた施設で培養されたのではなく、その辺で自然に繁殖していた酵母ということ。
 
 つまり農作物に付着していたりキッチンの片隅で生息している真菌のことでしょうか?おっと、ひとつ大事なものを忘れていました。

 人のからだに常在する天然の酵母……そう、カンジダですね。

 つまり、重曹よりも、ドライイーストよりもからだにいいのは、カンジダということになります。ここでついに「カンジダ <重曹 <ドライイースト <天然酵母=カンジダ」ということになり、ぐるっと回って元通り、連鎖の輪が閉じてしまいました。

 私たち人類は、カンジダ感染によるがんの恐怖から逃れられないことになってしまいます。一体どうしてくれるんですか、シモンチーニ“元”医師!

※ちなみに、人のカラダに常在するカンジダから膣内を守ってくれるのがデーデルライン桿菌という常在菌。こちらは乳酸菌の一種で、膣内を酸性に保ってくれます。重曹は関係ありません。

取材・文 ロッポンギ ヒロユキ